◆市川　大樹


——６年前

　夜の神社で友達とじゃれ合う中、幾多もある綺麗な星が散らばっている夜空と共にふわっと粉雪が降ってくる。粉雪は僕の頬にそっと触れるとすぐに溶け、ひやっとする雫へと変わった。でも、心は何だか温かくなってくるな。

◆内藤　修哉

　なんだか寒くなってきた。もう冬の季節になるのかな。そう思うと段々と憂鬱になってくる。クラスメイトの奴らもその寒さに文句ばっかり言っているが、俺はその中でも特に冬が嫌いだと断言できる。いや……冬と言うよりかは雪と言ったほうがいいのかな。

——忌々しい記憶しか蘇らない

　それが理由だ。今は高校生だが小学校の頃に仲が良かった奴らとは未だに連絡を取っている。しかし、それでもあの神社だけには二度と行きたくない。あそこには俺のトラウマの全てがあるからだ。あそこだけには行きたくない——

「修哉くん。ホームルーム終わったら一緒に帰ろー？」

　何となく窓の外を見つめている俺に話しかけてきた。彼女の名前は佐藤伊津子という。何かよく分からないが、孤立している俺に話しかけて来る。別に孤立したままでいいんだけどな。だが、彼女が余りにもしつこい訳で仕方なく一緒に帰ったりはしている。伊津子が嫌いというわけじゃないんだが……

◆秋山　竜輔

「お子さんを最後に見たのは何時くらいでしょうか？」
「昨日、学校に行ったのを見送った後です。確かその頃は7時10分でした」

　どうやら事件が起きたらしい。今、話をしている池田幸人によると、彼の娘である池田春奈が失踪したらしい。昨日に学校に彼女を見送ってから、夜明けになっても帰ってこないから警察に通報したようだが、『夜遊びをするなんて考えられないほど良い子』という幸人の話を聞いてみるとその判断にも確かに頷ける。問題はそんなに良い子が今何処にいるかだ。俺はこの警察署で刑事として彼から事情聴取をしているが、誘拐事件である可能性は高いと見ていいだろう。
　暫く経って事情聴取が終わると、強面の刑事が部屋の外で待ち構えていた。名前は福岡和成だっけか。俺の事を何かと敵視して来る厄介な奴だ。

「どうしたんだ？そんな怖い顔して。何か俺にご不満でもあるんでしょうかね」
「不満も何もお前が気にいらねぇだけだ。人の手柄を次々と奪いやがって……そんなに人をドン底に突き落として、自分だけのし上がるのがお楽しみなのか？」
「今のは本音か？だったら失笑ものだね。そもそも俺は手柄を奪った覚えなんてない。俺はお前らよりも一足先に動いているだけだ。それを“奪った”なんて言われるのは心外だな」

　俺がそう言ってやると、福岡は歯を食いしばりながら黙り込んだ。もうなにも言えなさそうだったのでこの場を立ち去ろうとすると、福岡は「待て！」と叫んだのでゆっくりと足を止めた。

「だったら、今度は俺がお前の手柄を取ってやるよ」
「そうですか。頑張ってくださいね」

　その一言の後に俺は再び脚を動かす——文句しか言えない奴なんて俺の眼中にいれるまでも無い……ただ、こいつがどんな取り乱しをするのかを考えるとひたすら面倒な気持ちになってくる。

◆内藤　修哉

　伊津子と共に人通りの少ない小道を歩く——聞こえるのは向こうにある通りを次々と走っているであろう車の音のみだ。
　伊津子は次々と俺に対して話題を振ってくるが、俺は無視はしないものの、敢えて詰まらない返事ばかりを返した。その理由は当然、これ以上関わって欲しくないからだ。だがそれでも、彼女は負けじと次々と話題を振ってくる。彼女はどうやってそんなに話のネタを持ってくるんだろうか……
　勿論、俺からは一切話を持ち込まない。毎日がこれの繰り返しだ。何で彼女はこんなに俺に構ってくるんだろう……

——何だか思った以上に寒い。耳が凍りそうだ。俺は悴んだ手で耳を包み込むように暖める。