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蛇雅理故

DQM ~天才科学者の血を継ぐ者~

雑談

レス:260

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    蛇雅理故 No.14425118 

    引用

    「相棒!!俺に指示をッッ!!」


    「……おう!」



    先程まで愕然としていた竜己だが、ヒジカタの決意を目の当たりにし、自身も決心を固める!



    (ヒジカタ……お前はすげぇよ)



    (相手はオロチ消し飛ばした野郎だぜ?それなのに……)



    竜己は、ヒジカタと共に勝つため、『勝利への方程式』を展開する!!








    「……来るようです」


    「……さっきまでは、作戦は君に任せていた」




    そう。ここまでは全てポーンの独断による判断のもの。


    つまり、祐太は今まで直接的にポーンに対し指示を出していないのだ。



    「だが、ここからは僕の指示に従ってくれ」





    「勿論ですとも!」





    ついに、祐太の本気の采配がベールを脱ぐときがきたのだ!




    (ポーン……君は僕の誉れだ)


    (まさか、『Sランク』のコアトルを倒してしまうなんて)






    二人のマスターは確信した。


    それは、人とマスターの固い『絆』があるからこその『確信』。




    二人のマスターは、言葉でそれを示す!!







    「俺の……」


    「僕の……」







    「俺の(僕の)相棒が、絶対負けるわけねぇ!(ない!)」









    「「ウォォォォォ!!」」




    魔物達は走り出す!!




    (さっきのを見た以上、直接攻撃は絶対避けるべきだ)


    (だったら!!)



    「ヒジカタ!!『火炎の息』!」



    「うぉぉりゃっ!」



    竜己の指示により、ヒジカタは口から火口の如く火花を散らせ、業火を噴き出す!!



    「確かに炎は銅の体を溶かす」




    「だが、僕のポーンは……!」








    「炎を寄せ付けない!!」


    「『逆風』!!」



    「ッハァ!!」




    ポーンが叫ぶと、後方から、強力な突風が発生!!



    火炎の息は、風によって跳ね返された!!




    「ぐおっ!!」



    「息も跳ね返すのか……!」



    ヒジカタはドラゴン系の魔物のため、鱗がブレス全般に対し高い抵抗力を発揮する。



    『アタックカンタ』とは違い、エネルギーにして返すわけではないので、然程対したダメージにはならなかったが、跳ね返されてはじり貧。


    ウォーリア戦におけるオロチの二の舞になってしまう。



    (まだ手数はある!)



    「ヒジカタ!逆風に向かって太刀を回転させるんだ!」


    「分かった!」



    聞いただけでは不可解な指示だが、ヒジカタは竜己のことを信じている。


    どんな指示でも、それが全て勝ちに繋がると思えば、ヒジカタは何でもできる!!



    「うぉぉっ!」



    指示通り、ヒジカタが国ノ乱舞を振り回すと……。




    「……その手があったか!!」



    なんと、逆風の風向きが回転……即ち、竜巻となった!!




    「今だヒジカタ!!」


    「うぉぉりゃっ!」



    ヒジカタがもう一度火炎の息を吐く。


    その焔は、ヒジカタが作り出した竜巻の中心部……つまり、台風の目をトンネルのように潜り抜け、ポーンに一直線に向かっていく!



    (ここで避けたら、すかさず空中戦に持ち込まれるだろう……さすがにそれは不味い!)


    そこで祐太は、ポーンに新たな指示を出す。



    「『マジックバリア』!」


    「御意!」



    するとポーンは、『マジックバリア』の呪文を口ずさむ。

    『マジックバリア』とは、指定した者のあらゆる耐性を高める呪文。


    つまり祐太は、避けてダメージを0にする指示ではなく、あえて魔法の効果で受けるダメージを軽減する指示を出したということになる。


    その理由は至極簡単。



    その方が、今の状況において最善であるからだ!!



    「むっ!!」



    炎は、マジックバリアの前では満足な力を出すことが出来ず、すぐに消滅してしまった。


    「『しっぷう突き』!」



    「何!?」


    炎を凌いだと思えば、今度はヒジカタが目にも止まらぬスピードでポーンに接近してきた!



    「おらぁっ!!」


    「ぐふっ!」


    あの時のオロチの何倍もの速さのため、アタックカンタなど敷けるわけもなく、ポーンはダメージを受けてしまう。


    「……ぐっ、さすがヒジカタ殿。威力が通常攻撃よりも劣る『しっぷう突き』でもこれほどとは」



    『しっぷう突き』は、まさに疾風の如く攻撃できる代わりに、その威力はかなり低め。


    しかし、ヒジカタの基礎的なパワーと、名刀国ノ乱舞の合わせ技が、その威力を十分に補うほど威力を倍増させているのだ!!


    そして、しっぷう突きの初撃をきっかけに、次々とヒジカタは自慢の剣術を披露していく!!



    「『れんごく斬り』!!」


    「『ダークマッシャー』!!」


    「『ホーリーラッシュ』!!」


    焔と闇と光の三連撃が、怒濤の3ヒット!!



    「グハァッッ!!」



    「ポーン!!」


    ポーンの体に少しだけヒビが入った……!


    しかし、ポーンの目は決して諦めに染まってはいない!




    (畳み掛けるなら今!)


    そして、竜己は4度目の斬撃を指示する!!



    「『ぶっしつ斬り』!!」



    「うぉっしゃああ!!」


    『ぶっしつ斬り』は、その名の通り、ある物質が元となって生まれた魔物に大ダメージを与える剣技だ。

    例えば、錨から生まれたポーンのように。




    これでトドメかと思われたが………。




    「油断したな!竜己君!」


    「まさか!」




    祐太は、再び『あの呪文』を繰り出すよう指示するッッ!!




    「『アタックカンタ』ァ!!」



    「ハァァッ!!」




    ヒジカタのパワーから放たれるぶっしつ斬りがポーンに与えるダメージは絶大なもの。


    故に、それが反射されるとなると………!



    「ぐっ……!!」




    ヒジカタも、ただでは済まない……!!




    「いけぇぇぇっ!!」



    「ぐわぁぁぁっ!!」










    爆音と爆炎の両方が、会場を包み込んだ。




    ……ポーンのアタックカンタが、決まったのだ。



    「……勝負あったな」



    祐太は、今日、初めて勝ち誇った顔を見せる。




    これまで、過去2回も予想を裏切られている会場の観客も、流石にこればかりはどうしようもないだろうと思った。






    ……しかし。




    ……。




    ……しかしッッ!!






    「油断してるのは………」










    「てめぇだ!!」





    2度あることは3度あるのだッッ!!






    「ッッ!!??」






    「……フッ!」





    ただ一人、竜己を除いて、この場にいる全ての者が驚愕した!!


    当然だ。




    先程、オロチをも消し飛ばしたアタックカンタを……。


    しかも、先程よりも威力の高い『アタックカンタ』を……。






    このリザードマンは、耐えてみせたのだからッッ!!






    「バ、バカな……」



    あまりにも予想外の展開に、思わず腰が抜ける祐太。



    しかし、さつじんいかりのポーンはまだ闘志を燃やしているッッ!!




    ……そして!




    「……思い出した」




    「……アタックカンタの弱点を!!」



    竜己は豪語した!!




    アタックカンタの弱点を見切ったと!





    「ッッ!?」



    「祐太様!しっかりッ!」




    「……ハッ!」

    戸惑いに支配されてしまった祐太の心は、ポーンの声で、辛うじてもとに戻った。



    しかし、祐太の顔には汗がビッシリついていて、まさに『焦り』を隠せない様子。



    だが、竜己は言葉を続ける。



    「……アタックカンタは確かに、直接攻撃を反射する」




    「……だが、『例外』も確かに存在するんだ!」



    「!!」




    竜己は、祐太と違い、真っ直ぐな目で前を見据えている!



    (……まさか、あれをやろうというのか!?)


    祐太の頭には既に、竜己の策が浮かんでいた。


    (いやしかし、あれは滅多なことでは……)



    (……いやッ!)


    (あの人たちなら恐らくやってのける!!)


    改めて、自分達が立っている崖が、もう後がないことを実感した祐太。


    そのおかげで、再び祐太のハートに火がついた……!



    「ポーン!……残りのMPを全て使用し、巨大な防壁結界を張れ!」



    「!…………御意!」


    ポーンは指示通り、全MPを、結界に変換させようとした。




    ……だが!



    「させるか!」




    「……しまった!!」



    全MPを消費するとなると、処理に大幅に時間がかかることを想定するのを忘れていた祐太。


    そして、その隙をつき、一気にポーンの懐へ飛び込むヒジカタッッ!!




    「アタックカンタの弱点。それは………」










    「『会心の一撃』だ!!」








    「……!!」







    「終わりにすっぞ!ヒジカタ!」




    「おう!」







    ヒジカタは国の乱舞を深く構え、力を刀身に集中させる。




    そして、その集まった力は、やがて魔神の如く禍々しい闇を纏い、『会心の一撃』となって解き放たれるッッ!!







    「『大魔神斬り』ッッ!!」
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    蛇雅理故 No.14429913 

    引用

    ……『会心の一撃』。


    それは、偶然に偶然が重なって時たま発生する奇跡的な現象。


    これが発動した時、その攻撃は敵の守りを完全に無視した一撃となる。


    少し分かりづらいと思うが、要するに、凄く威力の高い攻撃になるということだ。



    そして、ヒジカタが繰り出した剣技『大魔人斬り』は、その『会心の一撃』をなんとほぼ確実に発生させる、まさに『絶技』といっていい剣術。


    その代わりに、術者の体の動きは、大魔人の呪いで非常に愚鈍になり、この大魔人斬りが敵に当たることは、滅多にない。


    これこそが、『会心の一撃』そして『大魔人斬り』。




    ……そして今、ヒジカタが至近距離でその『大魔人斬り』を放とうとしている!!


    当たれば間違いなく一撃必殺!


    「諦めるなポーン!!大魔人斬りの弱点は速さだ!」


    「まだかわせる!!」



    祐太は必死でポーンに回避を求める。


    当然、ポーンの答えはYES。



    すぐにその場から退避しようとする。



    しかし…………。





    「ガッ!」



    突然、『さつじんいかり』のポーンの鎖の部分が重くなる。


    何かに押さえつけられているような……。




    ポーンがふと振り返ると、そこには……。





    「逃がすかァ……………!!」






    いつぞやに出会った夜叉の姿があった……!




    「……!!」




    夜叉……ヒジカタの足は、ポーンの鎖を強く踏みつけ、鉛のように重く動かない。



    必死にポーンは引っ張るが、全くの不動を貫いている。





    「くっ……放せッッ!!」




    「絶対に放さねぇぞォ!!オィィ……!!」



    大魔人に取り付かれているせいか、性格が少し狂暴になっているヒジカタ。


    その背後の闇は、とてつもなく強大で、もはや手がつけられないほどに膨張していた。

    まさに今、ヒジカタは……。








    「終わりだァ!!」






    闇に抱かれし夜叉と化しているッッ!!





    「くたばれェェ!!!」




    「うぉぉ!?」



    ヒジカタは、黒く染まる『妖刀』の如しの『国ノ乱舞』を思いっきり振り上げた!!








    「グハァァァァァァアアッッ!!」



    その一撃は見事に命中!!



    『会心の一撃』!!



    そして更に、剣の軌道から放出される光は、巨大な閃光となり、一直線にポーンを襲うッッ!!




    「アガァァァァァァァァアアッッ!!」







    ポーンの銅の肉体がみるみるうちに粉々に粉砕されていく。




    「ポォォォォン!!」



    祐太はポーンの名を、これ以上に無いと言うほど大声で叫んだ。




    ……しかし。







    …………絶え間なく昇ってゆく光の柱は、ポーンを完全に消し去った。






    「…………」




    「…………」





    ……現在、午後6時34分。






    海覇達がプロトキラーを完成させるよりも大分後に…………。






    ……全ての決着がついた。







    長かった戦いは……。









    ……ヒジカタと竜己の勝利で決したのだッッ!!
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    蛇雅理故 No.14433246 

    引用

    「勝ォォォォ負アリィィィィ!!」

    モリーが、終戦の狼煙を上げた!


    結果は、竜己の勝利!!



    観客達は、大いに盛り上がった!!



    「ワァァァァ!!」


    「ヒュー!ヒュー!」



    「最高のバトルだったぜぇー!!」




    「こりゃ、生きているうちに良いもんが見れたワイ」



    今回の、竜己と祐太のモンスターバトルは、人々の記憶に、大きく、そして深く刻まれることとなった!



    勝利のファンファーレと、積もらんばかりの紙吹雪が舞い落ちる。



    すべては、勝利した竜己達への祝福のため!


    「やったなヒジカタ!!」



    「おうよ!相棒!!」





    二人の勝利のハイタッチが、パチンと良い音を鳴らした。




    「……ポーンの守りには自信があったんだけどな」


    そう言う祐太は、今一度自分を負かした者の顔を遠目でよく見つめる。



    ……自分の一歩先を行くのにふさわしい、眉目秀麗の一言に尽きる。



    ……おめでとう。




    ……次は勝つ。




    ……祐太は、なぜか少しだけ嬉しそうにしながら、そのまま会場を立ち去ろうとした。
    しかし…………。



    「あ……待てよ!」



    「?」



    呼び止められた祐太は、立ち止まって、再び竜己の方に顔を向ける。



    「せっかくこんな良い勝負できたんだ!」




    「握手しようぜ!」



    そう言うと竜己は、祐太に手を差し伸べる。



    勿論、祐太の答えは決まっている。



    「うん……!本当にいい勝負だったね」



    祐太の手と竜己の手は互いに握りあい、そして、永久の友情を誓った……。


    「……それと!」


    「?」


    突然、竜己が切り出す。



    「やっぱ、守ってばかりじゃダメだな!もっと積極的に責めないと!」


    なんと、ここでまさかのアドバイス。


    突拍子もない発言に、いつもは落ち着いた態度の祐太も……。




    「……ふ、ふふっ……」



    思わず吹き出してしまった。



    「な、なにがおかしいんだ?」



    竜己も竜己で、突然笑いだした祐太が不思議にみえていた。




    「だって……その様子だと、まだまだ全然余裕あったんじゃないか?ふふっ」



    確かに、いくら良い勝負だったとしても、最後にアドバイスなんて貰ったら、まるでまだ全力では無かったように聞こえるのも無理は無い。しかし……。



    「そ、そんなわけあるわけねぇだろぉ!?こっちは大マジだったんだぞ!?」


    本当に、結構大マジでした。


    特にバトルの終盤なんて、竜己はひたすら冷や汗ばかりかいていたので、すっかり汗びっしょりなのである。


    それなのに、『まだ本気じゃない』なんて誤解をされたら、竜己からしてもたまったものじゃないのだ。



    「……まあ、今度からはポーンにも攻撃特技を沢山覚えさせておくよ」




    「……それじゃ」




    ……祐太は、最後に笑顔で、そのアドバイスに答え、再び歩き出し、会場から去っていった。



    ……やはり祐太は嬉しそうだった。



    なぜなら……。






    ……こんなにも手強いライバルが、今日という日、出来たのだから。






    「……あいつのポーン……ホントにさつじんいかりか?」


    「強えってモンじゃねぇ……」



    対戦相手が居なくなったところで、改めてヒジカタはリラックス、リラックス。



    「全くだ……」



    「…… まぁ、オロチよりも強いポーンよりも、お前の方が強かったわけだから、結局お前が一番人のこと言えねぇんだけどな」


    竜己は、ニカッと白い歯を見せて、ヒジカタの方を見て笑う。



    それに対し、ヒジカタは……。



    「……ちげぇねぇ!」




    「「ハハハハ!!」」




    男二人の笑い声は、会場の止むことない歓声にも負けずに、大いに会場に響いた。
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    蛇雅理故 No.14433497 

    引用

    ……因みに、今回の試合は、竜己が出場する試合ということで、TV中継が回っていた。


    なので、この試合の一部始終は、TVでも放送されていた。



    流石に会場程の迫力は無いだろうが、それでも、今回のバトルは傑出したものとされ、その視聴率は31.19%を記録し、今週において最高視聴率を収めた。



    ……そして、会場を途中で退場したこの者達も、竜己と祐太の勇姿を、TVを通してしかとこの目に焼き付けていた。



    「……すごいね……」


    「う、うん……」


    「ピッキー……」

    そう、海覇と優衣……そしてスラすけである。



    プロトキラー完成後、夕食の買い物を済ませてからどうしても暇だった二人と一匹は、夕食までの間、TVで時間を潰そうとしたところ、丁度竜己と祐太のバトルの真っ最中だったというわけである。



    「……俺の知ってるさつじんいかりって、あんな強い魔物じゃないんだけどねぇ」


    海覇の顔は、少しだけ青ざめていた。



    世の中、自分の知らないことは沢山あるんだなぁ……と、恐ろしい程分からせられたからである。



    「私は気付いていたよ!あの子優しい目をしていたもん!」


    海覇とは対照的に、どや顔で胸をはる優衣。



    「なに?その優しい目って……ハハ」


    海覇は、子どものおかしな発言に対してするような感じの笑いを溢した。



    「だってホントだもん!」


    「ピキー!」



    そんなようなやりとりをしていたら、時刻は既に6時50分。


    御近所の家も、夕食による家族団らんの時間を次から次へと始めていっているところだろう。





    そして、ついに海覇達にも……。





    「海覇ー!優衣ちゃーん!スラすけちゃーん!ご飯だよーー!」


    優しく快活な、海覇の母の声が、下から聞こえてきた。


    その声に、二人と一匹は……。



    「「はーい!」」


    「ピキー!」



    元気よく反応した!







    「うっひょぉ~!」



    「美味しそ~う!!」



    「ピキー!!!」



    海覇達が目を光らせているのは、無論、今日の夕食のメニューである。



    真ん中に乗せられているのは、タレの艶と肉と野菜の生み出す香りのハーモニーが魅力的なジンギスカン。


    それそれ3人にその取り皿が分けられ、その横にはシーザードレッシングで味付けされた、トマト中心のサラダ。



    これらは全て、海覇の母『邦江』(くにえ)が手作りした至高の品々である。



    そして、一番目の前に置かれているのが、日本の心。

    ジャパニーズ、お米だ。



    そして、スラすけにもご飯がちゃんとある。


    それは、約束通り海覇が残りのお小遣いをはたいて買った……のではなく、流石にそれは悪いと、優衣と割り勘で購入した上等な『魔物のエサ』だ。




    ……あと、『邦江』の席にだけ、1本の芋焼酎と沢山のさきいかが置かれていた。



    「気を付けて優衣ちゃん。うちの母さんは凄い酒飲みで、酔っ払うと酷くうっとおしくなるから」


    「えっ」


    海覇はひそひそと優衣の耳を借りて、こっそりと自らの母の秘密を暴露する。



    しかし、邦江の耳には……。



    「んー?海覇ー?誰がうっとおしいってー?」



    ……しっかり聞こえていた。



    悪口を言われたことに気付いた邦江は、声に威圧感たっぷりのオーラを付加して海覇を……。



    「……なんでもないです」



    ……屈伏させてしまった。



    「ハハハ……」



    優衣は苦笑いをするしかなかった。



    「……それじゃ、いただきましょうか!」


    そう言うと邦江は、手と手をパチンと合わせ、日本ならではの恒例の音頭をとる。


    「いただきます!」


    「「いただきます!」」


    「ピキピキーー!」




    ……楽しい夕食の時間が始まった。
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    蛇雅理故 No.14438707 

    引用

    早速、海覇達はパクリと、邦江お手製の料理の数々を食した。


    「「ん~~~!」」



    すると、ジンギスカンの羊肉の肉汁が口一杯にじんわりと広がって、サラダのシャキシャキとした瑞々しさがそれを良い具合に引き立てる。


    そしてなんといっても、この世の殆どの食材と相性が抜群といっても過言ではないお米の存在が、今日のディナーの主役であるジンギスカンを、最高にもり立てていた。



    要するに……。




    「「うっまぁぁい!!」」



    日本人なら、やはりこの一言に尽きる。



    「うーん、我ながらうまい!流石私!」



    邦江は凄く誇らしげに自画自賛した。


    優衣はそれにウンウンと頷くが、海覇からすればいつものことなので、然程気にせず、次から次へと料理を口に放り込んでゆく。


    そして、その度に、海覇は頬っぺたが落ちるのを防ぐかのように頬を抑えながら、至高の味わいを堪能していた。



    「ピキキ!」



    「!」



    すると、スラすけがピョコッと、机の上に乗っかってきた。



    「こら!スラすけお行儀悪いよ?」


    「ピキキ……」


    優衣に叱りつけられ、スラすけはしょげてしまう。


    「あっ!もしかしてスラすけちゃん、このお肉食べたいんでしょ?」



    「ピッキー!!」


    邦江の予想は当たり、スラすけは嬉しそうに羊肉を催促する。


    「待ってて……はい♪あーん♪」


    スラすけの物欲しそうな口の前に、邦江がスプーンで運んだ肉が迫る。


    スラすけは、待ちきれないばかりに、そのとにかく自身の食欲をそそる肉にしゃぶりつき、テイスティング。

    「ピクゥーー!」



    スラすけは心の底から満足した様子で、ピョンピョンと床の下に降り立ち跳び跳ねた。


    「ごめんなさい、あの子ちょっといやしんぼな所あって」


    優衣はペコリと頭を下げる。



    「あら、可愛いじゃない!優衣ちゃんそっくりよ」


    「わ、私はそんな食べませんって」


    あたふたと優衣は弁明を図るが……。


    「えー、でもでも、既に海覇と並んで、ジンギスカン3回おかわりしてるじゃない」


    「うっ」


    真ん中の大きな器によそられたジンギスカンは、優衣の席に近い部分もがっつり無くなってた。


    そして、取り皿に水溜まりのように貯まったタレがなによりそれを物語っている。



    優衣は女の子として、頬を赤らめながら少しだけ自分を恥じた。


    「…………」


    「ん?どうしたの海覇?」


    さっきから黙りこくっている海覇に、邦江が話しかける。



    「……良い年なんだから、『はい♪あーん♪』なんてやめてよ……ちょっと気持ち悪」



    ガシャンという、机を叩く音が、海覇の口を『かった』とまで言わせなかった。



    「…………」




    「……なんて、言ったかしら?」



    ……海覇は黙って食事を続けることにした。
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    蛇雅理故 No.14438876 

    引用

    ジンギスカンもサラダもお米も、海覇達は全て完食し、『御馳走様』と言って、食器を流しに片付け、テーブルもきれいに拭いた。




    これにて夕食はお開き!という空気が流れていた。





    …だが、この人だけはまだまだご馳走に囲まれていた。





    「いやっふー!!乗っているかぁ!?いぇーーい!!」


    ……そう。海覇の予想通り、邦江はでろんでろんに酔っていた。


    さきいかをくっちゃくっちゃと音を立てて貪り、泡が溢れそうなビールをグビッとイッキ飲み。


    良い大人は真似しないようにしよう。




    ……まぁ、ここまではあくまでも海覇の予想通り。



    「優衣ちゃん、こんな酔っ払いほっといて2階に行こうよ」



    海覇は気にせず、優衣を2階に誘おうとする。




    ……だが。




    「……!?」



    ……ここからが、海覇の常識を大きく覆した場面である。それは……。








    「いぇーーい!!」



    優衣ちゃん、ご乱心。






    超ノリノリで、邦江と一緒になってばか騒ぎしていた。




    実の息子である海覇でさえ、邦江の酔った勢いにはつくづくうんざりしていたのに対し、優衣は即座に対応してしまったのだ。



    「んー!優衣ちゃん乗りイイねェーー!最高ォーー!」


    「最高ォーー!」



    優衣の、あまりのノリの良さに、海覇は当然困惑してしまう。



    「ゆ、優衣ちゃん……?」


    恐る恐る、優衣に声をかける海覇。



    「海覇君!貴方のママさんとっても楽しい人だねぇ!」








    ……楽しいこと大好きにも程があるだろうと、海覇は心の中でツッコみ、その場から離れた。



    「あの人たちにはついていけないよ……行こう?スラすけ」


    「ピキッ」



    海覇は呆れ果て、スラすけを連れて仕方なく2階に行こうとしたその時。







    ピンポーンと、チャイムの音が鳴った。


    「!」



    海覇は、こんな時間に誰だろうと思いながら、玄関に向かった。


    スラすけも、海覇に続く。






    ……そしてドアを開けると、そこには……。






    「海覇~~~!!」


    スーツ姿の男性が一人、海覇に抱きついてきた。





    「父さん!?」
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    蛇雅理故 No.14444524 

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    「会いたかったぞ海覇~!!」



    この、リクルートスーツで小五の息子に抱きつく男は、紛れもなく、海覇の父……その人であった。



    妻の邦江と違って、特に酔っ払った様子は無いが、人が酔っ払った時とほぼ変わらない奇行に走っている。







    「父さん!なんでここに!?」



    「なんでって……ここが我が家だからに決まっているだろう!」



    全く答えになっていない答えを威張りながら言うこの人にイラつきながらも、海覇は質問の要点をまとめる。


    「だぁーかぁーら、今日、父さんは上司の人達と飲み会じゃなかったのかって!!」



    海覇のいう通り、今日は会社の飲み会。


    本当なら今頃、上司にお酒を注ぎながら、やれ昇進やれ昇給の話をもちかけ、とにかく上司に犬のように媚を売らなければならない筈だが……。



    「なに言っているんだ!あんな親父どもとイチャついていたって何も面白くもなぁい!!」


    いや、お前がなに言っているんだと、海覇は心の底から自らの父を恥じ、嘆いた。



    ……もうお気付きの人も多いかと思われるが、この人は『息子バカ』である。



    息子が可愛くて可愛くて仕方が無いらしく、商談中も基本的に海覇のことしか考えていない。



    なので、他の社員に比べてこいつの商談成立率は少しばかり低かった。当然である。






    「……海覇君?」


    「!」



    すると、優衣がひょこっと玄関から顔を覗かせてきた。


    優衣のマフラーは、外の強い風でなびく。凄く、なびく。


    そんな優衣の視線は、言うまでもなく海覇の父に向けられていた。


    「おぉー!君が優衣ちゃんかぁー!」



    「初めまして、僕は海覇の父の……」




    「『瑛太』(えいた)といいます!」



    その優しい声に、優衣は瞬時に警戒心を解き、自分も自己紹介する。


    「私は優衣といいます!よろしくお願いします!」


    「うん、よろしくね」


    特に当たり障りの無い会話で、二人は挨拶をかわす。



    ……しかし。




    「ところで、君はよく最近海覇と一緒に遊んでくれてるんだよね?」


    「はい!海覇君と一緒に居ると楽しくって……」



    優衣は笑顔でハキハキと、海覇と一緒に居るときのことを瑛太に話す。





    「ピキー!」



    スラすけも、優衣と同じように、いつもに増した笑顔を見せる。




    「ゆ、優衣ちゃん……」



    海覇は、優衣達の変わったテンションに少しだけ照れを仄めかした。





    「そうか、そうか!……ところで」



    「?」




    突然、瑛太の目のハイライトが消えた。


    何を意味してのことなのか。



    優衣は一瞬気がかりになりかけたが……。




    ……そんな暇も無く、瑛太の次の言動によって全てが明らかとなる。






    「……間違っても『脈アリ』だと思うなよ女狐」





    「ひっ!!」






    瑛太の目の輝きは、殺意へと変換されていた。



    瑛太の息子への愛の情は、予想以上にオーバーゼアーへとぶっとんでいた。





    ……そしてそれは、優衣の瑛太への恐怖心を加速させるには十分の狂気であった。









    海覇は、突然の父の豹変っぷりに理解が追い付かず、暫く意識が遠退いていたが、なんとか取り戻した。



    そして、すぐさま瑛太に先程のことを問いただす。




    「おい、父さん!その言い方はあんまりだろ!!」



    いつもは少し気弱な所がある海覇も、今は本気で瑛太に怒鳴りつけている。



    「ピキー!ピキー!」



    勿論、スラすけも右に同じ。





    「海覇……お前はまだ子どもだ!ガールフレンドを作るなんて20年早いんだよ!」


    「20年後はとっくにヤバい年齢だよ!!」



    玄関前の路上で突如、父子の言い争いが勃発。



    こんな夜中になんだなんだと、窓から外の光景を見下ろすご近所さんも続々と現れてきた。





    「め……めぎつね?」


    優衣は半ば放心状態で、自分が言われたことを復唱する。





    「優衣ちゃん!こんなバカの言うことなんか気にしなくていいから!!」


    「何おう!!確かに僕は『息子バカ』だが、決してただの『バカ』ではないぞ!」



    瑛太はそう言うが、海覇は瑛太に牙をむく。



    「うるさい!優衣ちゃんに酷いこと言って……!」



    「ぁ……」



    瑛太は何も言えなくなってしまった。



    海覇に一喝されたことで、自分の言動をふと思い出す。



    海覇の大切な友達に暴言を吐いたことで、海覇と海覇の大事にしている人を深く傷付けてしまったと思うと、瑛太の心に自責の念が住み着いた。




    「……すまん」




    「……謝る相手が違うでしょ」




    「……あぁ」



    瑛太は、何とか自分の息子愛にブレーキをかけ、深く反省し、なんとか謝ろうと、優衣に歩み寄る。


    ……だが。



    「……!」



    ……やはり、初対面の時よりも高く、優衣は瑛太に対して壁を作っていた。



    ガクガクと、優衣は震えている。






    決して寒いからではない。



    あの時の彼の表情が、よっぽど怖かったのだろう。



    「ピクゥ……」


    スラすけも、優衣の心を案じていた。




    「……本当にすまない、優衣ちゃん……あまりにも君が羨ましくて、つい」



    今にして思えば、自分は嫉妬していたのかもしれないな。と、瑛太は感じる。



    自分は仕事で忙しく、中々海覇との時間がとれないというのに、いつも妻から聞かされていた優衣という娘は毎日海覇と遊んでいる。



    それが憎かったのかな……。



    はは、子ども相手に最低だな……と、瑛太は自分で自分を責める。




    ……しかし。



    「…………」



    その瑛太の念は……。






    ……次の一言で解消されることとなる。




    「……そのことなんですけど」



    「……?」








    「……『めぎつね』……って、どういう意味ですか?」




    「…………」









    「……え?」
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    蛇雅理故 No.14450528 

    引用

    意外……それは優衣が『女狐』の意味を知らなかったこと。



    いや、だがそれは不思議なことではない。



    優衣は海覇と同じく、まだまだ小学五年生。



    大人に比べれば、多少国語に疎くてもなんら問題はない。



    というか、そもそも『女狐』の意味なんて知らない方がよっぽど健全である。






    瑛太は、昼ドラのヒロイン並みの達の悪い嫉妬の仕方をしていたため、その事に気付けないでいた。




    そして、それに安心した瑛太は、ここぞとばかりに……。




    「め、女狐っていうのは、狐さんみたいに、しなやかで美しい女性のことをいうんだよ」





    まさに言葉の通り『子ども騙し』の嘘を並べた。



    ……実に卑怯である。





    「……………」




    これには、先程まで怒り心頭だった海覇の心もひんやり。



    あまりの調子の良さに言葉も無いのだ。




    「ピキー!」



    スラすけは自身もよく『女狐』の意味をよく知らなかったため、瑛太のその言葉で怒りを沈めた。





    「しなやか………え、えへへ」





    優衣はなぜか『美しい』ではなく『しなやか』という言葉に騙されてしまった。





    ……まぁ、どちらにせよ、所詮子供なんてチョロいものである。




    「うぉらぁぁぁ瑛太ァァァァ!!」


    「!?」





    突然、女狐ならぬ女獅子の雄叫びが夜空に轟く。



    瑛太の妻の『邦江』だ。





    「マ、ママ?どうしたんだ急に?あと、少し酔っぱらってない?」



    「ごちゃごちゃ抜かすんじゃねぇクソ亭主が!!」



    「ひぃ!!」




    次から次へと、夫に浴びせるとは思えぬ暴言を立て続けに吐き捨てる邦江の表情は、般若と呼ぶに相応しかった。



    「仕事トンズラぶっこいて家におめおめと帰ってきたと思ったらテメェ、言うに事欠いて優衣ちゃんを女狐だとぉ!?」


    「その事についてはさっき謝った!快く許してくれたよ!とっても良い子だなぁアハハ!」



    瑛太の目は全く笑っていないが、少しでも笑顔を取り繕い邦江の猛攻を止めようとする。



    しかし、怒りのアクセルは踏まれたままで、とても一端の夫に止められるようなものではなかった。






    そんな夫婦の言い争いの最中、マイペースな女の子が一人。


    「良い子だって!照れちゃうなぁ」



    「ピキキー!」



    優衣は、それが瑛太が保身のためにとっさに放った言葉だとは思わなかった。





    ……天然なのか、それともただのお馬鹿さんなのか。


    どちらにせよ、優衣ちゃんのポジティブさは見習わなければと、海覇は思った。





    「つーかよ、先日私の口座から10000円くらい引かれてたんだけどよ」



    「これ、どういうわけ?」



    すると邦江は、初めからこの事を話そうとしていたのか、ポケットから預金通帳を取りだし、瑛太に突き付けた。


    ◯月×日地点で¥4.490.332あった残高が昨日で¥4.477.832までおろされている。


    口座なんて、まだ子供の海覇に教えるわけでもなく、邦江は特に詐欺にもあっていない。



    そこから導き出される答えは一つ。





    「テメェ、一体何に使ったんだ?オォ!?」



    つまり、そういうことである。





    「父さん……いつの間に勝手なことしてたんだ」



    当然ながら、海覇は瑛太のことを軽蔑した。



    「そういえば、昨日海覇君、前から頼んでいた新作のゲームを買って貰えなかったって言ってたよね……」


    「まさか……このことが原因だったのかぁ!?」



    そうと分かった瞬間、海覇はギロリと瑛太の方に鋭く眼光を向けた。



    「…………」


    邦江と海覇の両方に睨み付けられ、サーッと、瑛太の血の気はどんどん引いていく。



    だが、そんなこと構わず邦江はとことん追求する。


    「オラ!!さっさと下ろした理由言え!!正直に言えばまだ軽いお仕置き程度で終わる可能性もあるぞ!!」


    「…………実は」





    「…………ちょっとだけ株をゴフゥ!!!?」



    瑛太は軽いお仕置きで終わる可能性を逃し、キッツぅーい腹パンを食らわされた。



    とても正常とは思えぬ程の苦しみ顔を浮かべ地面を這いつくばる瑛太。



    その滑稽さは、いつの間にか集まってたヤジウマの目にも光って見えた。




    「てめぇこっち来いや!!小指の一本でも詰められねぇと分からねぇみてぇだからよぉ!!」



    恐ろしい事を口にしながら、瑛太のスーツを引っ張り家に引きずり込もうとする。



    ……だが。








    「ま、待ってくれ!!これだけはやらせてくれ!!」



    先程までとはうってかわって、本当に焦った顔で邦江に静止するよう訴える瑛太。



    「問答無用!!」



    だが、一度切れた堪忍袋の尾は、そう簡単には修復せず。



    「くっ………海覇!!ちょっと来てくれ!」



    「嫌だよ!いっとくけど父さんなんて助けないから」









    「構わん!だからちょっとだけ来てくれ!!頼む!!」



    「!」



    その表情は、日本の父親ならだれしもが持つ……。






    ……良き父の顔だった。






    そんな瑛太を見て、瑛太の真剣さを受け止めた海覇は、瑛太のもとに走る。




    「……どうしたの?」



    すると瑛太は、ポケットから一枚の紙を取り出した。



    「……僕が今日早く帰ってきた理由はそれだ」



    その紙には、なんと……!









    『ドラゴンマシン引換券』






    ……そう書かれていた!!




    「父さん……これって…………!」




    『ドラゴンマシン』。




    それは、竜と機械の両方の性質を持った魔物。




    その風貌は勿論のこと、炎の息を吐いたり、かぎづめで敵を引き裂いたり、竜の特徴を引き継いだ魔物と言ってもいいだろう。

    ただし、空だけは飛べない。



    しかしながら、攻守ともに高い水準の能力を持ち、多彩な特技も相まって、その魅力でマスター達からの人気が高い魔物の一匹だ。





    「ママから聞いたぞ……ついにモンスターマスターへの道を歩むんだな」



    「!」




    いつの間にか、邦江の足取りがピタリと止まっていた。




    「海覇……モンスターマスターというものは、きっとお前が勉強で見つけられなかったものも見せてくれるだろう」



    「そうすれば、僕はもっとお前が成長する姿を見られる」




    「……父、さん……!!」



    いつの間にか海覇の瞳には、無限のような涙が溢れ出ていた。




    さっきまで、あんなに嫌だった自分の父が、こんなに俺のことを思ってくれてたなんて。と、海覇は泣きたくて泣きたくて仕方がなかった。




    「……魔物というのは、早い内から主従関係を築かないといけないらしい」



    「まもなく向こうがドラゴンマシンを準備するだろう……だから、急いでそこに書いてある店へ向かってくれ」



    海覇は、大きく、泣きながらも首を縦に振った。


    「ありがとう父さん!!……グスッ」



    ……そして。



    「行こう!優衣ちゃん!スラすけ!」



    「うん!」



    「ピキー!」






    群がるヤジウマ達を突き抜けて、海覇達は夜道を駆けていった。









    「……本当は株なんてやっていないんでしょう?」



    邦江が、いつもの調子で瑛太に話しかける。



    「ハハ……バレてたか」




    「子供には、要らない心配をかけさせたくなかったからね」




    ……あのドラゴンマシン引換券は、当然ながらタダではない。



    価格は税抜¥120.000。


    ……少々、財布に厳しかった。



    「すまないね……足りない分を君の口座から引いてしまった」



    「……そういうことなら、怒るにも怒れないじゃない」







    「…………海覇」









    「…………僕達は、お前のことをずっと見守っているからな」





    ……今日の月は満月。




    それは、誰かが誰かを想う心で満たされている……そんな気がした。
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    蛇雅理故 No.14455250 

    引用

    ここは、商店街の一角。


    『モンスターハウス』と書かれた、回りの店とは世界観が大分違う、西洋の木造の家のような外見の店が、そこにあった。





    しかし、この店の営業時間は、ドアの横に書かれているように、朝の7時から夜の8時まで。


    そして、現在時刻は8時17分。


    そう。もう営業時間そのものは既に終わっていた。



    ……だが。





    「まだ1階の明かりがついてるね」



    1階は店のスペースなので、8時以降は消灯していなければ不自然。


    隣の店達がとっくに明かりを消した中で、この店だけは、誰かを待っているかのように、黄色い灯火を照らしていた。




    「……鍵も開いている」


    「まだやってるのかな?」



    二人は恐る恐る入店。すると……。






    「……待ちわびたぞ」



    一人の紫髪の青年が、椅子に腰をかけていた。



    容姿端麗で細マッチョという、いかにもモテそうな素材にも関わらず、スライムの可愛い刺繍が施されたエプロンを着用している。


    ギャップを狙っているのか。




    「俺は店主の『陸雄』(りくお)だ……君が海覇君だね?」



    「……瑛太さんとは既に話をつけてある」




    その頼もしい言葉と表情からして、陸雄は、きっちり仕事をやってくれていた様だ。




    「カッコいいねこの人。優衣ちゃん」



    「うん……」



    見た目に負けない仕事の優秀さに、二人は陸雄に憧れの念を抱いた。










    「……これが引換券です」



    海覇は、瑛太に貰ったドラゴンマシン引換券を陸雄に手渡す。





    それを受理した陸雄は頷いた。




    「確かに受け取った」



    陸雄がそう言うと……。






    「ピピー!!ガガガガッッ!!」




    「!!」



    突如、機械音が海覇達の耳に響いた。




    「なんだなんだ!?」


    「ピキー!?」




    「……ふっ」


    海覇達は混乱するが、陸雄は悠然と腕を組んで立ち尽くし、ニヤリと笑っている。



    「陸雄さん!これは一体!?」



    優衣は耳を押さえ怯えながらも、陸雄に問う。



    すると陸雄は、手のひらを広げ、その腕をある方向へと向けた。


    「見てみろ」




    陸雄にそう言われ、視線を手が指す方向へ集めると、そこには………。








    「ガオーーーッ!ピピッ」






    紅の合金ボディと、鋼の翼と爪。


    尻尾の先端の巨大なドリル。



    四本足でどっしり大地に構える、竜の如しマシーン。







    「『ドラゴンマシン』……!!」
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    蛇雅理故 No.14462403 

    引用

    「「うぉぉぉあ!?」」


    二人は頓狂な声を上げて転げた。


    その巨体は、見上げなければ上部が見えないほどで、ローアングルから眺めるドラゴンマシンの迫力は凄まじかった。


    大きさは、まさに竜己のオロチと同じくらい。


    即ち、『2体分』のモンスターである。



    「ガオー!ガオー!」



    ドラゴンマシンは、驚くぐらい感情の籠っていない雄叫びを上げた。


    「驚いたか!こいつが今から君の仲間になるんだぞ」


    なんとも頼もしい限りだ。と、海覇は腰が抜けながらも心底思った。


    ……だが。


    「で、でも、ちゃんと言うことを聞いてくれるんですか?」


    海覇は、あまりのドラゴンマシンの威厳に、その事が心配になってきたらしい。


    果たして、自分なんかに、こんな魔物が従ってくれるのかと。



    ……しかし。





    「バカ野郎!!」



    「ひぃっ!?」



    陸雄に一喝され、ビビる海覇。



    「良いか!魔物という生き物は人間とほとんど変わらん!」


    「怒るときは怒るし、優しいときはとても優しい!」


    「つまりだ!そういうようなことはその時その時で決まるということだ!」



    陸雄は断固として言い切った。


    その言葉には確かなる魔物に対する情熱が籠められていて、海覇の頭に叩き込むように断言した。



    「……!」



    その圧倒的な説得力の前にして、海覇は今一度自分を見直してみる。


    ……その結果。





    ……『臆病になっていた』。




    そんな自分が居たことに気付いた。





    ふと海覇は、ある日の竜己との会話を思い出す………。








    それは、まだ海覇達が幼稚園児の時。



    ある近所の山にて。


    「グルルルル……!」



    「あわわわわ………」



    幼き日の海覇と竜己が対峙していたのは、飛び出た目玉がグロテスクな、犬のような姿をしたゾンビの魔物『アニマルゾンビ』だ。





    「逃げようよ!竜己ぃ!」


    海覇は、臆病になりながら竜己の背中に隠れて逃走を促していた。


    しかし、竜己は不動を貫く。


    そして、こう言った。




    「大丈夫!!魔物っつーのはな……」




    「人間と同じ心を持ってるんだぜ!!」



    その言葉を残し、竜己は敢然とアニマルゾンビに立ち向かっていった!!



    「竜己くぅぅぅん!!」





    ……あの時、竜己は勇気を持って立ち向かった。


    ……海覇は、それをただ見ていただけだった。









    今も、そうなのか?








    「…………」




    スッと、徐に海覇は立ち上がる。



    そして、顔を上げ……。




    ……一心に、真っ直ぐに、真っ正面から、目の前の機械竜の元に歩んでいった。




    ……陸雄は、気付いた。


    海覇は、臆病なんかじゃなかったと。



    ……優衣は知っていた。


    海覇はとても強い男の子だと。



    ……スラすけは存じていた。


    海覇は……。




    魔物と心を通わせる力を持った少年だと!!





    「……ドラゴンマシン」




    海覇は、そっとドラゴンマシンの冷たい合金に寄り添う。


    そして言った。



    「これから君は俺の仲間だ」



    「……名前は」









    「……『アカツキ』」



    「!」





    「……どうかな?」



    ……『アカツキ』。


    その名を、ドラゴンマシンは……。




    「ピピー!!ガオガオ!!」




    ……例え機械音でも、ドラゴンマシンの声は海覇の耳にしかと伝わっていた。




    「……気に入ってくれたか」



    ……受け入れてくれたようだ。




    ドラゴンマシンの『アカツキ』。





    ここに参戦!!
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    蛇雅理故 No.14472986 

    引用

    「………予想以上だ」



    陸雄はとても感慨深そうな表情で言った。


    自分が今まで面倒を見てきたドラゴンマシンが、今こうして一人の少年の手に渡ろうとしている。


    名前も授かり、もう、このドラゴンマシンに自分がしてやれることは何も無い。


    そんな陸雄の『安堵』の中には……。



    ……少しだけ『寥々』とした感情も混じっていた。




    「……『アカツキ』か」



    「……良い名じゃないか、ドラゴンマシン」



    その齢にして陸雄は、子の羽ばたきを見送る母の様な眼差しで、アカツキを見送った……。


    アカツキの大成と、さらなる良き出会いを願って……。



    「……アカツキを頼むぞ。海覇君」








    ガシャン、ガシャンと、夜道を逝くアカツキと、その横についてゆく海覇一行。


    「ピピッ!カイハサマ、スゴクネムタソウデアリマスガ」


    アカツキは機械故か、すぐに海覇を主として認識し、眠たそうな海覇を心配している様子を見せる。


    海覇は目をゴシゴシとこすり、なんとか重たい目蓋を開いて前を進んで逝く。


    「大丈夫だよアカツキ、もう少しだけならまだ起きれ……ふぁ~あ」



    もう既に、良い子は眠る時間。


    海覇の眠気は今ピークに達しているようだ。




    と、その時、グラッと海覇の体がよろける。


    「!」



    そこに立っている電柱に当たりそうだ!



    「危ない!」


    優衣が駆け寄ろうとしたが、それよりも早く、海覇を抑えた者が居た。


    「……はっ!」


    海覇は寝惚けた顔で、その者を見る。


    「……ありがとう、アカツキ」


    「シャキットシテクダサイ」


    アカツキの鉄の爪が、海覇の両肩をがっちり掴んでいた。


    ……どうやら、アカツキがいる限り、海覇にこうした身近な危険は迫らないらしい。


    優衣も、安心して胸を撫で下ろす。









    ……すると。









    「キャアーーーー!!」




    「!?」





    突如、若い女の人の悲鳴が聞こえた。



    「えっ!?何今の!?」




    突然のことで、優衣が不安のあまり、海覇の服の袖に引っ付く。



    そして、海覇も優衣のその突然の行動に顔を赤く染める。





    ……だが、今はそんな場合じゃないと、海覇は自分の下心を廃棄して、行動にでる。



    「と、とにかく、声のした方向に行ってみよう!」



    海覇はそう提案した。だが……。



    「えっ!?危険だよ!!」




    当然ながら、優衣は反対した。



    ただでさえ子供二人で夜中に彷徨くのも危険だと言うのに、ここから更に面倒ごとに首をつっこんだとなれば、間違いなく自分達にも責任が問われる。



    流石にそれは避けないと。と、優衣は主張した。




    ……だが、海覇は。




    「……大丈夫!こっちには、頼もしい仲間が居るじゃないか!!」



    海覇はそう言って、アカツキを指差す。




    「ガォォーー!!」


    アカツキは、その期待に応えるかのように、無感情雄叫びを上げた。


    両腕を上げ、マッスルポーズ。


    ありもしない筋肉を見せつける。




    「…………」




    優衣は、そういう問題じゃないという顔でアカツキを見る。





    ……そして、スラすけは……。



    「ピキ……?」



    俺は……?





    ……一匹、ポツーンと、外灯の薄い光に照らせれて、ふて腐れていた。
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    蛇雅理故 No.14485396 

    引用

    ……あの後、夜中に騒いだことが原因で、すぐそこの家で寝ていたおじさんにこっぴどく叱られそうになった。


    そこから逃げるように海覇達が向かった先は、各々の自宅ではなく、先程悲鳴があった場所。



    海覇の眠気はすっかり覚醒し、その足は確実に目的地へと進んでいった。


    そしてたどり着いたのは、恐らく昼間でもめったに人が通らないであろうひっそりとした路地裏。


    そこで海覇達が見たものとは……。




    「……!あれは!」







    「いやっ!放してよ変態!!」


    「げへへ、こんな夜中に出歩くなんて悪い子ですねぇ」


    「まったくだなぁ」




    一人の女子高生らしき美少女を、ふてぶてしい中年の男と、巨大な棍棒を持った、醜い原始人の様な見た目の魔物『トロル』が囲っている。



    この、ブス男と美少女という組合せ、そしてこの、路地裏というロケーション……。



    ……つまり、そういうことだ。




    しかし、何度もいうが海覇達はまだ年端もいかぬ子供。




    「……何をやっているんだ?」



    「さぁ……?」




    故に、今この女子高生がナニをされそうになっているかイマイチ理解できていなかった。



    しかし、少なくともこの男達が女子高生に乱暴しようとしているのは、何となく見てとれる。



    それに、さっきの悲鳴のこともあって、海覇達はこれを捨ててはおけるはずも無かった。



    今すぐ、救いの手を差し伸べるべし!






    「やめろ!その人嫌がってい……」


    「ああぁんん!?」



    「ひっ」




    海覇の救い劇はものの5秒で終わってしまった。



    海覇がもともと気が弱いこともあるが、そもそも大人からすれば、こんなガキの言うことなんか気にする訳もなかったのである。



    というか、海覇にとって一番アレだったのは、男のその醜悪なる顔面凶器っぷりであった。


    あまりにも恐すぎたのだ。



    「なんとかしてよアカツキ……」


    「シカタガアリマセンネ」



    情けないマスターを持つと苦労する。



    「オイ!ソコノグロメンヤロウ!!」



    「なぁにぃ!?」



    さすが恐れ知らずのマシーンは、言うことが違う。なんて正直者なんだ。



    どうやら、アカツキのコンピュータには『オブラートに包んで物を言う』というプログラムが組み込まれていないらしい。



    「俺は今からこのアマとプロレスごっこするんだよぉ!分かったらとっとと出ていけ!」



    逆に、こいつの方がよっぽど言い方に気を遣っていた。


    「嫌がる女の子相手にプロレスなんて、ひどーい!!」


    この男の言葉を、優衣はそのままの意味で受け取っていた。


    この状況で本当にプロレスをすると思ってんのか?と、男は思う。


    最近の子供は進んでるってよく言われているが、海覇達には関係の無い話だったようだ。



    「良いから早く助けてよう!早くしないと私の処女が……」


    「しょじょ?」



    女子高生は必死に助けを乞うが、どうもこういう話だと子供とは噛み合わない。


    なので、海覇達は……。





    「あ!分かった!」





    「父さんが言ってた!確か、デビュー作品のことを『処女作』っていうんだって!」



    「本当!?」




    ……海覇達は、独自の判断を下すことにした。




    「そうか……この女の人は小説家だったんだ!」


    「違うよ海覇君!多分漫画家だったんだよ」



    「アマイデスネ、キットキャクホンカダッタンデス」

    「ピキー!」


    スラすけは、作曲家だと言った。だが、そんなこと海覇達が知るよしも無い。




    「…………」



    いつしか男達の気分は興醒めになっていた。



    まぁ、あんな茶番を見せ付けられたら、誰でも冷める。






    ……だが、その代わりに……。




    「……いい加減にしろよてめぇら、俺のお楽しみタイムを邪魔しやがって……」




    男の最低な劣情は、最高潮の憤怒に変わり果てていた。



    男は女子高生から放れ、今度はその標的を……。



    「やっちまえぇっ!!『トロール』!!」




    「ひゃっはぁぁぁ!!」






    ……海覇達に変えた!!





    「……!!」



    ……海覇達の前に……。





    ……トロルがあらわれた!!
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    蛇雅理故 No.14494090 

    引用

    「おらァ!!」


    「わぁ!?」


    トロルの豪腕から放たれた棍棒の一撃を、海覇は辛うじてかわした。


    だが、抉れた路地裏のコンクリートを見ると、これが人間に当たれば間違いなく全治1ヶ月はたやすいだろう。


    海覇は目の前の巨人に戦慄した。



    恐怖に戦き、この世の終わりのような顔で小さなクレーターを凝視する。




    すると……。



    「カイハサマ、ワタクシニシジヲクダサイ」


    「!」



    赤き機械竜が、襲いかかるトロルの前に立ち塞がった!!



    「アカツキ!」



    海覇は、ビクビクした表情から一転、希望に満ちた顔になる。




    「ほっ」


    優衣やスラすけも、心強い味方が居たことに安寧した。





    トロールは、ばつの悪そうな、怪訝な表情でアカツキを睨む。




    機械の癖して、何かっこつけてんだ?と、トロールのからっぽな頭のなかには、アカツキに対する悪しきライバル心が芽生えていた。



    しかし、アカツキは決して屈しない。



    それは、機械らしく常に冷静な判断を心掛けているからだ。



    だが、それと同時に、機械らしからぬ、アカツキだけの『情熱』もある。




    故に、こんな下船の連中に臆する必要などどこにもないのだ。



    「ザットショウリツハ93%デス」



    本当にざっくりと、アカツキは今回の勝率を演算で割り出す。



    これには海覇も……。




    「高っ!?」


    ……思わず突っ込んでしまった。





    勝率93%……これは、相手からしてみれば勝利宣言と同等。


    つまり、トロール達は舐められてるということだ。



    「俺のトロールを相手に93%だとぉー?生意気だなこのクソガキャー!!」


    「俺様を怒らせると痛い目を見るぜェ!?」



    男と、トロールことトロルは憤慨。頭から湯気を噴き出す。


    一方、女子高生はというと……。


    「……」


    少し変だけど、自分を守るために立ち上がった目の前の少年達に対して、『光』を見たような、そんな笑顔を浮かべていた。





    ……ドラゴンマシンと、トロルが対峙し、睨み合う。


    トロールの目は、単に劣悪なそれであったが、アカツキの瞳は、機械でありながら、この場にいる誰よりも強いある『信念』に基づいた『闘争心』を宿していた。





    アカツキは格闘家のような構えを。





    トロールは、山賊のような振る舞いを。



    トロールは思う。


    このクソ共をじっくりいたぶって血祭りにあげてやると。







    ……アカツキは思う。





    ……絶対に。



    ……絶対に、この少年を……。




    ……この、海覇という少年を守ると!!



    なぜなら……。













    「……いいか?ドラゴンマシン」


    「お前もいつか、俺では無く他の誰かのモンスターになるときが来るだろう」


    「その時は……」






    「……絶対に、そいつを守るんだ!!」













    ……アカツキの事実上の元マスター・陸雄の、強い意思が籠った一言が、この時のアカツキのメインコンピュータを強く突き動かしていたから。


    ……海覇という少年は、ドラゴンマシンの……『アカツキ』の名にかけて、絶対に守らなくてはいけない存在だからだ!!




    「サア!ハヤク!!」



    「死ねぇぇぇ!」



    アカツキは迫り来るトロールの前にどっしり構え、仁王立ち。


    海覇の盾になるかのように、大の字になって、トロールの侵入を許さぬ防壁を自らの体を持ってして展開した。




    この、アカツキの生半可ではない覚悟を前に、ついに海覇も……。





    「……分かった!」






    「『ガンガンいこうぜ』!」





    ……男を見せた!!



    「リョウカイ!!」



    指示を受けたアカツキは、なんと……。




    「!」




    背中に搭載されていた鋭い刃のような翼を取りだし、二刀流の如く装備した!!



    ……そして!




    「クラエ!」








    ……その鋼が斬り裂かんとするは敵の肉体。



    この世の万物に対して、恐ろしいほどの破壊力を生み出す古の剣技。



    機械じかけの竜が織り成す、究極の必殺技!!




    『森 羅 万 象 斬 !!』
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    蛇雅理故 No.14501590 

    引用

    「アガァ!?」



    アカツキとトロールとの間に迸る一撃、衝撃、電撃。



    アカツキの放った『森羅万象斬』は、トロールと、その回りにまとわりつく汚醜なる闇を全て斬り裂いた。



    まさに、断罪の如し。




    「ガッ……ガアッ!」



    トロールの全身からビチャビチャと噴出する鮮血。


    それは、この路地裏というバトルフィールドに血の小雨を降らせた。




    そして、紅色の雨粒に覆われたトロールの悲痛なる表情を垣間見た海覇は、頭に電流が流れたかのような情念にかられることになる……。



    「……これが」




    ……そう。これが。




    「これが……」




    これが。








    「……モンスターバトル!!」




    ……なのだ。





    目の前の恐ろしい地獄絵図の中に一瞬見えかけた、モンスターバトルの本質。



    ……他のマスターの戦いを高みの見物をしていては分からない、魔物と同じ大地に立っているときの、狂わしいほど煮えたぎる赤い激情。




    「……ッ」



    ふと海覇は、自分自身が怖くなる。



    こんな、本来なら戦慄すべき場面に出くわしていても、今自分は激情に支配されている。



    だが、それは決して、自分を呑み込まない。



    あくまで自分自身が、この心情に突き動かされている。



    ……つまり。




    「……気持ちが良い」



    海覇が今、優衣に聞こえないようにつぶやいたその心の声こそが、燃え上がってどうしようもない感情。




    このトロールを血みどろにして、そして勝った。




    それが、今この時だけは、とても気持ちよく感じる。





    ……だが、それは決しておかしいことはない。




    この快感は、かつて竜己や祐太も抱いた熱情。






    達成感とも、狂気とも言える情熱は、この瞬間を持って……。







    ……海覇を、モンスターマスターの世界へ誘った。









    「……はっ」



    気付くと、海覇達の前からあの男は消えていた。



    残っていたのは、無惨に置き去りにされたトロールと……。


    「君、大丈夫?」



    自分達が助けた女子高生だった。




    いつの間にか輝きが喪われていた海覇の瞳は、徐々に光を取り戻していく。



    「ッ!あいつは!?」


    キョロキョロと、海覇は直ぐ様辺りを見渡す。



    ……だが、どこまで首を振っても、視界に広がっていたのは、殺人現場のような雰囲気が醸成された路地裏だった。




    「あいつなら逃げてったよ、海覇君」


    優衣が心配そうな目つきで海覇を見つめる。




    「!」



    その刹那、海覇がよろっと倒れこむ。




    「海覇君!」


    「うっ……また眠気が」




    ……………



    ………


    ……
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    蛇雅理故 No.14501920 

    引用

    「………う…………」



    目が覚めた海覇が最初に見たのは、自分の部屋の、見慣れた天井。


    ふかふかのベッドに抱擁されながら、いつしか眠りに陥っていたらしい。



    ……ふと、海覇は思う。



    ……この前のことは夢だったのか?と。



    父の優しさや、アカツキとの出会いや、トロールとの戦いが……全部夢で、偽りだったのか?と。






    ……だが、そんな不安は、自分がよく知る女の子の声で解消されることとなる。




    「海覇君……!良かった!目が覚めたんだね!」



    とてとてと、マフラーを巻いた女の子……優衣が、海覇の元に駆け寄る。



    ああ、良かった。



    『心配が解けたような顔をしている』優衣を見た瞬間、あの時間が本物であったことを再確認できて。


    寝起きに浮かべる安堵の心。



    窓から差し込む朝の日差しが、この心を淡い白で照らす。



    この気持ちを原動力に、海覇はベッドから起き上がった。



    「ありがとう、優衣ちゃん……俺なら大丈夫だよ」



    「はー、全く、どうなるかと思ったよぉ~」




    いつもなら戸惑ってしまう優衣の眩しいにこやか顔も、今日は少しだけ、ほんの少しだけ、心の余裕がそれを緩和した。


    海覇はクスリと笑って、優衣と共に階段を下りる。




    ……すると。





    「オハヨウゴザイマス、カイハサマ」




    昨日の残虐ショーを生み出した張本人……アカツキと。







    「ピピッ……オマエガ……カイハ……カ」



    壊れたような酷いノイズの電子音で海覇に声をかける、青いメタリックボディのマシン。



    「お前は……!」



    海覇は、突然現れたこのマシンに動揺する。



    だが、この二人は決して初対面ではない。




    ……というか、昨日まで海覇の部屋に居た。




    ……そう。





    「プ、プロトキラー!?」




    自分の息子とも言える存在が、自分の知らない間に稼働していた。



    海覇は、より一層動揺する。



    このプロトキラーは充電式。




    だが、充電が終わっても、別に勝手に動くわけではない。


    背中に取り付けてある充電完了のランプが光ったら、これまた背中にあるスイッチを押すことで、はじめてプロトキラーは作動する。



    それが動いているということは、つまり誰かが海覇に無断で電源を入れたということになるのだが……。




    「私じゃないよー」



    海覇が振り向いた瞬間、横に首を振る優衣。




    「あたしでもないよん」




    右に同じく、厨房で皿を洗っている邦江。






    次に海覇は瑛太を探すが、見当たらない。



    なぜなら、今日は休日。


    瑛太は、それを活用して……。








    「ちっ!何が接待ゴルフだ!接待のつもりじゃなくても接待になってしまう人間のことも考えずに!!」


    「ちきしょー!あのクソ上司共め!目にもの見せてくれるわ!!」



    瑛太は、ぶんぶんぶんぶん、ひたすらゴルフクラブを振って振って振りまくる。



    目指すはイーグル、あわよくばホールインワン。さればアルバトロス。




    ……要するに、ゴルフの練習場に居ました。







    「………」


    このことを邦江から聞いた海覇は、瑛太のアリバイが証明されたことに戸惑いを隠せない。



    なぜなら、今この場にいる『人間』は……。





    海覇。


    優衣。


    邦江。





    その全員が違うと言っている。



    嘘をついているという可能性を、海覇は微塵にも考えず、まさかと思いながら、アカツキに振り返った。


    すると……。








    「テヘペロ⭐」







    「Oh……」







    引換券で得たこのマシン……何をするか分かったものではない。




    ……恐るべし。
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    蛇雅理故 No.14511004 

    引用

    朝からドタバタ、ハプニングばかり。


    とりあえず海覇は、自分の作り出した『プロトキラー』の方に顔を向けてみる。



    「……」


    「……」




    ……気まずい。


    本当ならもっとドラマチックにご対面といきたかったのに、こんなバッタリな感じでは……。



    海覇は、言葉を絞り出すので精一杯だった。



    「……よ、よろしくな!」



    とりあえず浮かんだ第一声。


    そして、そう言いながら手を差し伸べる海覇。




    一方、友好の握手を求められたプロトキラーは……。



    「ヨ,ヨロシク」


    ノイズがかかって、発した言葉は聞き取りづらかったが、その手は確かに海覇の手を握った。



    ここに、新たなる仲間が加わったのである。


    ……その出会いこそ、感動できるものではなかったが……。






    「……へへっ!」







    このプロトキラーとは、これからずっと強い友情を育めそうな。そんな予感が、海覇にはあった。






    「ねえねえ!名前はどうするの?」



    「ピキー!」



    優衣が海覇にきく。



    ……『名付け』は、殆どのマスターが魔物を仲間にしたときに、儀式のように行うもの。



    ドラゴンマシンの『アカツキ』も、スライムの『スラすけ』も、リザードマンの『ヒジカタ』も、さつじんイカリの『ポーン』も、トロルの『トロール』も……。



    皆『名付け』によって、自分だけの名前を手に入れた。



    名前を貰うことは、魔物にとっては至高の喜びとされ、闘いでも、マスターのために勝とうという気持ちがより一層高まり、普通以上の力が発揮できるようになるのだ。


    なので、『名付け』は、マスターにとっても、モンスターにとっても嬉しいことなのである。win-winなのである。









    「そうだなぁ……あっ!」



    海覇が早速思い付いたようである。



    優衣は、ワクワクと、海覇が考え付いた名前を早く知りたい様子。




    「お前の名前は……」





    ……運命の瞬間。




    海覇にとっては二度目となる『名付け』。





    ドラゴンマシンに『アカツキ』と名付けたように、プロトキラーにもその時がやって来たのだ。





    ……思えば、あんなに精一杯製作したマシンにも関わらず、出会いがあやふやだった二人。




    ……せめて、せめてこの瞬間だけは、かけがえの無い時間にしたい。








    ……海覇が生きていく中で、決して、永遠に忘れることの無い記憶にしたい。







    ……プロトキラーと、この気持ちを分かりあいたい。






    海覇は、ついに最後の決断を下し……。





    ……そして、今にも溢れそうなこの想いのたけを……。








    ……思いっきり、ぶつけた!!













    「『エイデス』!」










    ……訪れる、暫しの静かなる時間。









    ……プロトキラーに定められた名は『エイデス』。








    「……?」



    ……しかし、由来が分からないがゆえイマイチピンとこない様子のプロトキラー……いや、エイデス。




    「おお!確かにカッコいい……けど、由来は何?海覇君?」




    エイデスの疑問を代弁するように、優衣が海覇に問いかける。




    ……そして。



    「ふふふ」



    その質問を待っていたと言わんばかりに、海覇は勝ち誇ったような顔でその問いに答えた。




    「実はな、ギリシャ語では『青い』を『キュアノエイデス』って訳すんだよ!そっから持ってきたんだ!」



    「おおーっ!」




    その由来になるほど!と優衣達が頷いた。










    「……アオ……」





    エイデスは、自分の名前の由来の『青』という色に少しだけ関心が沸いたようだ。








    「凄い海覇くん!ギリシャ語が分かるんだね!」



    「ピッキー!!」




    「へへへーっ!」





    二人に称賛され、すっかり浮かれてしまった海覇。

    そこに……。




    「ギリシャ語なんて分からないでしょ?海覇」



    「ギクッ」



    邦江が海覇に突く。




    ……そして。






    「この子ね、実はこっそりスマホで『青色』って意味の言葉をひたすら探していたのよぉ!」



    「ええーっっ!」




    邦江が海覇のしていたことをチクった!


    「か、母さんっっ!」




    せっかくのカッコいい場面が台無しになったじゃないか!と、海覇は強く憤慨する。








    「……でも」



    「?」






    「海覇君がエイデスの為に一生懸命になってたのは本当なんだよねっ!」





    「!!」






    本当のことを言われ、かぁ~っと顔が赤くなった海覇。






    優衣の相変わらずの笑顔にもそうだが……。





    ……なにより、エイデスにこんな恥ずかしいことが聞かれたとなると……と。



    「……えっと、その」




    海覇は、指で髪の毛を掻きながら、赤面でエイデスに振り返る。





    「……エイ、デス……」






    「……キニ、イッタ」





    「!!」





    エイデスのその言葉を聞いて、パアッと顔が明るくなった海覇。





    ……いつの間にか、あっという間に、二人は打ち解けた。
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    蛇雅理故 No.14511898 

    引用

    「……あっ!そうだ!」



    「?」



    邦江の突然の一声。



    一同、揃って邦江の方に振り向く。





    「すっかり伝えるの忘れてた!あのね海覇」



    「えっ?」


    邦江に呼ばれ、海覇は邦江の元に歩いてゆく。




    「あなた、昨日助けた女の子、覚えてる?」




    「女の子……?」




    海覇は6秒ほど首をかしげ、ハッと思い出した。





    昨日の夜、アカツキと共にやっつけたキモ男に捕まっていた女子高生。


    そういえばあの人、今どうしているんだろう?



    「その子から、お礼がしたいからここに来てって言われてるんだけど」



    「本当?」



    邦江からそこまでの地図を渡された。


    優衣達も、その地図を見るため、海覇の元に駆け寄る。



    その地図が指し示す場所。そこは……。










    「……ここかぁ」




    見たところ、普通の民家では無かった。



    お店のような佇まいの、綺麗でオシャレな白い建物。



    玄関の壁はガラス張りになっていて、外からでも中の様子が分かる。




    その視点から目を凝らしてよく見ると、『魔物のエサ』やら『魔物の砂』やら『魔物のおもちゃ』やら、ペットショップの商品がそのまま魔物用の物になったような感じの品揃えがそこにはあった。



    「……オミセデスヨネ」




    「お店やってたんだあの人」





    「女子高生なのに……」




    「……ドレモ、コレモ、オレニハ、カンケイノナイ、シナジナ」




    「ピキー」





    ここにいるのは、海覇と優衣とアカツキとエイデス……それと、スラすけ。




    結構な大所帯で会話をしながら、揃って店舗に入っていく。








    ドアを開けるとまず、店内には、まさにペットショップで嗅ぐような、動物の臭いが広がっていた。




    そして、客が入店したのを察知して、店長と思わしき人物……即ち。




    「はーい!いらっしゃ……あら!」




    ……昨日の女子高生が、海覇達を笑顔で出迎えた。




    「来てくれたのね!いらっしゃい!」



    「どうもー」








    ……立ち話もなんだといって、女子高生は特別な客人が来たときに使っている応接室に、海覇達を招き入れた。



    「それにしてもすごい人数で来たわねー……」



    女子高生は、海覇と愉快な仲間達を改めて見渡してみる。



    「うっ……やっぱり不味かったかな」


    海覇は、この人の迷惑になったのではと、申し訳なさげな表情を浮かべる。




    これに対し、その不安を取り払うように女子高生が気さくに話かけていく。



    「ああ!いやいや全然大丈夫だって!」



    「私、他の人のモンスター見るの大好きだから!」





    そう言われた海覇は、次第に顔が晴れ……。




    「……そういって貰えると嬉しいですっ」




    女子高生に、心を開いた。






    「そう言えば、名前まだでしたよね」




    優衣が、まだ聞いていない名前について持ちかけた。



    「ああっ!そういえばそうね!えっと、私の名前は……」






    「……美帆(みほ)って言うの!」




    美帆は、ある意味で命の恩人の海覇に対し、にこやかに名を名乗った。




    「美帆さんかぁ!」



    海覇は、その名を記憶に刻んだ。



    せっかくこんなに笑顔で名乗ってくれたんだ、忘れたら駄目だな……と。







    ……そして、次は海覇達の番である。



    「俺は海覇っていいます!」



    「私は優衣っていいます!」



    「それで、このスライムがスラすけ!」



    「ピッキー!!」




    アカツキとエイデス以外、名乗りを終えた。



    「うんうん!海覇君に優衣ちゃんに……」














    「……えっと」




    「ピキーー!?」





    なぜ、こうもスラすけは忘れられがちな存在なのか。



    やはり、常に優衣の背中に乗っているだけだからか。



    それゆえ、ただでさえ無い存在感が全部優衣に吸われてしまうのか。





    「ス、スラすけですぅ……」




    優衣がしょんぼり、もう一度スラすけの名前を紹介する。





    そして美帆は、完全に覚えた!という目付きで……。




    「そうそう!ごめんねスラたろう君!」



    「スラすけですぅ!」


    「ピキーー!」






    「ハハハ……」



    他方、海覇は、目の前のおかしなやり取りに、つい笑ってしまった。
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    蛇雅理故 No.14524439 

    引用

    「あっ、そうそう!この二人のことも紹介しなきゃ」



    海覇はそう言って、紹介がまだだったアカツキとエイデスの方に視線を移す。





    そして、美帆もその方向へ顔を向けた。





    すると美帆は、昨日自分を救ってくれたモンスターの顔を再び思い出す。




    「あっ……あのドラゴンマシンは確か」




    「ワタシガアナタヲタスケマシタ!」





    アカツキが、美帆に自らに対する恩を主張する。



    そんなアカツキを見て、美帆は破顔を浮かべた。



    このドラゴンマシンの姿が何より見たかった。



    ……自分の、命の恩人の姿を。




    そして今、それが叶った。





    「昨日は本当にありがとう!名前を教えてくれると嬉しいな」




    「アカツキダ、ヨロシクダゼイ」



    「だぜい?」




    アカツキの口調のぶれように疑念を抱く優衣。




    何はともあれ、美帆とアカツキが再会できたということで、これで改めて昨日のことに決着が着いたというわけだ。







    ……そして。アカツキの横に居る、もう一体のマシン、エイデスはというと。




    「……オレ、ジコショウカイ、シヅライ」



    ……会話に入り込めないでいた。



    二人がいい雰囲気だからというのもあるが、エイデス自身の社交性が少しばかり欠けているというのもまた理由の一つ。


    そんなエイデスを見かね、海覇が行動にでる。




    「美帆さん、実は新しい仲間も居るんですよ」




    「あらっ!本当ね、プロトキラーが」




    美帆は、アカツキと会えたことにばかり気持ちが滅入っていたので、エイデスが居ることに気付くのに遅れてしまっていたようだ。



    ……そして、当のエイデスは、海覇が開いてくれた突破口に突っ込む。



    今が自己紹介のチャンスだ!エイデス!!




    「オレノ、ナハ、エイデス」




    「エイデスね!よろしくエイデス!」




    「アア」






    ……海覇のサポートもあって、無事に全員の自己紹介を終えた一同。






    ……と、ここで、優衣があることを思い出す。




    「そういえば美帆さん、お礼って?」




    そう。今日ここに来た目的……お礼について。




    「あらいけない!私としたことがてっきり話に夢中になってて」




    危ない、危ない。



    今ここで優衣が思い出していなかったら、確実にバックレられたことであろう。




    「それで、そのお礼ってなんですか?」



    「楽しみですー!」






    海覇と優衣が、物欲しそうな表情で、目をキラキラさせながら美帆におねだり。





    「ふふっ、抜け目ないわねぇ、侮れないわ」



    美帆は、仕方がないなぁという感じで、徐に席を立つ。




    「ついてきて!」









    「じゃーん!」



    「おおーっ!」




    海覇達の前に並べられたお礼。




    外国の超有名ブランド『ネッスレ』製の高級魔物のエサ一年分。


    そして、世界一のシェアを誇る日本のおもちゃのフェイマスなブランド『トイザレズ』製の、魔 物が大好きな物壊しゲームが楽しめるセット3種。




    更に極めつけは、西洋の名高い武器職人が手作りで仕上げた、厳選された鉄鉱石から作られた鋼の大剣『ブレイブレード』。



    その刀身は非常に巨大。



    こんなデカい塚を持つことができて、かつこれを振り回せる者など……。








    ……アカツキしかいなかった。




    「これはアカツキ専用にと思って!」




    美帆はニコニコ、アカツキにプレゼント。





    もう、気でもあるんじゃないかってぐらいの尽くしっぷりである。






    「すっげぇー!!超強そうな剣じゃんアカツキ!」




    「ワ、ワタシセンヨウデストォ」



    アカツキは、あまりの自分の優遇のされように、戸惑いを覚える。





    しかしながら、それは美帆のアカツキに対する想いがそれだけ強いということ。





    「……大事に使ってくれると嬉しいな?」



    「……ワカッタ」





    ……アカツキがブレイブレードをその手に持つ。



    すると、2体分の巨体を誇るアカツキでさえ、その重みは凄まじく、少しだけ体が重心に傾く。





    ……だが、アカツキのモノアイには確かに写った。




    丹念にブレイブレードを鍛える、髭をたくわえた白人の職人の姿が。





    ……そして、この逸品を大切な恩人に明け渡す為に、ブレイブレードを大事そうに見つめる美帆の姿が。






    この二つの強き想いが、ブレイブレードの鋼の鈍い光と共に輝いているのが、アカツキには分かった。





    ……この剣なら、どんな敵も切り裂ける。



    ……そう。如何なる敵も。





    ……アカツキは、専用の鞘を背中に背負い、そのなかにブレイブレードを収めた。






    美帆はニッコリ、アカツキに微笑んだ。










    「……ん?」




    突然海覇が、ある気配に気付く。



    誰かがこっちに来る気配に。




    ……というか、ここは店だから、必然的にその気配は客ということになるのだが……。





    「……この感じ、まさか……」





    カランコロンと、ドアに吊り下げられてる木琴が音を鳴らす。


    誰かが入店したのだ。




    「いらっしゃいませ!」



    美帆はすぐさま気持ちを切り替え、応対に回る。




    すると……。





    「あれ?お前……」




    ……その客は、逆立った青髪に、ドラゴンの羽を模した髪飾りを付けている少年。



    この姿は、海覇がよく知るそれ。




    ……そう。






    「竜己!?」
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    蛇雅理故 No.14536261 

    引用

    海覇が感じ取った気配。それは、海覇の幼なじみ『竜己』のそれであった。



    二人は、基本的に毎日、テレビ電話の画面越しに会っているが、こうして面と向かって喋るのは久し振りだ。



    「竜己!久しぶりだなぁ!」



    「海覇も元気そうだな!」




    海覇と竜己は、親友との久しい顔合わせに喜ぶ。




    二人の間に交わされたその言葉は、幼なじみを懐かしむ、暖かい情懐が包んでいた。




    ……やはり、幼なじみということもあって、二人はお互いに心を許しあっている。



    特に竜己なんて、大人でも並みのモンスターマスターなら竜己に対して敬語を使うぐらい、世間的にはモンスターマスターの権威とされているが……。




    ……海覇の前では、ただの活発な男の子。



    モンスターマスター界のホープも、親友に会えたときぐらい、肩の力は抜きたいものだ。





    「竜己君は買い物に来たの?」





    優衣は、竜己にここに来た理由を尋ねる。




    「まぁな。」




    竜己は、爽やかな笑顔でで答えた。







    「『は』ってことは、お前らは違うのか?」





    今度は竜己がきく。









    ……と、その時。



    「……って!」





    ふと竜己は、海覇の背後の魔物2体に気付く。



    「プロトキラーに、ドラゴンマシンだと!?誰の魔物なんだ?」



    竜己は、強力なマシン系のモンスター2体に驚愕する。



    特に、ドラゴンマシンのアカツキは、コアトルのオロチと同じくSランクの魔物。



    中々に仲間にできない、レアな魔物なのだ。



    故に、こいつを手にするマスターはそれなりの実力者……ということになる。





    「美帆さん、いつの間にドラゴンマシンなんて手に入れたんですか!?」




    竜己はまず、美帆の魔物である可能性を疑う。




    しかし、美帆は横に首を振る。




    「ま、まさか優衣の!?実は強かったのか!?」





    竜己は優衣を見るが、優衣の答えはNO。




    竜己は、何が何だか分からず、頭がこんがらがってきた。






    「おい、竜己」




    ここで海覇が竜己に声をかける。



    「なぁ、このモンスターは誰の魔物なんだ?」




    「……」




    竜己は、本当に誰のモンスターなのか気付いていないでいた。




    痺れを切らした海覇は、竜己に真相を告げる。






    「……俺のだよ」



    「……へ?」









    「……だから!俺のだっての!」











    「えぇぇぇぇぇ!?」













    海覇に大声で怒鳴られ、竜己は後退る。




    全く自分が予想できていなかった者が、名乗りをあげたためだ。




    「うっそ……海覇、いつの間に」




    「というか、なんで優衣ちゃんまで浮かんだのに俺の名が出ないんだよ」





    「ははは……竜己君ってば」





    竜己は驚きを隠せない。




    なにせ、少し前まで普通の小学生だった幼なじみが、ある日突然モンスターマスターになっていたのだから。



    そしてなにより、ドラゴンマシンなどという高ランクの魔物を持っていたというのなら尚更。




    ……だが、それと同時に、竜己は感慨深いものも感じていた。







    「……本当に、海覇の魔物なんだなぁ……」





    竜己は、海覇の魔物を観察する内、あることに気付いた。






    アカツキとエイデス……この2体から溢れる……。






    ……無限の可能性。







    そして感じる。










    ……いつか、こいつらが俺達の強敵となり得ると。










    (燃える展開じゃねぇか……!)




    竜己は、いつか来るであろう熱戦に至上の期待を胸に抱いた。
  • 蛇雅理故さんのプロフィール画像

    蛇雅理故 No.14543038 

    引用

    「……へぇ、アカツキとエイデスっていうんだ」




    「ヨロ、シク」



    「ヨロシクナノダ 」




    「なのだ?」



    優衣は首を傾げる。


    美帆のときは「ダゼイ」口調だったのに、竜己に対してはなぜか「ナノダ」。



    口調が統一されていないことに疑問を持つ。



    『ダゼイ』なのか?『ナノダ』なのか?



    ……アカツキのキャラがイマイチ掴めない優衣であった。







    「……?」



    ふと、竜己が何かに感付いたような目付きになる。



    眉間を潜めているところを見ると、何やら警戒している様子だ。



    「ん?何かあった?竜己?」



    「どうしたの?」




    海覇と美帆が、竜己に、何があったのかを問う。








    すると竜己は、窓の方に目を配った。



    「?」




    海覇達もその方向に視線を集める。すると……。













    「いっ!?」



    海覇達は、窓を見た瞬間、驚きの声をあげる。





    窓の向こうに、とんでもない『者』がいたからだ。











    「………………」








    ……その者は、男である。




    ……その男は、筋肉隆々なる肉体を持つ。






    ……その猛々しい男は、所謂『改造学ラン』を着込んでいる。







    その出で立ちは、まさに……。







    ……『番長』と呼ぶに相応しかった。








    「……」



    窓の外の番長は、指では数えきれない程の、子分と思われる男の子達を引き連れて仁王立ちしている。





    「な、なんだあいつら……っ」





    「怖いよぉ……」



    「ピッキー……」






    竜己やアカツキ、エイデス以外は、番長のあまりの厳つさにビビってしまった。





    皆、ガクガクと体を身震いさせている。




    スラすけに至っては、若干半泣きになってしまっていた。





    「わ、私の店に用なのかしら……?」




    美帆は不安そうに番長達をガラス越しに見る。












    「……いや」


    「……用があるのは俺みてぇだな」








    竜己が、真剣な眼差しで彼方を見つめる。




    すると番長は、竜己を誘い込むように、凶悪なる笑みで竜己にガンつける。




    ……奴らの狙いはこの店では無く、竜己ということが、明確になった。







    「……行ってくる」



    竜己は、海覇達から離れ、あの番長の元に向かおうとする。




    だが、海覇がそれを止めた。




    「ダメだよ!」





    海覇は心配そうに、竜己に静止を求める。だが……。





    「いや……俺が行かなきゃ向こうから来る」




    「そうしたら、お前らにまで危険が及ぶだろ」







    「……!」






    竜己は、海覇達の身の危険を案じて、行こうとしていた。



    「竜己……」



    とはいえ、やはり独りで行かせるのは忍びないと思う海覇。



    そこで……。




    「……アカツキ、エイデス」




    「?」







    「……一緒についていってやってくれないか?」



    「!」





    海覇が、アカツキとエイデスの同行を提案する。




    確かに、もし竜己の身に何かあれば、いざとなればこの2体が戦える。



    連れていった方が得策だ。




    「……良いのか?」





    竜己が、アカツキ達に確認をとる。




    「オレ、ハ、カマワ、ナイ」




    「ワタシモオッケーデゴザル」



    「ござる?」






    相変わらずアカツキの口調が変だが、何はともあれ了承は得られた。




    「……ありがとな」





    ……竜己達は、外で待ち受ける謎の番長率いる軍団の所に向かった。




    一体、彼らの目的とは何なのだろうか……?




    嫌な予感が、海覇達の脳裏に過る……。
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