蛇雅理故さんのプロフィール画像

蛇雅理故

DQM ~天才科学者の血を継ぐ者~

雑談

レス:260

  • 蛇雅理故さんのプロフィール画像

    蛇雅理故 No.15335392 

    引用

    エイデスの劣勢は続いていく。

    斧を振るえばそれは容易く受け止められ、蹴りをいれようとしてみればそれはひらりとかわされてしまう。

    シドッグの意識は極めて鮮明、冷静にエイデスの出方を伺いながら試合を展開している。

    対してエイデスは、ひどく濁った意識。

    動きは鈍く、アームは微妙に震え、思うように威力が出ない。

    ……本来、攻撃とは、心頭滅却して雑念を絶つことで最大限に威力を発揮するもの。

    勿論、そうは言ってもそれを完全に絶つのは、例え機械でもほぼ不可能なので、最大限の80%が出せるコンディションが一般論において理想とされている。

    だが、今のエイデスの力の出力量は、80%とは程遠い。

    だったら60%?55?それとも40?

    ……とんでもない。

    ……『30%』だ。

    全体の10分の3。理想の8分の3。

    その値が極めて低いことは、言わずとも分かってくれるだろう。

    エイデスのネガティブな精神状態がそうさせているのだ。

    仲間の居ない、孤独の寂しさ。

    そんな悲しき想いを、機械ながらもエイデスは背負いながら戦っている。

    そりゃ、集中もできるはずがない。

    おまけに、シドッグはナメコのサポートもあって確実にそのアドバンテージを稼いでいる。

    今、シドッグはエイデスを圧倒的に牽制し尽くしていた。

    こうして互いに殴り合いをしている最中でも、シドッグは常にエイデスの隙を突いている。

    例えば、シドッグがエイデスの頭に殴りかかろうとすれば、エイデスは反射的にその打撃を受け止めようとする。

    だがその代わり、胴体などの他の部位の守りは極端に疎かになる。

    そこをシドッグは突いていくのだ。

    勿論、いつものエイデスなら、敵の攻撃がフェイクである可能性も考慮して上手に防御するのだが……如何せん、現状が現状なのでどうにも上手く頭が回らないようだ。

    殴られれば殴られる程朦朧としていくエイデスの意識。

    そして……その末。



    「うぉりゃあ!」



    「ングゥッ!」



    ……ついに。



    「グハッ……」



    ……エイデスの視界が、真っ暗になった。



    「……オレハ、モウ……」



    「……ダメ、ナノ……カ?」



    ……エイデスは今、漆黒でなにも無い空間で漂っている。

    ゆらりゆらりとまるで、水に浮かぶ水死体のように。

    ガガガ……ガガガ……ピー、と、コンピュータの電源が落ちる直前のような音がその無の空間の中で鳴っていた。

    これからエイデスは、冥界へと旅立つ。

    いつか生き返るその日まで。

    悠久の時を、冥府にて……。



    「……」



    タッ……タッ……もう一つの音が聴こえる。

    これは、エイデスの音ではない。

    生物の……。

    ……地を歩む、足の音だ。

    何者かが、こちらに迫っているのか?

    もしや死神?

    ……俺の。

    ……オレノタマシイヲ。

    ウバオウト……シテイルノカ。

    ……スマナイ。

    カイ……。



    「まだこっち来んナァ!!」



    「ガッ!?」



    ……ナンダ、ナンダ!?

    ナニガ、オコッタ!?

    エイデスは、驚天動地の衝動に突如として駆られた。

    暗闇の中、たった一人と思っていたその空間に、死神ではなく……。

    ……聞き慣れた、仲間の声が響いた。

    そして、今その声の主は、エイデスの背中を必死で抑えている。

    冥界に召される……オレノ、タマシイ、ゴト。

    ソノモノ……ハ。

    マギレモ、ナイ。



    「……ジョー……」



    「オマエ……ナノ、カ……!?」
  • 蛇雅理故さんのプロフィール画像

    蛇雅理故 No.15345101 

    引用

    今、エイデスとジョーが漂っているこの真っ黒な空間こそが、俗に言う『三途の川』というものではないのだろうか。

    勿論、そこに水が流れているわけではなく、まん丸とした綺麗な小石が積まれているでもなく、川らしい要素は一切ないが。

    だがそこは、確かなる『生死の分かれ目』を象徴するかのような『無の黒』で塗り潰されていた。

    また不思議な点はもう一つあった。

    この空間は、例えるならば灯りの点っていない真夜中の部屋のように超漆黒な環境であるのだが。

    それにも関わらずエイデスの姿は、その暗がりに染まってはいない。

    現実世界ならば、影などの暗いところに居れば自身の体も暗くなるのが自然というもの。

    だが、この三途の川ではその法則は無いらしく、エイデス達の姿だけが不自然にもハッキリと写っているのだ。

    まさしくその様子は、『三途の川』たる神秘の所以といえるであろう。

    ……そして。

    その三途の川で、今、エイデスはジョーに背中を押されていた。

    冥界に向かうその背中を、食い止められるかのように。

    『まだこっちに来るな』。

    そのジョーの言葉が、エイデスの頭には強く残っていた……。



    「ド……ドウシテ、ココニ、オマエガ」



    エイデスはジョーに問う。

    するとジョーは、エイデスの背中を押さえながらイライラした面立ちでその問いに答えた。



    「アァ……?てめぇが性懲りもなく此方に来ようとしているからだろうがァ……!」



    此方?と、エイデスは頭上にハテナを浮かべる。

    そしてその数秒後のこと。

    エイデスははっと気付いた。

    『此方』という言葉が指す意味……もとい、場所が何なのかを。

    この真っ暗な、『三途の川』のことだ。

    『死んだはずの』ジョーがここに居ることで、エイデスは改めて確信した。

    ここは間違いなく、現世とは切り離された世界だと。

    今まさに、自分は生死の境界線に立っているのだと。

    そしてそこで自分は、奇妙にも、仲間の亡霊に背中を押されている。

    ……その光景は、言葉で表すなら摩訶不思議、奇想天外。

    いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。

    ……というか、そもそもそんなことは今はどうだっていい。

    問題なのは、なぜジョーが『エイデスを拒んでいるのか』ということだ。

    その理由を仄めかす発言として彼は、『まだ此方へ来るな』とエイデスにハッキリ言っている。

    しかし、エイデスはその発言こそが最大の謎に感じた。

    なぜならエイデスは、もうすっかり『自分が死んだこと』を受け入れていたからだ。

    死んだのならば、あるべきところへ魂が逝くのは当然だと、エイデスはコンピュータ上で認識している。

    それ故エイデスは、ジョーの……まるで、自分を招かざる客のように追い払おうとする行動に、理解と納得ができないでいた。

    ……そして、ついに。



    「ナゼ、オマエハ、コンナ、コトヲ?」



    ……ついに、エイデスは我慢できずにジョーに尋ねた。

    なぜ、自分を追い返そうとするのか……と。

    その問いに、ジョーは……。

    ……こう、返事した。



    「てめぇは……まだ……」



    「死んでねぇ……から……だ……!」



    「……!!」



    ……エイデスの内蔵コンピュータがビビッと反応した瞬間であった。

    ……『死んでいない』。

    そう告げられた、この瞬間こそが。

    エイデスは再び、現在の状況把握が追い付かなくなってしまった……。
  • 蛇雅理故さんのプロフィール画像

    蛇雅理故 No.15355690 

    引用

    「シンデ……イナイ?」



    ……それが、ジョーがエイデスを拒む理由らしい。

    思考の螺旋階段を必死で登り下りするエイデスだが、『死んでいない』という言葉の意味だけにはどうにもたどり着けないでいた。

    その言葉をジョーに告げられるまでエイデスは、『自分は死んだ』と彼自身で思っていた。

    あの、憎きシドッグの絶え間無い連撃によって無念にも死んだ……と。

    しかし、ジョーは言った。

    『死んでいない』と。

    それは、エイデス自身の認識と確信に対しての完全な反例であった。

    死んだと思っていた。『だが』死んでいない。という。

    しかしエイデスは、その死んでいないというジョーの主張にある矛盾点に気付いた。

    死んでいないのならば、『オレハココニイルワケナイ』……と。

    確かに、今エイデス達が立っているここが三途の川なのならば、生きている者がそこに居るのは様々な道理や摂理に悖っているというもの。

    まさに矛盾である。

    『三途の川』と『生存者』という二つの単語は、全く相容れない、一切共存が出来ない、完全な不可侵の関係にあるのだから。

    これについてエイデスはジョーに問いただした。



    「モシ、オレガ、イキテイル、ノ、ナラバ」



    「オレハ、ココニ、イナイ、ハズダ」



    エイデスからの質問は留まるところを知らない。

    先程から彼らの会話はこんなQ&Aばかりである。

    だがジョーは、そんな質問ばかりしているエイデスにイラつく様子は特に見せず。

    未だなおエイデスの背中を押しながら、冷静に彼の問いに答えた……。



    「いいか……よく聞け」



    「お前は今、仮死状態だ」



    『仮死状態』。

    それが、今のエイデスの身体に起こっている現象の本質であった。

    つまり、『生命活動を失った生命』である。

    現世でエイデスは、シドッグにボコられたことによって、コンピュータの中枢であるメインコンピュータがぽっくりイカれてしまっているが……。

    だが、だからといってまだ完全にシャットダウンしたわけではない。

    メインコンピュータ以外の小さな機関が、彼の生命……というか、電源を辛うじて保っている。

    それが、今のエイデスの現状だ。

    壊れたのか壊れていないのかよく分からないこの状況こそ、確かに、紛うこと無く『仮死状態』と呼ぶに相応しいと言えるだろう。

    それに『仮死状態』ならば、この三途の川に居ることも説明できる。

    『仮死状態』は、まさに『生死の境界線』そのものなのだから。

    三途の川との関連性は非常に高い。

    今までずっとエイデスの思考回路に引っ掛かっていたあの疑念も、すっかりほどけてしまった。

    辻褄が合った瞬間というのは実に気持ちの良いもので、エイデスはこんな状況ながらも苦笑を溢した。

    だが、そんなエイデスにジョーは……。



    「笑ってんじゃねぇよ……!」



    威圧の念を込めて、エイデスを押す自身の拳をぎゅっと強く握りしめた。

    その感触からエイデスは、少し真面目にならないといけないと察して、瞬時に笑みを止めて再び気を引き締める。

    機械なので冷や汗は出ないが、その悪寒だけは確かに、鮮明に味わえたようだ。

    とにもかくにも、今考えるべきは、この危機をどのようにして乗り越えていくかということ。

    このままここにいつまでも居たんじゃ、ホントに現世のエイデスはシドッグに壊されてしまう。

    それだけは阻止しないと。

    ……と、そこへジョーが一つの案を出した……。
  • 蛇雅理故さんのプロフィール画像

    蛇雅理故 No.15356332 

    引用

    「……ホンキデ、デキルト、オモッテ、イルノカ?ソンナ、コト」



    「やって貰わなきゃ困るっつの……」



    エイデスはジョーの作戦に不満を示した。

    どうやら、その作戦は結構な難易度の作戦らしい。

    概ねの内容はこうだ。

    まず、エイデスの意識を現世に戻す。

    次にシドッグの攻撃を受け止める。

    そして最後に、大技を決めて勝利。

    大分ざっくりにまとめたが、実はこの3つの手順……。

    ……どれをとっても、非常に難しい。

    例えば最初の手順。

    意識を現世に戻す方法そのものに関しては、ジョーは知っているから大丈夫なのだが……。

    問題なのはその後だ。

    今までエイデスは意識を現実から断ってきたが、当然ながら、その間にもシドッグはこれでもかというくらい多量かつ強い打撃をエイデスに加えている。

    機械に痛覚は無いが、故障した際には体がかっと熱くなったような感触がするし、ショートした際には、ビリビリと体内の電流が迸って自身のコンピュータを掻き回すのだ。

    その感覚が突然、復活した自分の身にいっぺんに降りかかったらどうなると思う?

    最悪の場合、その極限のショックが原因で、死に至ってしまうかもしれない。

    なので、意識を戻すということをやるからには相当のリスクを覚悟しなくてはならないのだ。

    2番目の手順にしたってそう。

    先述のエイデスの身に降りかかるとんでもない負荷に耐えながら、シドッグの攻撃を受け止めろ……なんて、無謀以外の何物でもない。

    成功率は極端に低いといえる。

    最後の手順に至っては完全に運の領域だ。

    ここで言う『大技』とは、もう少しでエイデスが習得できる、ある技のことを指している。

    それが見事決まれば、大逆転勝利間違いなし。

    だが、決まらなければその地点で詰みだ。

    やる気の皆無なアカツキに全てを託すしかない。

    ……とまぁ、そんなこんなで、この作戦を無事やり遂げるのはとてつもなく難しいのである。

    しかし、エイデスは理解していた。

    『カツタメニハ、ヤルシカナイ』と。

    これを成功させなければ、『怠い』とか抜かした惰性のアカツキにバトンを渡さなくてはならないという屈辱的なイベントが待っているし……。

    それに……。

    なによりも……。

    ……自分を創ってくれた、あの少年に。

    ……どんな顔をして生き返れば良いのか、分からなくなってしまう。

    勿論、彼なら快くエイデスやジョーを笑顔で受け入れてくれるだろうが。

    しかしそれでもエイデスは、このまま負ける訳にはいかないと、強く自分の決意を心中で強調した。

    自分には『誇り』がある。……と。

    『誇り』があるから、自分は負けられない……と。

    いや、『負けられない』というよりかは、『負けない』……と。

    エイデスは覚悟を決めた。

    ジョーの作戦に従うという、仲間を強く信じようとする心の強い表れのもとで。

    これから自分におそいかかってくるであろう凄まじい衝撃にだって耐えてみせる。

    シドッグの攻撃も軽く制止させてみせる。

    そして……大技だって、決めてみせる。

    この3つの信念は、やがて……。

    あの世と現世とを時空を越えて往来する機械の、最高の原動力となる!



    「……いってこい……!」



    そのジョーの言葉と共に、ついに、エイデスの背中が強く押し出された!

    ジョーの拳とエイデスの背中が離れた瞬間である。

    そして、やっと冥界から方向を変えたエイデスが次に向かったのは……!

    ……真っ黒空間の天井から、突如として差し込んできた、天の光の如し極光だった!

    あの光が意味するのは、そう!

    現世の太陽である!

    ついに仮死状態から復活を遂げる時が来たのだ!

    例えその瞬間、どんな凄絶な衝撃がエイデスを襲おうとも……!



    「グッ……ッッッ!!?」



    ジョーと交わした約束を果たすため……耐えるッ!

    踏ん張る!

    力の限りだ!

    歯を食いしばれッ!

    感じ取れるだろ?

    自分の創造主の……海覇の、悲痛な表情を……。

    それは間違いなく、エイデスの為だけに向けられた表情だ。

    エイデスはこれ以上、海覇にそんな顔をさせる、訳にはいかない。

    海覇の頭脳の粋たる……マシンとして!



    「……グッ……クソォ!」



    ダメだ。

    弱音なんて吐いている暇なんか、何処にもありはしない。

    今度は受け止めるんだ。

    見極めろッ!



    「……!」



    「イマダッ!」



    ガシッ!……という、確かなる手応えが腕で感じとれた!

    右手だった。

    右手の拳に、シドッグの拳が握られていた!

    成功だ!



    「なん……だとォ!? 」



    驚いてる、驚いてる。

    先程まで散々殴ってきた癖に、いざ止められるとすげぇ形相で焦ってやんの。とエイデスは心の隅で嘲笑った。

    ……さぁ。

    いよいよ、最後の工程だ。

    これで全てを終わらせてやる……。

    エイデスはその情炎を胸に、この一撃に全てをかけるのだ。

    エイデスはもう孤独ではない。

    例えアカツキが居てくれなくたっていいじゃないか。

    海覇は自分のことを見守っててくれる。

    そして……。

    あの世ではジョーも、自分を見守っててくれていることが分かった。

    『死んだ魔物にそういったことを求めるのは間違い』……そう思い込んでいた自分の固定概念をものの見事に打ち壊してくれ彼は、間違いなくエイデスの勇気となったであろう。

    そう。

    立ち向かう、勇気にだ。

    エイデス。

    ……今こそ、あの『大技』を決める時だ!

    調子に乗ったあの犬野郎に鉄槌を下すのだ!

    今まで俺が奴から受けた仕打ち……全て、倍返しにしてやるぞ!

    遂げろ復讐、巻き起こせ、奇跡!

    斧を振り回すその衝動に、殺意の闇と希望の光の両方が絡み合う!

    憎しみに身を焦がし、そして運命を手にしたいと強く願う時、自らの心の底から湧き出てくるこの激情!

    自分でも抑制できない強き輝きを放つそれは、みるみるうちに俺の心へと呼び掛ける!

    そして導くのだ。

    俺を、あの境地へ……!

    ……これで。

    終わりだ!



    「『カウンター・オブ・ミラクルソード』ォォォォォ!!」
  • 蛇雅理故さんのプロフィール画像

    蛇雅理故 No.15364636 

    引用

    編集中
  • 蛇雅理故さんのプロフィール画像

    蛇雅理故 No.15365161 

    引用

    「ぐはぁぁぁぁ!!」



    「ッッッ!!!!」



    シドッグとナメコは、そのかつてない超絶的な破壊力に、完膚無きまでに打ちのめされた。

    二匹が天空に叫ぶは命の咆哮。

    それはまるで、彼らの心臓が心の底から悲鳴をあげているようにも聴こえた。



    「シドッグ!ナメコちゃんっ!」



    優衣は必死で彼らに呼び掛けたが、最早時すでに遅しであった。

    シドッグのナメコの全身からは、禍々しい怨念の黒煙と障気が立ち込めていた。

    それは、羅刹の復讐鬼の呪い。

    呪いが彼らの命を食い潰すと同時に、それは綺麗に浄化され……。

    ……彼らとは対照的に、神々しい光を纏ったエイデスの血肉となってゆくのだ。

    これこそが、『カウンター・オブ・ミラクルソード』の真価。

    やがて呪いがシドッグ達の生命を最後まで搾り取ると。

    シドッグとナメコにまとわりついていた呪いの闇は消え失せ……。



    「…………ガハッ」



    「…………」



    ……何もかも奪われたシドッグとナメコは、瞬く間に灰となって崩れ去ってしまった……。

    ……この世には、時として『世界で唯一の必殺技』が誕生することがある。

    古の記録によるとそれは、我流を究め、熟練し、そして最高潮に激情を高ぶらせた戦士のみが初めて発現することができるという。

    エイデスの放った『カウンター・オブ・ミラクルソード』も、その中の一つだ。

    エイデスは、ルビー広場における連戦という連戦で、自身のミラクルソードを積極的に使うことで確実に精錬していき、飛躍的な火力増強に努めてきた。

    そして、この大会でも。

    この試合に至るまで、全ての試合でエイデスは最低2回はミラクルソードを使っていた。

    全ては、『この技』を編み出す為に。

    エイデスが『カウンター・オブ・ミラクルソード』を考え付いたのは、初めてジョーと戦ったあの日の夜のことであった。

    ミラクルソードを覚えたその日の夜とも言える。

    その時彼は、自分のコンピュータの頭脳をフル回転させ、どうにかこのミラクルソードを応用できないかと思索した。

    そしてその最終的な結論は、簡単にいうと以下の通りであった。

    『ダメージ量と回復量は比例するようだから、とにかく火力を高めればその分回復量も増えて、強力な必殺技になるのでは?』

    しかしその次にエイデスはこう考えた。

    『だがそれだけではいけない、確実に相手にそれを当てることができる方法も考慮しないと』

    そこでエイデスはある一つの特技に目をつけた。

    『カウンター』だ。

    相手の攻撃を、受け止めたり避けたりなどの手段で無効化した後、相手にできた一瞬の隙を突いて
    攻めるこの特技。

    これなら、相手の攻撃に依存するとはいえ、確実に相手に攻撃が当たる。

    これと『ミラクルソード』を合体させれば……!

    ……そんなエイデスの、ユニークな発想によって産まれたのが、この、『カウンター・オブ・ミラクルソード』……と、いうわけだ。

    そして今。

    エイデスはついに、念願のこの技を。

    この正念場で、解き放つことができた!

    なんでかって?

    エイデスはいつだって忘れていなかったからさ。

    小さな努力も、積み重ねていけばやがてそれは大いなる実を結実するということを。

    そして、エイデスは思い出せたから。

    海覇やジョーという、かけがえの無い仲間が居たことを。

    ……自分は、孤独なんかじゃないということを。

    ……そうだ。

    あともう一つだけあった。

    それは、今もエイデスの、履歴という名の記憶に残っている言葉である。

    一見その言葉はいい加減に見えるかもしれないけど、本当はとっても意味深くて、そして突然元気が湧いてきてしまう言葉。

    ……あなたたちは、覚えているだろうか。

    もし聞き覚えがあるのなら、是非とも追憶して欲しい。

    もし忘れたのなら、是非とも思い出して欲しい。



    「根拠のない自信を持て」。



    ……そう。

    一回戦が始まる前、海覇の母・邦江が放ったあの一言である。

    この言葉があったから、エイデスは……。

    ……『全ての覚悟を決めることができた』のだ。

    意識を現世に戻す覚悟、衝撃に耐える覚悟、そしてカウンター・オブ・ミラクルソードを見事に決めてみせるという覚悟。

    それらは全て、邦江の言葉なしでは全く成り立たなかったものであったらしい。

    なぜなら、彼の覚悟を強く突き動かしたのは、他の何でもなく、その根拠のない自信だったからだ。

    もしその自信に根拠があったのなら、間違いなくエイデスはどこかでその覚悟を踏み留まってしまったであろう。

    『やはり俺にはこんなことできない』と。

    しかし、その自信に根拠が無いのなら話は別。

    根拠が無ければ当然、自分の胸の内から湧き上がる自信の根拠を探す必要も、証明する必要も皆無だからだ。

    頭で考えるということが必要で無くなれば、残りのエネルギーは余さず技の発動に費やすことができる。

    つまり、根拠の無い自信の有無こそが、今回の試合のターニングポイントとなったというわけだ。

    もしこの世に勝利の女神が居るとするならば、その微笑みはきっと海覇達に向けられていたことだろう。

    ……長かった準決勝第二試合。

    その勝者は……!



    「勝者!」



    「海覇選手ーーーッッッ!!!」
  • 蛇雅理故さんのプロフィール画像

    蛇雅理故 No.15374387 

    引用

    長かった準決勝第二試合に、ついに終止符が打たれた。

    勝者は、海覇率いる精鋭達である!



    「……うぅ~~!」



    海覇とエイデスは、これでもかというくらい大きく息を吸い込んで……!



    「やったぁぁぁぁっ!!」



    「オッ、シャァ!!」



    そしてそれを一気に吐き出すかのように、歓喜を叫んだ!

    同時に彼らが無意識に掲げた両腕は、輝かしい栄光の光を湛えていた。

    勇ましき戦いを繰り広げた魔物達と、常に最善を尽くしたマスター達に、観客達は絶大な拍手を贈る。

    冬の冷たい空も、今だけは常夏の島のように暖かい……そんな気が、した。



    「……負けちゃった」



    優衣が言った。

    海覇への限りない拍手喝采の音が絶えない中で、一人ぽつりと。

    石化し灰となって、風に吹かれて散り散りになってしまうシドッグとナメコの残骸を最後まで見届けた優衣は、泣きそうになってしまった。

    涙袋から今にも溢れ出そうな、清らかな雫。

    しかし優衣はそれを抑えようとした。

    なんとか止めなくちゃ……と。

    大勢の前で、泣くわけにはいかない……と。

    泣くなら、もっと人の居ないところで……と。

    そして次に優衣は思った。

    涙よりも見せなくてはならないものがある……と。

    それは……。



    「海覇くんっ!」



    「?」



    「……試合、ありがとうございましたっ!」



    ……得意の、とびきりの笑顔!

    優衣は、敗北の悔しさを全く感じさせない、これ以上にないスマイルを海覇に届けた。

    この、あまりに純粋で満面な笑みに、海覇は思わず……。



    「……ははっ!こちらこそありがとう!」



    ……吹き出してしまった。

    この娘は、俺に対してどれだけの勇気をくれるんだろう……と。

    一滴の涙も見せず、一切表情も濁さず、この娘は心から祝福してくれた。

    ……そんな優衣ちゃんが、俺はーーー。

    ……少年は、想いを胸に閉じた。

    …………

    ……





    ……時は、海覇達が待合室へ戻った後に進んだ。

    とっくに彼らは開場から出払ったというのに、未だ観客達の盛り上がりは衰えるところを知らない様子。



    「海覇ー!優衣ちゃーん!最高の戦いだったわー!」



    海覇の母・邦江も海覇と優衣を賛美した。

    手を大きく振って。

    また、海覇と優衣の担任であるこの男……。



    「……すげぇなあいつら」



    ……井手先生も、邦江ほどではないが彼らに感服した。

    腕を組ながら、遠目にリングを見つめる井手先生。

    そんな彼は今、ある問題に着手していた。

    井手先生の目の前には、ある一人の少年が居た……。



    「……お前もあいつらを見習ったらどうだ?」



    「亜州人」



    ……亜州人。

    聞き覚えのある名前だ。

    そう。

    一回戦における、粗暴な言葉遣いに定評のある優衣の対戦相手である。

    亜州人と井手先生は今、どうやら何かの話をしているようだ。

    場所は、人気の無い校庭の隅っこ。



    「……へっ、あの女負けてやんの、ざまぁ」



    この男も全くブレない。

    だが井手先生は、そんな彼の態度に眉間一つ歪めることなく亜州人に話を続けた。



    「……お前の度重なる暴言は、PTAからどれだけの苦言と怒りが呈されていると思う?」



    「……さぁな」



    亜州人はあくまで悪びれない。



    「……俺はPTAは嫌いだ、だが今回ばかりはPTAに加担する」



    「下手したら亜州人、お前に隔離施設行きの処分を下さなくてはならなくなるかもしれないのだぞ」



    ……児童に対してこんな重い発言をしてしまう自分自身のに、若干嫌気がさす井手先生。

    井手先生は確かに厳しい先生だが、それと同時に児童の気持ちを親身になって考えることのできる先生でもあるのだ。

    だがそんな井手先生の、親御心にも似た心遣いも無視して、亜州人は……。



    「……構わん」



    ……自分の身を売るような発言をした。

    その言動にに井手先生は……。



    「……馬鹿野郎!」



    「……!?」



    ……凄まじい剣幕で、亜州人に怒鳴った!

    轟いた怒号に、何人かの観客は声の源はどこかとあたりを見回したが、すぐに首を元に戻した。

    だが、その圧倒的な声量の一喝を至近距離で受けた亜州人は、あまりの迫力にたじたじになってしまった……。

    井手先生は言葉を続けた。

    それは、井手先生が亜州人に対してこの場で最後に述べる言葉である。

    井手先生は、かつてない程に真剣な表情で、亜州人に伝えた……。



    「……お前にある任務を果たして貰う」



    「これを完遂すれば、お前の処分はナシになるそうだ」



    「……なん、だと?」



    …………

    ……





    場所は変わって、選手達の待合室。

    試合の一部始終をしかとその目で見届けた竜己と周麻美達は、観客と同様に、彼らに拍手した。



    「いやー、凄かったなお前達の試合!」



    「どちらも計算され尽くされた作戦だったと思う!」



    竜己と周麻美の賞賛において、勝ち負けの事など一切含まれていなかった。

    その他大勢のそれには結構含まれていたが。竜己と周麻美だけは、勝敗ではなく試合の充実度を重視して見ていたようである。

    海覇と優衣は、そんな二人に嬉しさとやりがいを感じた。

    試合して戦って、心から良かったと思える瞬間であったからである。

    どちらが勝ちであれ負けであれ、まず自分達が全力で戦ったことを認めて褒めてくれる。

    そんな友こそが、自分の心の支えになってくれるものだ。

    良き友を持った、と海覇と優衣は二人して染々と感じた……。

    ……そんな、少年らしいとも少年らしくないともいえる会話の最中。

    突然……。



    「……竜己君」



    ……竜己を呼ぶ者の声が、した。



    「……!」



    その声に、竜己一人だけが気付いた。

    自分の名を呼ぶ声というものは、どんなにその声量が小さくてもなんとなく感付くものである。

    そして竜己はその呼び掛けに……。



    「……ちょっと席はずすわ」



    「?……分かった」



    ……声で答えず、直接会って応答することにした。

    勿論、自分を呼び掛るその声が聞き覚えの無いものなら無視しているところだが……。

    ……実は、海覇はその声を聞いたことがあるのだ。

    しかもほんの数日前。

    比較的新鮮な記憶である。

    なので、竜己は呼び掛けに応えることにした。

    とりあえず竜己は海覇に一言言って、待合室を後にした。

    そして外へ出ると、そこには……。

    ……見覚えのある声の主が現れた。

    それも、竜己にとってはとても印象深い人物であった。

    その者は、数日前、闘技場にて竜己と激戦を繰り広げた、海のモンスターの使い手。

    竜己のモンスターマスター史上有数の実力者。

    心優しき性格であり、堅実な戦い方を好む、落ち着いた面立ちの少年だ。

    その少年の名は……。



    「……祐太じゃないか!」
  • 蛇雅理故さんのプロフィール画像

    蛇雅理故 No.15384717 

    引用

    ……竜己のかつての強敵、祐太が姿を現した。

    今回、彼は魔物を連れていないようだが、何やら訳あってここに来た様子。

    とりあえず竜己は、彼の話を聞くことにした。



    「一体どうしたんだ?」



    竜己が祐太に問う。

    それに対し祐太は、深刻な表情を浮かべながら、少し間を置いて答えた。



    「……竜己君、ある人から君に頼みがあるんだ」



    「言いにくい、ことなんだが……」



    「……次の試合を棄権して、今すぐ僕と一緒に来て欲しい」



    ……祐太のその言葉を聞いた瞬間、竜己は衝撃のあまり……。



    「……え!?」



    ……頓狂な声と表情を、無意識に浮かばせてしまった。

    『試合を棄権しろ』

    『自分と来て欲しい』

    ……あまりにも唐突なことで、正直のところ竜己は、祐太の真意が全く掴めず、何が何だか分からないでいた。

    竜己は暫くの間、沈黙と愕然を繰り返す。

    その後、再び口を動かした……。



    「ちょ、ちょっと待ってくれ」



    「俺も、お前の頼みなら聞いてやりたいところだが……」



    「残念だが、流石に試合の棄権まではできない」



    「次は俺と海覇の大事な試合なんだぞ」



    竜己はこの場でハッキリと、祐太の頼みを断る旨の返答をした。

    なぜなら竜己は、初めて海覇と試合ができる機会を逃したくなかったからである。

    竜己にとって海覇は親友も同然の幼馴染み。

    互いに心を許しあえる仲なのだ。

    そんな親友が、最近になって自分と同じモンスターマスターになり、成長し、そして今日、決勝戦で相見えることが実現しようとしている。

    実に青春を感じさせる運命の手繰りあわせだ。

    このチャンスだけは逃せない。

    それが、竜己の考えだ。

    そしてその考えを、祐太は……。



    「……勿論、それについては僕も重々把握している」



    ……どうやら、理解していたようだ。

    自分でも、唐突に試合を棄権しろなどというのはあまりに突拍子の無い発言だったと感じた様子。

    しかしそれでも祐太は、その発言の理由を、竜己に分かるように説明しなかった。

    いや……『説明できなかった』という方が正しいか。

    祐太は、今すぐ竜己を連れてこなくてはいけない理由については、人気が少しでもあるようなところでは絶対に秘匿するようにと、ある者から告げられている。

    ある者とは、祐太に竜己を連れてくるように頼んだ人物のことだ。

    もしその秘匿情報をどこかで吐露して、それを誰か悪い奴に聞かれたら……。

    ……さもなくば、国家の存亡にかかる。

    ある者は、祐太にこの言葉を告げて祐太を出向かせた。

    よって、祐太はここでは理由を話すことはできない。

    なので祐太は、代わりに……。



    「……冷静に考えてくれ竜己君」



    「君はともかくとして、海覇君……だったか」



    「その子は度重なる連戦ですっかり身も心もズタボロじゃないか」



    「どうせ戦うなら、わざわざ次の試合に拘らずとも、また後日に、お互いフルパワーの全力でやりあった方が良い気もするが……」



    ……最もらしい理屈で丸め込む作戦に出た。

    流石にこれはすぐバレる……そう思いながらも祐太は、この作戦に駆けた。

    それ以外に方法が無いからである。

    ……しかし、やはりこれではダメだろう。

    しまった僕としたことが、もっとバレないような理屈を言わなくては逆効果であろう。

    もしこれで呆れられてみろ、もう僕の話になんて付き合ってくれなくな……。



    「……それもそうか!」



    ……る?

    あれ?

    もしかして……。

    ……竜己君って、案外馬鹿?
  • 蛇雅理故さんのプロフィール画像

    蛇雅理故 No.15395535 

    引用

    ……というわけで、話はまとまった。

    竜己はこの事を海覇やヒジカタ達に伝えるべく、再び待合室に戻った……。

    ……そして。

    竜己は一通り、彼らに事情を説明した。

    さっき、久しぶりに祐太と会ったこと。

    突然の急用で、試合を棄権せざるを得なくなったこと。

    並びに先程までの祐太との滑稽な……ゲフンゲフン、真剣な会話の内容も、概ね伝えた。

    勿論、そんな話を聞いた直後では、全員何が何だか訳も分からず、色々と竜己にうるさく問い詰めたが……。

    竜己が落ち着いて言葉を続けていくごとに、海覇達はその意味を飲み込んでいった……。

    そして、竜己の説明が全て終わった頃には、皆、話の内容に納得は出来ていないが、理解はできたようであった……。



    「……なんか、色々と上手く丸め込まれた感あるけど……」



    海覇が口を切る。



    「でもまぁ、俺も竜己とはフルで戦いたいし」



    「分かった!あの番長みたいなのは俺に任せて!」



    海覇は竜己の棄権を認めると共に、勇ましく、番長……即ち『葉津也』との決戦に強い意思を示した。

    どうやら海覇は、これまでの激戦で経験を積み、それで少しは臆病な所が治ってきているようである。

    最初に葉津也をモンスターショップの中から窓越しで遠目に見ていたあの時は、あんなに恐がってて全然穏やかではなかったというのに。

    これもまた、人にとって大切な自尊心が彼の中で着々と育まれている証拠といえよう。

    ……と、海覇の成長が感じられる発言が海覇自身から発せられたが。

    その発言に、若干傷付いた者が一人。



    「……海覇君……それって」



    「私とは別にフルで戦わなくても良いってこと……?」



    ……優衣であった。



    「え!?」



    その優衣の言葉に海覇は、先程の自分の発言に語弊があったと思い、慌ててその弁明を図った……。



    「な、何を言うんだ!そんなわけないでしょ!」



    「俺は優衣ちゃんともめい一杯全力で……『フル』で戦いたいしっ」



    「というか第一、さっきの準決勝なんて俺達の『フル』を絵にかいた様な試合だったじゃないかっ!」



    海覇は必死に優衣の誤解を解こうと試みた。

    その時の彼の頬には2、3粒の汗が冬であるにも関わらずつたっていて、そこから彼の必死さ具合が伺える。実に滑稽だ。

    どんだけ優衣に嫌われたくないのかと。

    すると優衣は、そんな彼の心を知ってか知らずか……。



    「……ふふっ」



    ……と、吹き出した。

    その瞬間、海覇のさっきまでのひどく焦った表情が一転。

    きょとんとした表情となった。

    それと同時に、彼の弁明も止まった。

    そして優衣は、微笑みながら海覇にこう言った。



    「……冗談だよ!びっくりした?」



    「……へっ?」



    ……『冗談』?

    え……えっ?

    それを聞いて突然おどおどとしはじめる海覇。

    優衣はその滑稽な姿に笑いが込み上げつつも、なんとか抑えて話を続けた。



    「……えへへ、少しでも海覇君の気持ちが和らげばと思って」



    そして優衣はてへぺろ⭐と言わんばかりに舌を出して、小悪魔感を醸し出しながらウィンクした。なんてあざといんだ。

    もしこの場に亜州人が居たのなら、間違いなく、ありとあらゆる暴言が無数に飛んできたであろう。

    まぁ余談はさておいて、海覇はそんな優衣の仕草に思わず……。



    「……もう!このこの~っ!」



    ……戯れに、優衣の両肩をぽかぽかと叩き始めた。

    それに応戦するかのように、優衣も海覇のぽかぽか攻撃を笑いながら手で遮る。

    きゃっきゃウフフとはまさにこの事だ。



    (イチャイチャしやがって……)



    (こんなことで本当に葉津也君と渡り合えるのかしら……)



    (……カイハサマ)



    (……ハジ、サラシ、メ)



    ……一同、呆れ返って何も言えなくなってしまった……。

    …………

    ……





    ……その後。



    「……それじゃ、俺達はもう行くぞ」



    竜己が、ヒジカタとブリザーを代表して口を切った。

    海覇達はこれに無言で頷く。

    いよいよ、この『天空小学校最強決定戦トーナメント』も終わりの時が近づいてきた……。

    その実感を、この場にいる全員が改めて実感した。

    泣いても笑っても、これが最後なのである。

    その最後の全てを、竜己から託された海覇は………


    ……今。



    「…………」



    ……とても『モンスターマスターらしい』表情で、竜己を見送ろうとしていた。

    その様子をみるとどうやら、彼の中で決心は既に固まったようである。

    アカツキとエイデスも準備万端だ。

    また優衣達も、これから繰り広げられようとしている決勝戦をこの目でしかと目に焼き付けるという覚悟が出来たようだ。

    もう、何一つとして思い残すことは彼らには無かった。

    皆、それぞれの意思と想いに従って、これから先の未来を確かめに行くのである……。



    「……頑張れよっ、海覇!そして、アカツキとエイデスっ!」



    ヒジカタから激励のメッセージが贈られてきた。

    またブリザーも同様に、海覇達にエールを送った。



    「……私達の分も頑張ってきて欲しい」



    「……少なくとも」



    「……お前達に殺されたナメコさんの分までなァ……!」



    ……弟子を殺された怨念を二十文に含有して。



    「……はは」



    ……海覇達は言葉に困るしか無かった……。



    「……海覇」



    「ん?」



    ……最後に、竜己から。

    海覇に、言葉を……。



    「……絶対に勝ってくれ」



    「約束だぞ」



    ……『約束』。

    竜己はそう言った。

    これこそが、最後に竜己が海覇宛に綴った言葉であった。

    海覇はその意味と真意を……。

    ……念入りに、念入りに味わって、吟味して。

    ……ゆっくりと、飲み込んだ。

    そして次の瞬間、海覇は決心した。

    ……この試合。

    絶対に、勝利をもぎ取ってみせると……!

    いざ!

    最終決戦へ……!
  • 蛇雅理故さんのプロフィール画像

    蛇雅理故 No.15405000 

    引用

    海覇は待合室を後にすると、一歩一歩の自分の足音を、一つとして聞きそびれることなく進んでいった。

    なぜなら、これからこの大会の主催者であり、『東京の荒くれ童子』の異名を取る小学生番長……葉津也との対面をする『者』という自覚を彼は強く握りしめていたからだ。

    突然試合を棄権せざるを得なくなってしまった竜己達や、負けたその時にまで笑顔を絶やさず、自分を祝ってくれた優衣の意思を継いで。

    そして、何よりも。

    ……知らず知らずのうちに葉津也の人質となってしまった生徒達の為に。

    海覇は『自分は勝たなくてはならない者』として、リングに君臨する覚悟を強固に固めた。

    勿論、アカツキやエイデスも同様。

    エイデスも、新たなる技『カウンター・オブ・ミラクルソード』を手にして、更なる進化と成長を遂げた戦いっぷりが期待できる。

    マスター、モンスター共に、戦意の高揚は十分だ……!

    ……そして。

    ついに、いつもの下駄箱へ足を進めた海覇達一行。

    すると裏方のお姉さんが、不思議そうな面立ちで海覇に問いかけた。



    「あれ?竜己君は?」



    「実は……」



    ……海覇は、竜己が棄権したという事とその理由について簡潔に述べた。

    その話を聞いてお姉さんはええっ!?と驚いて、参ったなと言わんばかりに髪の毛をかきむしる。

    その仕草の可愛さに、海覇は若干ドキッとなったが、自分の使命を思い出した途端にすぐさま自分の煩悩を振り払って、再びキリッと顔を構えた。

    そんな自問自答が海覇の頭の中で繰り広げられていた事などお姉さんは露知らず、その後お姉さんは海覇にこう言った。



    「……困ったなぁ、実は葉津也く……さんは竜己君との試合を……」



    「……その」



    だがお姉さんの言葉はここで切れた。

    察しのいい人なら気付くとは思うが、これは海覇に気を遣ったためである。

    もしあのまま言葉が続けていれば、きっと海覇のプライドを傷つけてしまうだろうと。

    だが、そんなお姉さんの心遣いも虚しく、海覇はお姉さんの言いたかったことを察した。



    「……っ」



    海覇は一瞬言葉を詰まらせてしまった。だが……。

    ……挫けはしなかった。

    なぜならもう、そんなこととっくのとうに分かっていたからだ。

    あの時、窓越しからは竜己と葉津也の会話も聞こえていた。

    だから、葉津也は最初から竜己しか眼中に無いということは、その地点でなんと無く気付いていた。

    だが、今になって改めてそれを言われると、やはり心にグサッと刺さるものがある。

    結局自分は、葉津也にとっては『紛い物』でしかない……ということだ。

    しかし、ただそれだけである。

    何も悔しい事など無い。

    寧ろ、奴の鼻を明かすという楽しみが出来たというものだ。

    海覇はあくまで、戦う意思を曲げなかった……!

    ……すると。

    向こうの方から、段々と足音が近付いてくるのが聞こえてきた。

    海覇達一行とお姉さんは、その音に耳を澄ませる。

    ズシン……ズシンという鈍重な音が響いていた。

    校舎の床も徐に揺れていく。

    海覇達はその不気味な現象に、無意識の内に警戒体制へと入らされていた。

    彼らの生物としての危険察知本能がビンビン、そしてドンドン活発になってゆく。

    そしてそれが最高潮に達したその時だった。

    足音の主が、姿を現したのは。

    薄暗い校舎の影に紛れる紺色の学ランを着込んだ、子供とは思えぬくらい超巨大な肉体を誇る男。

    その表情は非常に凶悪で、鍛え上げられた筋肉が更にそれを際立ている。

    この男は、日本の首都・東京ではこう呼ばれていた……。

    ……『東京の荒くれ童子』と。

    彼はまさにその異名に相応しい容姿、そして中身を兼ね備えた番長だ。

    ……そう。

    彼こそが、今回の事件の全ての元凶……!



    「……は……」



    「葉津也……!」



    ……その者である!!
  • 蛇雅理故さんのプロフィール画像

    蛇雅理故 No.15414135 

    引用

    東京の荒くれ童子・葉津也が、ついに海覇達の前に姿を現した。

    海覇達の目線の先に居るその番長は、恐ろしい覇気を放っていて、とてつもない凶悪で邪悪な存在感を誇示していた。

    その圧倒的なでの迫力と威圧感に海覇は、今まさに押し潰されそうになっていた……。



    「……っ」



    海覇はなんとか自分の意識を強く持ち、これを振り払おうとしたが、それでも番長の重圧は抑制されず、そのまま容赦なく無情に彼を襲う。

    平静なんてとても保てない。

    この重苦しい雰囲気と陰湿な影に満ちた校舎にこうして立っているだけでも、甚大な圧力に苛まれるのだ。

    このゾッとする様な感覚を海覇は抑えることができず、自然と冷や汗が彼のの頭からポタポタと滴って流れ落ちていく……。

    そして同時に海覇は思い出した。

    あの時、葉津也と初めて対面したにも関わらずその殺気に全く圧されることなく彼を牽制した……竜己のことを。



    (あの時の竜己は、こんな怪物みたいな奴と面と向かっても全く動じなかったんだよな……)



    海覇は改めて、竜己のモンスターマスターとしての誇りや威厳、実力は、自分を含めた他の誰よりも遥かに格が違うということを実感した。

    なにせ、こんな優に2mはあろうかという巨体を持つ番長を目の前にして平然としていられる訳であるのだから。

    所謂、『肝っ玉』というものである。

    彼の心には、どんな時にも動じない精神と、何者も恐れない勇気ある心が備わっているのだ。

    対して海覇は、葉津也にこうして目線を合わせているだけでも相当の労力を使っている。

    それは、葉津也への過剰な警戒心と、海覇の心身に未だ残っている未熟な精神が原因であった。

    海覇はやっと宿敵・葉津也と対面することが叶ったというのに、恐怖のあまりその場で立ち尽くすことしができないでいた……。

    ……すると。



    「……オィ」



    「……っ!」



    その姿を見かねた葉津也が、唐突に海覇に話しかけた。

    まるで電波の悪いラジオのように酷く濁りきったダミ声は、より一層海覇の恐怖心を焚き付ける。

    そしてその瞬間海覇は、自分の全身に鮮明な悪寒が迸ったのを感じた。

    鳥肌がビンビンに立ち、さながら風邪を引いたかのような寒気が海覇の精神を刷り削っていく……。

    ……葉津也は言葉を続けた。



    「……言っとくが、俺はお前が相手でも構わないぜェ?」
  • 蛇雅理故さんのプロフィール画像

    蛇雅理故 No.15422100 

    引用

    海覇は、その葉津也の言葉に一瞬動きと思考を停めた。

    『俺はお前でも良い』。

    葉津也の口から言い放たれたそれは、海覇の『思い込み』を大きく覆した。

    『葉津也は俺の事などまるで眼中に無い』……という思い込みを、根本から……。

    ……それから2秒程経った頃。

    海覇はやっと意識を取り戻し、今の現状を把握した。

    だが……。



    「……それ、どういうこと……だ? 」



    ……それでも未だ、葉津也が『お前でも良い』と言った理由まではどうにも理解できない様子……。

    そんな海覇が問うと、葉津也はこう答えた。



    「そのまんまの意味だよォ!」



    「っ!?」



    ……その瞬間、突如として轟音が響き渡った。

    海覇は、稲妻のように強く鳴った爆音に慌てて眼と耳を塞いだ。

    しかし咆哮は、海覇の鼓膜を大きく揺るがし、その余韻の如く、耳鳴りがピー……と海覇の耳で響いている。

    涙が出そうになるくらい、耳が痛い。

    まるで頭が掻き回されるかのような感覚だ。

    葉津也と一緒の空気を吸っているだけでも、凄まじいプレッシャーでこんなに精神が圧迫されてちるというのに、その上耳障りな耳鳴りまで。

    とにかく、自分の神経が酷く狂ってしまう。

    だが葉津也はそんな海覇を気にすることなく、話を続けた……。



    「……今までの戦い、しっかり見てたぜェ!!」



    ぐっ!



    「お前はァ!中々見込みがあるモンスターマスターだァッ!!」



    ぐあっ!



    「俺との戦いを前にして逃げ出した竜己など、最早微塵の興味も無いッ!!」



    ンゴォ!



    「確か海覇とか言ったよなァ!!」



    「貴様に、俺と殺り合う権利をくれてやろォォォォゥッ!!!!」



    だぁぁぁ!!

    もう我慢できない!



    「お前、ちょっとは静かに喋れないのかァァァァ!!」



    ……はぁ……はぁ……。

    ……海覇は、自分の心の根底から煮えたぎる怒りに身を任せて、葉津也に憤怒を叫んだ。

    そしてしばし訪れる、静寂の時間……。

    ……その後で海覇は気付いた。

    さっき自分がやったことの……。

    ……身の程知らずさを。

    ……やってしまった。

    それが、海覇の頭の中で真っ先に浮かんだ日本語だった……。



    (ま……まずい、つい……!)



    (葉津也に向かって怒鳴り散らしてしまった……!)



    ……『もしかして、俺……殺される?』

    海覇の運命や如何に……!?
  • 蛇雅理故さんのプロフィール画像

    蛇雅理故 No.15433455 

    引用

    ……海覇の怒号は、一瞬にしてこの場を凍りつかせた。

    『葉津也に歯向かった』……からだ。

    葉津也の発する、五月蝿くて耳にキーンとくる騒音の如し大声に海覇はついに耐えかね……。

    ……やってしまったのだった。

    反省なんてしてる心の余裕は無い。

    海覇は、今非常に焦っていた。



    (まずいまずいまずい……なんで怒鳴ったりしたんだ)



    (もしこれが奴を怒らせるきっかけになったら……)



    (……俺、殺される!)



    ……葉津也は『東京の荒くれ童子』の異名を持つ、恐ろしい番長だということを忘れてはならない。

    彼は、モンスターマスターとしての実力もさることながら、その屈強なる肉体から察することができるように……。

    格闘技の達人でもあるのだ。

    俗にいう、喧嘩上等。

    今まで数えきれない程の沢山の悪漢共を屠ってきたその拳には、痛々しくも逞しい傷跡が数多く刻まれている。

    そこんとこ夜露死苦……って、馬鹿なこと言っている場合では無い。

    とにかく、そんな凶暴で且つ豪然な奴を怒らせたらどんなことになるか分かったものではない。

    しかし、海覇は怒らせる火種を蒔いてしまった……。

    今この場に流れている静寂が過ぎ去ったその時が、海覇の運命……即ち生死の分かれ目である……!



    「……オィ」



    「はひっ!」



    海覇がだらしない頓狂な声で答えた瞬間……。



    「……やっぱお前ェ!!見込みあるぜェェェェ!!!!」



    ぎゃああああああ!!!

    痛い痛い痛い!耳が痛い!

    ……あれ?でも……



    「……ふぇ?」



    その葉津也の言葉に、思わず海覇は間抜けで女々しい声を出してしまった。

    ……『見込みアリ?』

    葉津也は続けた。



    「あんな風に俺に怒鳴った野郎はお前だけだァ!!」



    「良い度胸してるぜェ!!!!」



    ……この人、もしかして熱血漢?

    暴虐なばかりの人間だと思っていたけど……そういう良い所もあるのかな。

    海覇は、耳を塞ぎながらもそう思った。

    だが……。

    その次の葉津也の言葉がこうであった。



    「フハハハハァ!!」



    「殺し甲斐があるってもんだぜェ!!!!」



    ……海覇は、脳内で素早く前言撤回した ……。



    「オイ、アイツノ、ミミザワリナ、サケビゴエ、ナントカナランノカ」



    エイデスは、アカツキに耳元でそう言った 。

    それにアカツキが答える。



    「……ソレヲイウナラ、オマエノノイズオンモタイガイダゾ」



    ……『ノイズ音も大概耳障り』。

    アカツキにそう言われ、エイデスは地味に傷付き、落ち込んでしまった……。

    そんな、滑稽なムードが場で流れている中。

    裏方のお姉さんから、ついに。

    海覇達が一番に待ちわびた言葉が放たれた……!



    「……あっ!」



    「もう試合の時間ですっ!急いでくださいっ!」



    ……そう。

    ついに!

    ついに……!

    ……時が満ちたのだ!

    海覇達ははっと思い出したかのように後ろへ振り向く。

    すると、彼らの表情は……。



    「……!」



    ……刹那に。



    「……いよいよだなァ!!」



    ……戦士の顔付きとなった。

    葉津也は狂戦士の如く、戦が始まることに喜び。

    対して海覇は特攻兵の様に、戦闘が始動することに戦慄した。

    葉津也は敵の魔物の命を刈り取ることに悦を感じているが、海覇は自分の魔物を如何に傷付けないかに重きを置いて思考を巡らせている。

    そんな対極的な人格の彼らがこうして隣り合わせにいるこの状態は、まるでコインの表と裏だ。

    表が海覇で、裏が葉津也。

    表を引けば希望がもたらされるが、裏を引けば絶望が呼び覚まされる。

    だがコインとは違って、どちらが出るかは運次第ではない。

    どちらが出るか……即ち、彼らの闘いの勝敗は。

    ……運も含めた『実力』によって左右される!

    さぁ!

    いざ進む時が来たのだ!

    海覇よ!



    「……よしっ!」



    「皆……」



    「行くぞォ!」



    ……勝利を掴んでこい!



    「オオッ!!」
  • 蛇雅理故さんのプロフィール画像

    蛇雅理故 No.15444460 

    引用

    ……ついに、海覇、アカツキ、エイデス、そして葉津也の4人が……。

    玄関から下駄箱に注ぐ光を、背後の逆光の影と共に潜り抜けて……。

    そして……!

    観客や優衣達の待つ、リングへと姿を現した!

    その瞬間、凄まじい熱気がたちこめ、黄色い声が会場に響いた!



    「ワァァァァァ!!」



    これまた、大音量の歓声である。

    ある者は試合開始が待ちきれずに身を乗り出し、ある者は酒に酔いながら試合を肴にしようとしていた。

    各々が最高の気分でこの試合を見届けようとしているのだ。

    勿論、海覇の母親である邦江も……。



    「うぃー!ひっく!」



    「海覇ー!負けんじゃねーぞぉ!」



    ……いつの間にか大分出来上がってはいたが、愛する息子の晴れ舞台ということで盛り上がりは最高潮の様であった。



    「……もう、母さん」



    海覇はそんな母の姿を見て、少しばかり辱しめを受けたような気持ちになったが……。



    「……ありがとう」



    それでも、自分を応援してくれてる母に感謝した。

    ……そして。

    待合室にて自分を見守っててくれているであろう……。

    ……優衣にも。



    「……優衣ちゃん」



    「……俺、絶対に勝つよ……!」



    その、勝利への志望を胸に秘め、海覇はついに。

    ……運命のリングへと、上がった!
  • 蛇雅理故さんのプロフィール画像

    蛇雅理故 No.15457851 

    引用

    ふと海覇が空に目をやると、そこには……。

    ……橙色の、夕焼けが広がっていた。

    空に色を染められたうろこ雲の間隙から見えてくる果てしなき暮れの天空。

    その幻想的な情景に、海覇は……。



    「……」



    ……さながら、勝利の女神がこの決戦の為に用意してくれた最高の演出の様に見えた。

    なにせ今日は、冬にしては妙に日が落ちるのが遅い。

    まるで、天気がこの時をずっと待ちわびていたかのような……。

    ……そんな不思議な、そして非科学的な衝動に駆られつつも海覇は、少しの余韻に浸ることもなく目線を葉津也に戻した……。

    ……すると。



    「オィ!」



    葉津也が突然口を開いた。

    そしてその次に、こう言った。

    それは、海覇にとって衝撃の一言であった……。



    「オリザァ!!」



    「こいつのモンスター一体をいきかえらせてやれェ!!!」



    ……『生き返らせてやれ』。

    その言葉を聞いて海覇は……。



    「……!」



    ……またしても、頓狂な表情となってしまった。

    ……そして。

    それは、観客達や、待合室に居る優衣も同じであった……。



    「……」



    「……えっ?」



    「どういうこと?」


    ……数々の疑問詞と、多数の沈黙が一瞬にして会場を覆った……。

    だが、それも当然である。

    なぜなら。

    今までは、そういった回復系や蘇生系は運営側では一切行わない、完全サバイバル勝ち抜き戦であったからだ。

    それが今になって、突然その決まりが破られようとしているのだから、観客や海覇達が混乱してしまうのも無理は無い。

    勿論、海覇はこの事について葉津也に問いただした……。



    「突然どうしたんだ……?」



    その様子は若干弱腰で、怯えているのが見て取れるが、葉津也は全く気にせず、その海覇の問いに答えた……。



    「……俺もよォ!一戦終わるごとに魔物の体力や命を全快させようかと思ったんだがなァ!!」



    「頭のかてぇオリザがそれに反対しやがったからなァ……!!」



    「だからァ!『俺と戦う直前のみ、蘇生と体力の回復を行う』……という事になった訳ダァ!!」



    ……つまり話をまとめるとこうだ。

    葉津也は元々は、一戦終わるごとに全快の方式で大会を開くつもりであった。

    しかし、オリザがそれに反対したので……。

    葉津也は、『葉津也と戦う直前のみ全快』というルールを改めて設定した……ということらしい。

    確かに理解は出来るが、腑に落ちない点が一つある。

    それは……。



    「……なんで、そのオリザ……さんは、反対なんてしたんだ?」



    ……その理由が分からない。

    海覇はこれに疑問を抱き、再び葉津也に問いかけたが……。



    「んなこと俺が知るかァ!!」



    ……一蹴されてしまった。

    ……すると。



    「……要するにだな」



    リングに上がってきたオリザがこれについて言及した。



    「我々『命の灯火』は、命の尊さを重んじる賢者団」



    「故に、このような正式でない場で死者を無闇に生き返らせるわけにはいかんのだ」



    ……海覇は納得した。

    そして……。

    一頻り説明を終えたオリザが、ある呪文を詠唱し始めた……。



    「……我らが闘いの神よ」



    「魔戦神『ゼメルギアス』よッ!」



    「迷える死者の御霊を、今再び世に呼び戻したまえッ!」



    ……闘いの神『ゼメルギアス』に、オリザは全身全霊で祈りを捧げた……。

    するとその瞬間、オリザの目の前に……!

    光を纏って、あるものが現れた!



    「あれは……」



    「ジョー!?」



    ……そう。

    準決勝戦において、優衣のパーティとの凄まじい死闘にてその命を果たした戦士。

    モヒカントの『ジョー』……!

    死んだ筈の者であった……!
  • 蛇雅理故さんのプロフィール画像

    蛇雅理故 No.15465909 

    引用

    ……戦いに敗れ、死亡した筈のジョー。

    だが彼は、たった今……。

    ……光を纏って、この世に舞い戻ってきた!



    「ジョー!」



    海覇は嬉しさのあまり、嬉々としてジョーの下へと駆けつけた。

    アカツキとエイデスも続く。



    「マサカ、ホントニ、ヨミガエッタノカ!?」



    「ナントイウジュモンダ……!」



    海覇は勿論、アカツキ、エイデスも共に、『ザオリク』という蘇生大魔法に機械ながら驚きを隠せなかった。

    なにせ、死んだ生物の魂を一体、完全に生前の姿で肉体ごとあの世から還元できるわけなのだから、ザオリクはまさに、奇想天外極まりない秘術といえよう。

    今となっては、『命の灯火』以外は詠唱を禁じられた禁断の魔術ではあるが、もっと古の時代にはこの『ザオリク』は世に沢山蔓延っていた。

    なので昔は……。

    ……例えば、反逆者の陰謀で、極悪の魔王を甦らせて国に反旗を翻し滅亡へと追い込む、なんてこともできたし……。

    寿命が尽きた老人達を甦らせ、気のすむまで奴隷として働かせる、なんていうこともできた。

    このように、人や魔物を生き返らせるということには悪意が存在する場合も必ずある。

    そういったことを防ぐ為にも『命の灯火』は必要なのだと、全世界が『命の灯火』の存在を肯定しているのだ。

    ……そして今、現世においてザオリクは、聖なる闘いの誓いの下、その力を発揮した。

    蘇ったジョーは、ゆっくりと瞼を開けて。

    冥界に引きずり込まれた意識を、再びこの世界に取り戻した……。



    「……ん」



    「……くぁぁぁぁっっ」



    目を覚まし、あの世からの完全復活を遂げたジョーは、開口一番に、顎を大きく広げて欠伸をした……。

    そのいつものジョーの姿に、海覇達は『本当に戻ってきたんだな』と、そっと胸を撫で下ろして安堵した。

    オリザはジョーの姿を確認すると、速やかにリングから下りて再び実況席へと戻っていった……。



    「……おぉ?あぁ……お前ら、なんでここにぃ?」



    ジョーは、凄く眠たそうに海覇達に問いかけた。

    まるで、悠久なる夢の長旅から突如として帰還させられたかのような……そんな、眠気を帯びた声で。

    ついさっきまで真っ暗な空間……即ち死後の世界にて幽閉されていて、そして突然にこの世に呼び戻されたわけなのだから、彼もまた、『自分が生き返った』という事実に気付いていないでいた……。



    「……まさかお前ら」



    「……死んだの?」



    「違うわっ!」



    「オマエガイキカエッタンダロ!」



    …………

    ……





    ……さて。

    そんなちょっとした喜劇の後。

    海覇達は、仲間との再会の嬉しさを噛み締める暇もなく。

    ……最後の決戦に向けて。

    この大会の全ての出場者の頂点に立ったチームとしての自覚を持ち。

    そして、その誇りを持って、諸悪の根元たる東京の荒くれ童子・葉津也に立ち向かうことを。

    各々が、一丸となって……。




    「さて、と」



    「イヨイヨカ」



    「ヤッテ、ヤル」



    「生き返ったばかりでダリィが……」



    ……誓った。

    その瞳は、自分達が成すべき事の全てを達観していて。

    その腕は、自分達が奮うべき力の何もかもを明解に理解していて。

    その足は、自分達が立つべき大地にがっちりと構えていた。

    人間も、魔物も、機械も。

    互いに異種族の者同士が、今、こうして胸に秘める想いを同じくしている。

    そして、その想いはきっと、彼らの『強さ』を更に倍増させてくれることだろう。

    それは理屈では説明できないが。

    だが、そんな気がする。

    その『根拠の無い自信』さえあれば、彼らは何だってできるはずだ。



    「……ソロソロ、オマエノモンスターヲミセテミロ!」



    アカツキは声を張り上げて、葉津也に要求した!

    これまでずっと隠してきたお前の兵士達を我らに見せろ!と。

    敵地に出陣した武将の如く。

    勿論葉津也は、これに応じた!



    「……クハハハッ!!!」



    「良いぜぇ!!見せてやろォ!!!」



    「いでよォ!!俺の最凶の魔物達ィィィィッ!!」



    ……葉津也が自身の魔物に呼び掛けた、その時であった!

    ぐらぐら……ぐらぐら、と。

    大地の震える音が、こちらに迫ってくる……!

    ……そして。



    「……っ!」



    ……突然、どこからか発生した地響きが、海覇達の立つリングを大きく揺らした!

    海覇達はよろけ、倒れそうになるが、なんとかバランスを保ち立て直した。

    だが、揺れは一向に収まらない。

    これは一体、どういうことなのだろうか……?

    会場中の人々が、混乱し始めた。

    海覇は葉津也に目をやった。

    すると彼は……。



    「……ククッ」



    ……彼らしくもない、不敵な笑みをひっそりと浮かべた。

    その様子は非常に気味が悪く、海覇はこれからこの場で起ころうとしていることに不安を隠せない。

    だが海覇は自分の使命をすぐさま思い出して、その不安をかきけした。

    何があっても、決して恐れない勇気を崩さない為に。

    アカツキ達も同様だ。



    「……良いねェ!!その威勢の良さァ!!」



    「漢だぜェ!!」



    葉津也は、その海覇達の決して揺るがぬ覚悟を賞賛した。

    そして同時に、全身が奮え上がるかのような衝動にも駆られていた。



    「……これで思う存分、てめぇらを八つ裂きにできる……ッ!!」



    ……相手がやる気なら、此方も相応の応酬をせねばと。

    自身に眠れる力を、本気を、魂を!

    その全てを呼び起こし!

    葉津也は叫んだ!

    彼が最も信頼を置く、モンスター達の名をッ!

    その名は!



    「目の前のクズ共を血祭りにあげろッ!!!」



    「『ヴァルハラ』ッ!!『アポロン』ッ!!」



    ……そして!

    いよいよ降臨する、2体のモンスター!

    大地の震えが最高潮に達したその瞬間であった……!



    「……ッ!?」



    ……ズガァァァァァァァァァァ!!!……と、大きな衝撃音が、会場に鳴り響き、海覇達の耳を襲った!

    その音量は葉津也の張り上げる声のそれとはまるで別格の規格外で、もう少しで鼓膜が裂けるところであった。

    耳を強く押さえ、瞼を固く閉ざした海覇達。

    ……そして、暫し短い時が流れた。

    ……すると、いつの間にか地鳴りが収まっていることに気付いた海覇達。

    ゆっくりと瞳を開いた……。

    その時!



    「……なぁっ!?」



    ……海覇達は、自分達の目の前に突如として広がったその景色に、口を揃えて驚愕の叫びをあげた!

    なぜなら……!



    「……驚いたかァ!!?」



    「こいつが、俺の魔物ダァ!!」



    ……その姿は魔物というよりも。

    ……どこぞの大帝国の城の様に見えた。

    城壁の如し巨大な全身は、どうやら石で創られているらしく……。

    ……禍々しい、膨大なる暗黒の障気をその身に余す所なく、紫色に宿していた。

    そこには光の輝きなど殆どなく、何もかもが闇で染められている。

    だが、城壁を見上げた先には一つだけ『光』があった。

    それは見るからに、眼光らしき灯火であった。

    妖しく光るその眼は、じっと海覇達を見下ろしている……。

    ……殺気を漂わせて。

    ……そのモンスターは、本当に巨大で、3体分の大きさを誇るバリクナジャよりも更に横に拾いデカさ。

    だが、もう1匹小さいモンスターを引き連れているあたり、彼もまた3体分モンスターなのだろう。

    このモンスターは、葉津也に『ヴァルハラ』と呼ばれた魔物だ。

    だがそれは葉津也がつけた名で、本当の名ではない。

    では、この魔物の真の名前は、一体なんと言うのだろうか?

    その事について知っている大会参加者は、葉津也を除いてはこの男のみであった。

    ……オリザである。



    「……間違いない」



    「こいつは、古の伝説に記されているモンスター達の内の一匹だ」



    「かつて暗黒神に仕え、光の勇者達をその見上げる程に巨大な豪腕で苦しめた悪しき魂の結晶」



    「その名も……」



    「……『暗黒の魔人』」
  • 蛇雅理故さんのプロフィール画像

    蛇雅理故 No.15482002 

    引用

    ……とある古の伝説において、その魔物……『暗黒の魔人』は『暗黒神の根城の城壁から生み出された恐るべき魔人』と記されていた。

    『暗黒神』は遥か昔、世界を闇に陥れ、そして支配しようとした邪悪なる存在とされている。

    彼は所謂『魔王』として全ての魔物の頂点に君臨し、『ラプソーン』と名乗ってその世の闇を完全に統べていたという……。

    ……そして、今。

    突如として地の底から這い上がってきて、リングの頑丈な床を軽々と勢いで突き破り海覇達の目の前に姿を現したその巨大なモンスター……『暗黒の魔人』。

    こいつこそが、葉津也が最もその腕を買っているモンスターだ。

    ……つまり。

    ……葉津也の、切り札である!



    「……で」



    「でかい……!?」



    海覇はそのあまりのデカさに、唖然としてしまった。

    見上げても見上げてもその全貌は視界には収まりきらず、逆に、暗黒の魔人のこちらを見下ろす眼光は全てを見張らしているかのようだった。

    海覇が左を見るとそこには、胴体と同じくらい……いや、もしくはそれ以上に巨大な暗黒の魔人の豪腕が大迫力のオーラを放っていて、指の一本一本にまで暗黒神の魔力が灯っているかにみえた……。



    「……おっとォ!」



    すると唐突にまた葉津也が声をあげる。



    「こいつも忘れんなよォ!」



    葉津也がそう言って、海覇達から見て右方を指差した。

    海覇達がその方向を見ると、そこには……。



    「……あっ!」



    「アソコニモ、モンスター、ガ!」



    ……暗黒の魔人は、バリクナジャと同じく3体分のモンスターとして大会規定されている。

    故に、奴をパーティに加えた場合はあと1体、1体分のモンスターをパーティに追加できるのだ。

    そして、葉津也がその枠に選んだモンスターは……。

    ……まるで、神殿に構えている、巨人を象った石像の様に見えた。

    表情から全身まで、彫刻として鑑定してみればその造りは非常に精巧で、相当の傑作と言える。

    元々のモチーフであろう巨人の威厳をしっかりと表現した一体だ。

    ……だが、彼もまた魔物。

    魔物である以上、作品の名前としてではなく、彼自身の、魔物としての名前があるのだ。

    その名は……。



    「……『だいまじん』か」



    ……オリザが言った。

    そう、彼の名は『だいまじん』。

    とある文献によると、だいまじんは、『彫刻の巨匠が渾身の力を懸けて造り上げた石像が、魔王によって命を吹き込まれた』……とのこと。

    葉津也のだいまじんは、『アポロン』と名付けられた。



    「……どっちも、すごい迫力だなァ、おい……」



    ジョーは、自分の事を棚にあげて言った。

    だが確かにアポロンも、暗黒の魔人……『ヴァルハラ』に比べれば小さいが、それでも葉津也よりかは一回りデカい大きさ。

    海覇達からしてみればアポロンも十分巨大である。



    「驚いたかよォ!」



    「これが……俺のパーティだァ!!」



    ……『驚いた』。

    海覇達は、全員、一同に、凄く……驚いた。

    見るからに力強そうな奴らが見事に揃い踏みしてるじゃないか……と。

    ちょっと、軽く絶望しそうになった。

    自らの全身が、奴らの巨体の影になって、薄暗くなってしまっている。

    まるで、自分の全てを覆い尽くし、そして掌握しているかのような感覚だ。

    とても、息が詰まりそうだ。

    ……だが。

    それでも、海覇達は……。



    「……」



    ……それに、屈するわけにはいかなかった。

    敵を目の前にして背を向けるなど、とても出来ない。

    海覇達は、誇りと覚悟を胸にこのリングに立った。

    そして、葉津也がそんな俺達に応えた。

    ただそれだけのことで、易々と魂を溝に捨てるなど、愚の骨頂。

    海覇達はそれを理解していた。

    ……だから。

    だから!



    「……例えどんな奴が相手でも」



    ……立ちすくみそうになりながらも!



    「俺達は……っ」



    ……声を震わしながらも!



    「……絶対にっ!」



    絶対に!



    「……負けるわけにはいかないんだっ!」



    ……決意を曲げることなく、立ち向かう意思を改めて強く示した!



    「……クハハハハッ!!」



    「精々楽しませてくれよォォォォッ!!」



    ……さぁ!

    いよいよ!

    試合開始の刻が間近に迫ってきたッ!



    「それでは始めます!」



    「海覇VS葉津也ッ!」



    「……試合、開始ですッ!!」



    ……『天空小学校最強』。

    頂上を目指す者共の、命運をかけた、待ったなしの大決戦ッ!

    その火蓋が今……切られたッ!

    長かったトーナメントも、ついに、最終章突入であるッ!
  • 蛇雅理故さんのプロフィール画像

    蛇雅理故 No.15491744 

    引用

    海覇VS葉津也!天下分け目のモンスターバトル!

    敵は、巨大な3体分モンスター……『ヴァルハラ』こと『暗黒の魔人』、そして、1体分のモンスター『アポロン』こと『だいまじん』の2体だ!

    どちらの方も、厳つい且つ強靭な腕が一際目立つ見た目である。

    そしてそこから想像できるように、このコンビには……。

    ……『力のステータスが非常に高い』という共通点が存在する。

    とどのつまり、奴らが放つ一撃一撃はかなり重たいということだ。

    海覇もこの事については、奴らがこのリングに現れたその瞬間からなんとなく察していた。

    『あ、これあからさまなパワー型だな』と。

    力自慢の葉津也らしいパーティといえる。

    だが、それがマイナスに働くというわけではない。

    確かに、その型や作戦は読まれやすいが……。

    だが、たかだかそれが分かった程度でこのパーティは崩されない。

    先程も言った通り、暗黒の魔人とだいまじんは力が強く、一撃でも当てれば相手に大打撃を与える事が可能。

    なので、下手に頭で考えていると葉津也にその隙を突かれて重たい攻撃を食らってしまう。

    そこから一気に畳み込まれ、そして敗北へと直行……という試合は未曾有に存在するのだ。

    なので、葉津也との闘いにおいては深読みは禁物。

    敵の攻撃を避けながらバンバン攻撃を積み重ねていく……という正攻法で攻めていくのが寧ろ無難だ。

    試合が始まる前にここまで結論を出していた海覇は、しっかりと確実に勝利を狙っていくこととした。



    「来ねぇのか?だったら此方から行くぜェ!!」



    「ヴァルハラァ!!『ダークマッシャー』だァ!!」



    開口一番、葉津也はついにヴァルハラに指示を下した!

    するのヴァルハラは、自身の腕から暗黒の炎に燃え盛るエナジーを放出して、具現化し……。

    ……それを、極めて鋭利な刃へと変貌させた!

    そしてその刃を……!



    「凪ぎ払えェェェッ!!」



    ……アカツキ達目掛けて、振り払ったッ!!

    凄まじい運動量から放たれるその斬撃の衝撃波はとんでもなく高速でこちらに迫ってくる……!



    「避けろ皆!」



    海覇が指示したと同時に、アカツキ達は全員、前方に転がりこんだ!

    ……そして。



    「……っぶねぇなァ……」



    なんとか、間一髪の紙一重で避けきることができた。

    ……そして。



    「うぁあ!?」



    ……衝撃波は、海覇の目の前ぎりぎりで着弾した。

    その刹那、尖鋭なる闇の一閃はリングを引き裂き、一瞬にして紫色の火柱を禍々しく天へと貫いていった……。

    ……海覇は、その凄まじさに冷や汗を一気にどっぷりかいてしまい、一時も気が抜けない戦いであることを改めて再認識。

    だが、ちゃんと冷静になって闘えば問題なく攻撃を避けきれるし、それこそその攻撃後の後隙を突いていけば着実にダメージを蓄積できる。

    ……勝てる!

    海覇は確信した。

    ……と。

    ……その時……!



    「……!?」



    「ウオォォォ!?……」



    ……強烈な突風が、突如として吹き荒れた!

    甚大且つ強力な風圧が海覇とアカツキ達を強くふっ飛ばす!



    「うぐっ!」



    この突風はもしや、先程着弾した衝撃波の余波なのだろうか。

    海覇は、彼のすぐ後ろにあるリングのロープがクッションとなってなんとか無事で済んだが……。

    ……アカツキ達は。



    「……グッ!」



    「しまったァ……!」



    ……突風が彼らの足元を掬い、怯ませてしまった。

    だがアカツキとエイデスの2体は機械の為……。



    「……グヌヌ」



    「サイゴマデ、ユダン、デキネェ」



    ……特に体に支障をきたすことなく、すぐに立ち直れた。

    海覇は彼らの様子を見てほっと一安心した…。

    ……だが!

    その安寧は、仮初めの物にしか過ぎなかったことを、海覇は今に思い知る……!

    ふと、海覇がジョーの方へ目をやると、そこには……!



    「……ぐっ」



    「……体が痺れちまったァ……!」



    ……未だ立ち直れていないままで、地に這いつくばるジョーの姿があった!

    ……生身で、しかも無防備にこれを受けたジョーは……。

    全身に一種の神経麻痺を引き起こし、動けないでいた!



    「……マズい!」
  • 蛇雅理故さんのプロフィール画像

    蛇雅理故 No.15503238 

    引用

    ヴァルハラの放った衝撃波はその後凄まじい余波の突風を生み出した。

    それは、まともに受ければ全身が金縛りの様な麻痺状態に陥ってしまう程に強い風圧で……。

    ジョーは、その一陣の風に襲われてしまった。

    彼は意識こそはっきりしているものの、全身が突然の衝撃により全く動かせないでいた。

    ジョーは、苦しみ悶える辛苦の表情を強く浮かばせる。

    自分の体が思い通りにならないというのは、こんなにも不快、且つ生き地獄を見るかのような感覚なのか……と、ジョーは心底思った。

    ……だが。

    心の中で何を考えていようが、それは結局、現実には何の影響も及ぼさない。

    今、ジョーはこれ以上にないくらい隙を見せてしまっている状況。

    故に、次にヴァルハラが取る行動は……たった一つだ。



    「ヴァルハラァ!!」



    「そのクズを持ち上げろォ!!」



    葉津也がそう指示すると、ヴァルハラはジョーに手を伸ばし……。



    「……っ!」



    ひょいっ、と、軽々と持ち上げてしまった。

    そしてその次の瞬間!



    「そのまま握り潰せェッ!!」



    「……ッ!!」



    「ングワァァァァッッ!!?」



    ……ギュウウウゥゥゥゥゥ!……という、ジョーを強く握り締める痛々しい音と。

    ジョーの、悲痛なる叫びが。

    混合し混ざりあい、強烈な苦痛の轟音となって響き渡った!

    そしてジョーは、感覚が麻痺してもなお襲いかかってくる程に甚大な激痛に顔を歪ませ、歯を強く噛み締めながらその痛みに必死で堪えようとする。

    だが……。



    「ヌグッ……グァァァ……!」



    ……痛覚は収まるどころか、どんどん増していくばかり。



    「ジョォォォッ!」



    時が過ぎるごとに酷くなってゆくジョーの形相に、海覇は胸を塞ぎたくなるほど心に彼の痛みが突き刺さっていった。

    海覇は必死に叫び、ジョーを呼び掛けたが、その声は虚空で響いた。

    だが海覇は、とにかく何か手を打たなければ、ジョーが死ぬと判断し……。



    「二人とも!今すぐジョーの救助にーー」



    ……『行ってくれ』。

    そう指示しようとしたその時であった。

    海覇の目線の先にはアカツキしかおらず、エイデスがどこかへ消えてしまっていた。

    ふと海覇が上方に目をやると、そこには……!



    「……エイデス!」



    ……その者がいた!



    「……イワレナク、トモ」



    「アノトキノ、カリハ……」



    「カエスッ!」
  • 蛇雅理故さんのプロフィール画像

    蛇雅理故 No.15513413 

    引用

    「クハハッ!」



    「せっかく生き返らせてやったってのによォ!」



    「これじゃ役立たずだぜェッ!!」



    葉津也は、ヴァルハラにその豪腕で全身を虫か何かのように握り締められているジョーを大笑いして嘲る。

    もしも鬼が桃太郎の一行を破ったら、まさにこんな顔をするだろう。

    人とは思えぬくらい凶悪な面構えが笑えば、それは狂気に満ちる。

    敵を痛め付ける事に嬉々とするその姿は、古の伝承に名を残されし『羅刹』の様。

    悪鬼その物である。

    ……だが。

    その最中、自らの友を傷つける鬼を祓おうと立ち向かうべく、一機の戦士が、突如として上空に舞った。

    両手に斧を携え、夕暮れの日射しに背を抱かれしその者の名は『エイデス』。

    彼は、『借りを返す』と言った。

    そう。

    エイデスには、ジョーに借りがあった。

    エイデスがシドックにメタメタに打ちのめされ、そして絶命しかけたその時。

    既に冥界に居たジョーに、暗黒空間の中で背中を押され、再び戦場に立つための色々な手助けをしてもらった……という、とてもデカい借りが。

    だからエイデスは、その借りを少しでも返すべく、ジョーの救出に立ち上がった。

    エイデスは、ジョーのことを微塵にも『足手まとい』などとは考えていない。

    自分達は『ただ機械だから助かっただけ』であって、もしそうでなければ今頃自分らも奴の餌食になっていたかもしれなかった……という、理由で。

    ……そして、何よりも。



    「……ナカマ、ダカラ」



    「……ッ!」



    ……そのエイデスの言葉を聞いた瞬間、ジョーは……。



    「……くっそォ!」



    「こんなもの……!」



    ……なんと。

    自らの体の痺れに抗いはじめた!

    彼は必死で筋肉に力をたぎらせようとしている……!



    「ウォォォォォッ!!」



    ……普段は、全くと言って良いほどやる気を見せないジョーが。

    今……!

    シドック戦の時のような活力を見せている!

    これは、もしや……。



    「……ジョー」



    「もしかして、エイデスのお前を想う気持ちに応えようと……!」



    ……海覇は、ジョーの決意を悟った。

    ジョーらしからぬ、だがとても熱い、生きとし生ける者らしい……その決意を。

    その刹那、海覇はすごく感無量になり、感動し。



    「……うっ」



    ……涙を、溢しそうになった。

    ……しかし、そんな暇は無いことを海覇は理解している。

    だから、泣かなかった。

    その代わり、ジョーから受け取ったその感動だけは胸にしまった。

    それは海覇の意識を極めて鮮明にし、彼の神経を集中させ研ぎ澄ませてゆく……!



    「……エイデス!」



    「お前は、ジョーが最大限の力を発揮できるよう、ヴァルハラの気を逸らすんだ!」



    「ワカッタ!」



    海覇の素早く、且つ的確な指示が次々とエイデス達に伝わってゆく……!



    「アカツキ!」



    「お前はあのもう一匹の殲滅に向かえっ!」



    アカツキは、もう一匹……『だいまじん』の『アポロン』の殲滅を指示された。



    「……アッ、すっかり忘れてた」



    あまりにもヴァルハラの存在感が凄まじい為か、さっぱりアカツキの記憶から抹消されていたアポロン。

    アポロンの表情は、どこか悲しげであった……。



    「ジョーについてはエイデスが居れば大丈夫だろう」



    「アカツキの指示は俺が執る!」



    ……海覇は、ここに来てやっとモンスターマスターらしい采配を披露し始めた。

    これまでの色々なマスター達との戦いで、彼自身のスキルも着々と上昇している様である。

    段々と貫禄を帯びてきたその小さな体で、彼はありったけの力を振り絞って!

    魔物を導く軍師となるのだ!



    「……ジョー!」



    「俺はお前を信じるッ!」
画像の添付

スポンサーリンク

今週-来週に発売されるゲーム
  • NS4本
  • WIIU0本
  • PS41本
  • PSV0本
  • XBOX1本
  • 3DS0本
  • AND2本
  • IOS2本
  • OTH11本
  • PC4本
ゲームの販売スケジュールをみる
Wazap!トップページ
iOS(iPhone) アプリ
Android (アンドロイド) アプリ
PCゲーム
妖怪ウォッチ
Wii/Switch/Switch2
DS/3DS
PS3/PS4/PS5
PSP/PSV
ポケモンスカーレット