お店や施設の住人のお話　〇きぬよ＆あさみ３〇

〇きぬよ＆あさみ〇
エピソード３「お金にうるさいたぬきち」

【１話】
きぬよ：ふー…
あ、カンニンね
ご用は何かしら？
ホントイヤやわー たぬきちさんったら、
いっつもお金のコトしか言わへんのやから…
○○さん？
ウチらにとっては笑い事じゃないんよ？
あの人の取り立て、ホンマにキビしくって…
期限を過ぎたら「時は金なりだなも!」…だし、
お金のコトとなるとビタ１ベルもマケてくれへんし…
おとなりさんで商売しとるんやから、
ウチらがどんだけ忙しいかちょっとは考えてくれてもよさそうなもんやのにー!

あさみ：たぬきちさん今でもあの頃の事を引きずっているんやろね…
何とかしてあげたいのはやまやまやけど、
あたし、一体どうしたらええんやろ…
え？
ええ…
あたしとたぬきちさんは幼馴染やったから、
あの人の事なら子どもの頃からもう何でも知ってるんですよ
最近はちょっとばかし疎遠になってしまいましたけど…
これでもあたし、むかしはたぬきちさんの事、
実の兄のように慕っていたんです…


【２話】
きぬよ：ふー…
あ、カンニンね
ご用は何かしら？
もう…たぬきちさんにはホンマ、参っちゃいます
あの人のお金へのシュウチャクは分かってたつもりでしたけど、
まさかこれほど酷かったなんて…
こないだね、ウチとおねーちゃんでケーキを焼いたんやけど、
おとなりのたぬきちさんのトコロにもおすそ分けを持って行ったんよ
そしたらたぬきちさん、…なんて言ったと思う？
「このケーキにボクはいくら払えばイイんだも？」…だって!
ウチ、もうあきれ果てて、なんも言えへんかったわ!

あさみ：あたしとたぬきちさんが幼馴染やったって事はお話しましたけど、
実はねぇ、それだけじゃないの
子どもの頃からあたしたちお互いユメを語り合った仲だったんよ…
幼いころのたぬきちさん、口ぐせみたいに言ってたんですよ
「せかいいちおっきなおみせをつくるんだも」って
ふふふ、そういうのってなんだかんだ言って、
いつまでも変わらないんよね
エ？
イヤやわ、○○さん…あたしのユメですか？
そんなん聞いたって面白くもなんともありませんよ…
……
あたしのユメ…「かわいいおようふくでむらをいっぱいにしたい」
あーっ!!
…言ってしもた
ハズカシイわぁ…こんなコト、他の人には言わんといてくださいね


【３話】
きぬよ：ふー…
あ、カンニンね
ご用は何かしら？
なぁ、○○さん
たぬきちさんってば、ユメのない人やと思わへん？
こないだたまたまお店の前でたぬきちさんに会ったんで、
ちょっとばかしお話してみたんですけど、
ウチが、「お店繁盛しててけっこうなコトですね」ゆーたら
…あの人、なんてゆーたと思います？
「ボクのお店は大きいから繁盛するのは当たり前だなも!
世の中結局、お金を持ってるとこが勝つんだも」…ですって!
そりゃユメだけじゃ生きていかれへんかもしれんけど…
ウチは世の中、お金だけでもないって思うんよね!

あさみ：あ、○○さん
…こないだのお話は忘れてくださいね
イヤやわ、あたしとたぬきちさんの子どもの頃の話ですよ!
思えばあの頃が二人とも一番ムジャキでいられた頃やったわ…
うん…成長したたぬきちさんは、
都会で成功するというユメを追い、村を出て行ってしまって、
あたしの方では、両親に先立たれて、
それどころじゃなくなってしまったものやから…
きぬちゃんの世話をしながらお店を切り盛りしていくだけで精いっぱいでね
あの頃のあたしにもう少しだけ余裕があったら、
…なーんて、今さら考えてもしょーがない事なんやけどね


【４話】
きぬよ：ふー…
あ、カンニンね
ご用は何かしら？
たぬきちさんとおねーちゃんって、幼馴染だったらしいんよ
そりゃ二人ともこの村の出身やから、ありえないコトではないけど、
それにしてはいつもよそよそしいというかなんというか…
二人の間に昔なんかあったのかしら??
おねーちゃんもいつもたぬきちさんに気とか使ってないで、
１回ガツンと言ってやったらいいのに…

あさみ：○○さん
…こないだのたぬきちさんとあたしのお話ですけど、
あれだけ喋ってしまった事ですし、最後まで言ってしまいますね
たぬきちさんが都会で成功するというユメを抱いて、
△△村を出てから数年が経って…
あたしはきぬちゃんを育てながら、
なんとかお店を切り盛りしていたんですけど、
ある日…たぬきちさんが何の前ぶれもなく村に帰って来たんです
たぬきちさん…ボロボロに疲れきっていました
そんなあの人をあたし、精いっぱい元気づけようとしたんですけど、
「ユメなんて…所詮お金の力にはかなわないんだなも」
たぬきちさんはそう繰り返すばっかりで…
…そんな風にして、たぬきちさんとあたしは疎遠になっていって、
時が経つと共にたぬきちさんには笑顔が戻ってきたんやけど、
でも…あたし…
一見明るさを取り戻したかに見えるたぬきちさんの心の中に、
今もあの時の蟠りが残っている気がしてならないんです…
きぬちゃんは小さかったから
昔のたぬきちさんのコトは知らないんですけどね