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meamea

見上げる奴隷 振り向く奴隷

雑談

レス:50

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    meamea No.18646493 

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    【レオナールの苦悩 #2】

    「男が弱音を吐くなと父上なら言うと思うがな……ハハハ……いや毎日辛いよ」
    「そう……なのですか」

    レオナールは疲れきっているも余裕を見せるような社交的な笑みをしては絶望とした顔をする。

    「この笑みを何回使えば私は解放される? 夢を捨ててまでやらねばならぬ業か? “父上は本当に尊敬に値する人物”か? 何度自問自答したか」

    仕事が単純に嫌なのではなく、仕事をする自分が嫌なレオナールは淡々と私に話す。

    「リシャールは社交面で多いに助けて貰っている。
    恵みの地、本当ならもっと地位が低いはずの食料庫のグラースが卑下されないのはほぽリシャールのーおかげだ」

    「アンベール。 君も第二のアルピーヌとして注目を浴び……それが不本意だとしてもこのグラースの知名度を上げているのだ」

    すると気付いた。 なんでも家主優先のこの世界で真っ先にウジェーヌの名前はレオナールから挙げられなかった。

    「父上は?」
    「…………父上は 実力はあるさ、だがアルピーヌとアンベールの広く深い才能には劣る。 リシャールの特化した才能だけでも劣る。 私の騎士的な才能にも劣る。 どういうことかわかるか」

    ウジェーヌはいてもいなくても大丈夫

    「父上は……必要ないのですか」
    「馬鹿者、家主いや現時点での領主の父上を貶すんじゃない」

    いや貶してたの兄上では?

    「私達兄弟の裏方作業で父上は有能とうたわれ、私は有能と言われた父上の後を継ぐ。 大して能もなければ差別をするような歪んだ人格の者より私達は下と思われ さらには夢を捨てなければならない」

    レオナールは愚痴をまくしたてるように早口で小声で切実に願うように言った。

    「夢を捨てたくない」と。

    家を継ぐ次男もとい長男となったレオナールには夢を捨てることが決定している。

    能力もない尊敬していない男の為に。
    領主に向いている私がいるのに。
    領主を目指しているリシャールがいるのに。
    騎士になるべくして産まれたようなレオナールは
    夢を捨てる。

    レオナールはそこでそろそろ仕事の時間だと話を切り上げた。

    「すまないな アルピーヌの話をしたかっただろうに」
    「いえ……」

    非常に有益な話でしたよ、と。
    何故か言いそうになった口を閉じた。
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    meamea No.18648973 

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    【資料室】

    レオナールのウジェーヌがしている「差別」が気になったり、ルイズもとても有意義な話をなさっていたそうで。と上機嫌な口調だったのが気になっただけで無事にレオナールとの剣術練習は終わった。

    「レオナール兄上はとても苦労なさっているのだな……四男である私に何か出来ないものか」
    「勉学と剣術を学びレオナール様の補佐として就けるよう努力なさっているアンベール様にこれ以上の頑張りはウジェーヌ様も求めていらっしゃいません」

    要約すると「もう十分ですよ」と言ってくれた。

    ルイズの提案通りこのグラース家のあれやこれ、領地グラースのあれやこれがまとめられている資料室へ向かった。

    あまり使われていないが奴隷達が世話しなく働いている為か綺麗だ。
    6畳ほどのこの家にしては狭い部屋に本棚が並んでいる。

    「どれがどれなのか全くわからないな」
    「アルピーヌ様の資料はこちら、アンベール様の資料はこちらでございます」

    2つの本を手渡された。
    あの世界の本ではなくてハ●ーポッターにでも出てきそうな皮が表紙の本だった。
    印刷技術がまだないそうで全て手書きだ。

    「これは誰が?」
    「お二人の幼少期の資料はヴァレリー、それ以降はアルピーヌ様はイレーヌ、アンベール様はわたくしが」

    幼少期はヴァレリーという共通の人物が書いているらしい。

    「そのヴァレリーとは?」
    「お二人の母親でございます」

    つまり奴隷か。
    でもレオナールとリシャールも母親が違うらしく、
    現時点では全員が全員腹違いの兄弟であるらしい。
    多少似てたり似てなかったりするのはそのせいか。

    「……矛盾だな 私達も奴隷の子なのに」

    この世界の奴隷制度が心底恨めしい。

    「まずアルピーヌ兄上の資料を見るか」
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    meamea No.18651960 

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    【資料室 アルピーヌ編】

    「確かに私とアルピーヌ兄上は似ているな」

    金髪に翡翠色の目、細身で声や全体的には中性的。
    剣術や勉学は非常に優秀で領主に向いた人柄。
    社交が苦手なのが弱点。

    アンベールはただの人見知りってウジェーヌは言っていた。
    アルピーヌは口より行動がお喋りで一部の人間には迷惑をかけていたらしい。

    「グラースの貴族には珍しく、行動で示す方ですから」
    「珍しい?」

    ルイズは資料を探す作業をやめ、説明する。

    「えぇ、貴族の皆様は情報の扱いがお上手ですから……行動で示すのは『奴隷と共に歩む』ですから」
    「愚かである、ということか」
    「奴隷は口を慎み、行動で忠誠を示しますから」

    アルピーヌはレオナールとは良好でウジェーヌやリシャールとはさほど仲が良くなかったらしい。
    私との関係は不明らしい。

    「ん……? これは何だ?」

    アルピーヌの資料の中に「遺言」と書かれた紙が挟まっていた。
    ルイズは口と思われる場所に手を当てる。

    「……そんなまさか……………あり得ませんわ」
    「遺言書があり得ないのか?」

    その瞬間、ルイズが腰を抜かした。
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    meamea No.18652969 

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    【資料室 契約書編】

    「ルイズ、大丈夫か!?」
    「も……申し訳ございませんアンベール様。
    驚いてしまって……」

    良かった、体調が悪いのかと思ったよ。
    ルイズが腰を抜かしたのアルピーヌの遺言書である。
    だが、良く見ると遺言書に薄く斜線がひかれ契約書と書かれている。

    「契約書だと……?」

    領主にならずグラースを栄えさせるための裏方に徹すること。
    レオナール、リシャールに害を与えない。
    自分の地位は常に最底辺だと認識すること。

    契約書にはそんなことが書かれていた。
    契約者はイレーヌとアルピーヌ。

    ルイズに説明を求めると、ルイズは少し震えた声で話し始めた。

    「ごく稀に男性の方が役たたずとされて奴隷となるケースがございます。 その者は奴隷の中でも最底辺、そしていじめの標的になります……その者のことを『雪下の子』と呼ばれるのです」

    雪下の花は特別な能力がない。
    そのため特別な能力のない男、選ばれなかった愚かな男という意味でそう呼ばれるのだそう。

    「アルピーヌ様は恐らく雪下の子。 アルピーヌ様は類い稀なる優秀さで特例で奴隷から貴族になったと思われます」

    一度いらないと言って捨ててその後に奴隷としての才能を見込んで奴隷達からアルピーヌを取り上げたということになる。

    ……
    ……最低。 最低、あの親父……!

    「あまりにも……愚かで忌々しい」
    「アルピーヌ様と同じ道を辿るのですか」

    ルイズが強い口調で吐き捨てるように言った。
    声こそ大きくないが、意思は強い。

    「奴隷と共に家を飛び出したアルピーヌ様はウジェーヌ様に捕られられました。 その後契約破綻として別荘に隔離。 飢えて亡くなったのですよ」
    「……何故 言わなかった」

    ルイズはきつく拳を握りしめ、クッと顔を上げる。

    「逃げて欲しくないからです アンベール様に生きていて欲しいからです。 グラースを王座へと導き、神の地にいらっしゃるアルピーヌ様の未練を貴方が消して欲しいのです」

    ルイズの従者としての考えが染み付いていることに苛立ちを覚えながら必死に否定する。

    「アルピーヌ兄上は……そんなこと思っていない!
    こんな契約書を結んでも逃げ出したのだ。
    アルピーヌ兄上が求めたのは……!」

    貴族の地位でも、領主でも、復讐でも、なんでもない。

    「普通の人間として生きる権利だ」
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    meamea No.18656054 

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    【アルピーヌの願い】

    「私は差別が嫌いだ アルピーヌ兄上もそうだったのだろう。 レオナール兄上も大っぴらには言えんが嫌いだとおっしゃる。 リシャール兄上はジゼルの様子から悪くは思っていない 父上は差別主義……」

    アルピーヌは奴隷達と過ごし辛い思いをした。
    耐えて耐えて、自分を磨いて磨いて……やっとその辛い日々から逃れて差別をされない貴族としての地位を手に入れた。
    だが違う。 彼は貴族になっても奴隷でも満足はしなかった。

    「普通に生きたい」

    男女差別などない普通の場所で生きたい。

    「アルピーヌ兄上は僅かな希望『貧民達が男女差別をしていない』ことに賭けて家を出た。 貧民になろうと、奴隷よりかはマシだろうなと、希望を持って」

    全ての辻褄が合う。
    貴族になっても貴族のやり方に背き続けたのは貧民への希望があったから。
    体が弱いのは奴隷寮でいじめられ栄養をとれずに育ったから。
    後追いするような者がいるのは何かがグラース家の人間より輝いていたから。

    「……飢えて死んでも良い "アルピーヌ兄上の未練"を果たす」
    「待って下さいませ」

    部屋から出ようとすると、ルイズに引き留められた。
    手をがっちりと掴まれた。

    「貧民達に紛れようと貧民達の間で差別があります。 どこにいようが変わりませんわ もう一度考え直して下さいませ」

    ルイズの涙が奴隷の服の胸元にポタポタと落ちる。
    別れを惜しむ恋人のような台詞に息が詰まる。

    「他領のケースはどうなのだ、逃亡者が生き残った資料は」
    「他領のことは存じません 嫁入り奴隷に聞いた方がよろしいかと」

    じゃあ他領は男女差別してない可能性があるの?
    もしかしてこの領地、下手したらこの家だけ酷い差別をしてるってこと……?
    なら貧民に逃げたアルピーヌの作戦のミスを直して逃げられるかもしれない。
    貧民の情報に詳しいのは……

    「ソフィアだ! ソフィアに話を聞こう」
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    meamea No.18656346 

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    【アルピーヌの願い #2】

    「アンベール様!」

    ソフィアに貧民情報を頂戴すべく
    奴隷寮へ続く階段を下っていると、空色の服を着た一人の少女がかけ上がって来た。
    よく見ると少女は片目を縫っている。

    「大変なのです、その、あのソフィアとジゼルが……! カロルが看病をしてて……!」

    明らかにパニックになっている少女をルイズが抑える。

    「エマ、落ち着きなさい カロルに報告してわたくし達が来たことを知らせて頂戴」
    「分かった、行ってきます!」

    パァっと目を輝かせた少女はタンタンタン、と階段を足を挫くのではと心配になるリズムで下って行った。

    「エマは生まれつき両目の色が違い、何方かに片目を潰されてしまったのです。 あの子はわたくしの妹のような子です 服の色が失った目の色ですね……あの子なりにやりたいことでもあるのでしょう」

    妹というより娘に近い響きでエマを褒める。
    それより気になるのがソフィアとジゼルだ。
    エマの様子から軽傷ではないのだろう。

    「心配だな」
    「えぇ……嘘透かしの花の季節なら良かったのですけれど」

    本当にその通りである。


    「アンベール様! ルイズ! 大変だ、こりゃ誰かグラース家の方々にやられたね……」

    冬なのに冷や汗を流しているカロルは口調が崩れ、苦い顔している。

    ジゼルは肩で息をし、苦しそうに寝ている。 僅かに見える足にはたくさんの痣がつけられていて、痣の色が足の色なのではないかと思わざるを得なかった。
    ソフィアは壁に寄りかかり、布で腕を止血している。 そのため、布がやや赤色に染まっている。
    意識はあるようで、傷が付けられていない方の手でルイズに手を振っている。 顔は笑顔だが苦しそうだ。

    「い、一体何が……」
    「アタシとジゼルは別件です、言ってしまうとアタシはウジェーヌに、ジゼルはリシャール様にです」

    あぁ……やっぱりヤンデレ親子か。
    レオナールの株が上がり、ウジェーヌとリシャールの株は大暴落だ。 株主が発狂するぐらいの暴落である。 とりあえず、意識のあるソフィアから話を聞こう。
    ……イライラしそうだけどね。

    「ソフィア、何が?」
    「…………これ以上アンベール様に貧民の情報を流すな、と。 もうすぐビジューへウジェーヌ様は交渉に行かれるので」

    言うかどうか迷っていたが、ルイズに頷かれて喋ったソフィアはスッキリした顔になった。

    「一言だけでこうですよ、奴隷というのはこのような扱いなんです。 アンベール様を汚れた貧民達から遠ざけようと必死ですよね」

    ニヤリと笑いながら言っているが、この傷を治せないからと悟って愚痴を吐いているに違いない。
    私はソフィアの無傷の手を握り、目を見て話す。

    「ソフィアを私は助ける そんなことを言うな」

    そっと笑いかけるとソフィアは止血している布を見て、もう一度こちらを見る。

    「信じています 雪下の貴公子様」
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    meamea No.18657677 

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    【雪下の貴公子】

    「何だ、それは?」
    「ソフィア、アンタ…………いいよ、この際言っちまいな。 アンベール様は悪用しないさ」

    カロルがジゼルからソフィアに目をやり、ニカッと笑う。 初対面の殺意はどこかへ飛んでいっていた。

    「雪下の子は……ご存じのようですね ルイズ、あんまりアンベール様に教えるとアタシの教えることがなくなっちゃうよ……雪下の貴公子は辛い冬を照らす雪下の花のように辛い奴隷生活の日々を照らす方のことです」

    アルピーヌも含まれているらしい。
    貧民の町で居場所を見つけたら必ず君達を連れて行く、と労働奴隷達に言った。

    「雪下の子は雪下の花の無能さをあらわしています。 ですが雪下の貴公子は違います、貴族の皆様が役立たずとしてもアタシ達には冬を越すための明かりなのです」
    「アンベール様は似ていますよね! 青っぽい緑の瞳に白に近いような金髪のアンベール様と白と青っぽい緑の雪下の花!」

    ソフィアの説明に便乗したのは落ち着きを取り戻したエマだった。
    ルイズがエマの頭をそっと撫でる。


    「ジゼルは? 本人の意識がないようだが……ソフィアは何故襲撃主が特定出来た?」
    「それについてはわたくしから報告があります」

    スッと目の光が消えたカロルが看病を他の奴隷に任せて立ち上がる。
    私はカロルの目を見る。

    「ジゼルは他領との交渉へついて行った際に他領への憧れが強まったと話していました。 そして何かこの家の秘密を知り、リシャール様に処分されたのだと思われます」

    他領とグラースの差。 秘密。 ジゼルの憧れ。
    これで確信に変わった。 同時に怒りも込み上げて来た。


    「…………間違いない、この領地にしかこの奴隷制度はない!」

    ソフィアは目を見開いて、カロルはきつく歯を食い縛る。 エマはルイズの後ろに隠れ、当のルイズはまた拳を握りしめた。
    私はただウジェーヌやリシャールへの怒りを必死に抑えていた。
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    meamea No.18660068 

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    【雪下の貴公子 #2】

    「わたくし達を救うための証拠ならいくらでも探せば見つかります、ですがどのようになさるおつもりですか?
    国家の食料庫として栄えたグラースは国の経済を支えています。 ウジェーヌ様やリシャール様を処すことはアンベール様の実力では可能でしょう。
    ですが一人でこの家を続けさせるには無理がございます。 レオナール様も連座となり処すことになるでしょう」

    ルイズが言い訳のように話す。
    確かに限りなく正解に近い「正論」である。
    だがそれは正しい理論であって正しい行いではない。

    「アルピーヌ兄上と貧民との関係を徹底的に調べ、別荘にて餓死したアルピーヌ兄上を墓へ埋める。 虫に食われているだろうが、遺品のひとつふたつは埋めるのが義理だと思う」
    「ではアルピーヌ様を弔う為の脱出なのですか?
    ですがアンベール様が処刑されるだけですし、アンベール様の願いも叶えられません」

    ルイズは必死に訴えかける。
    主に死んで欲しくないという切なる願いが感じられる。
    う、と息詰まっていると誰かが小さな声で言った。

    「作戦を引用すれば良いだけですよ……いいものは真似をするが人の性ですわ」
    「ジゼル……」

    ボロボロになりながらもジゼルは助言をしてくれた。
    彼女も辛いだろう。
    慕っていた主に切られ、その主を倒さんとする人間にしか頼れないのだから。

    「真似するったって、何を?」
    「アルピーヌ兄上の戦略だ」

    そう、資料室で考えついていた。
    「貧民に逃げたアルピーヌの作戦のミスを直して逃げられるかもしれない」と。
    あの時はまだ確信が持てずに貧民に逃げたかも怪しかった。
    だが今は違う。 ウジェーヌの過剰な貧民避けは私からアルピーヌの情報を探らせないためであると自信を持って言える。

    「詳しく書いていないのか? アルピーヌ兄上の逃亡の詳細等……」
    「イレーヌが生きていれば聞き出せたのでしょうけれど、生憎イレーヌもおらずアルピーヌ様は他の奴隷と関わりを持とうとしませんでしたから。
    最年長のカロルが少し記憶にあるぐらいでしょう」

    カロルは最年長らしい。 見た目は姉御肌な25歳ぐらいに見えるが……それともここに老いた女性達がいないとは老いると死を迫られるからだろうか。

    「えぇ……ウジェーヌ様は貧民、美しくない女、花を嫌います。
    アルピーヌ様はその三つ全て揃う所へ行くとイレーヌから聞きましたがそれだけで……」

    カロルが申し訳なさそうに眉を寄せる。
    だがそれだけわかれば大丈夫だ。

    貧民は貧民の町にしかいない。
    女性も貧民達に差別がなければ貧民の町に普通にいるだろう。 その中に失礼ではあるが醜女のひとりふたりはいるだろう。
    残すは花だ。 別荘に隔離されたアルピーヌは別荘からそう遠くない花のある場所へ向かったのだろうか。
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    meamea No.18662161 

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    【リシャールの微笑み】

    「……試しに抜け出すか」
    「はっ!?」

    エマが目を見開いて驚く。
    意訳すると「試しに殺されに逝くか」ということだ。

    「アンベール様、それは我ら奴隷の役目です」
    「えぇ、今やらねばならない訳でもありませんでしょう? せめて貧民に詳しいソフィアが回復してからにしてなさっては?」

    カロルとルイズに咎められ、一気に士気が下がった。
    私を冷静にするための言葉を突いてくるのがなんとも悔しいがソフィアの力を借りざるを得ないのは事実だ。
    それにジゼルの件の方が家で解決出来る。

    「そうだな、根回しや計画を綿密にたてた方が良い」
    「ソフィアとジゼルはわたし達が看病するのでそろそろ部屋に戻られた方が良いかと!」

    エマにも言われてしまったので戻らざるを得ない。
    こういう時のちっちゃい子の意見は本当に独裁だからなぁ。

    奴隷寮の階段を登っていると妙な胸騒ぎがした。
    それはルイズも同じだったようで……

    「ルイズ」
    「…………えぇ 少し胸が騒がしいですね」

    「それに」、と階段と廊下を繋ぐ扉をルイズが開けると……

    「「嫌な予感が」」

    ルイズの声と男性の声が揃う。
    ルイズは帽子と顔を隠す布の間から僅かに見えた流し目をし、私は顔を向けるとそこにはリシャールが完璧な王子様スマイルをしていた。

    「……やはり」

    ルイズが呆れるように呟いたその瞬間リシャールにルイズは布で口を覆われた。
    引き剥がそうとしたが、リシャールの奴隷に拘束されてしまった。
    しばらく抵抗していたルイズも動かなくなっていた。
    私はリシャールの奴隷に背中を蹴られ、床に顔を打ち付けた。
    鼻に痺れるような鋭い痛みと鼻血だろうか、それとも口を切ったからだろうか。
    少し赤くなった床に視線を向けていた。
    リシャールを見るとそれはそれは冷たい真顔で台車にルイズを廃品のように乱暴に乗せた。
    襟元を力を入れずに軽く掴まれ、リシャールは真顔でこう言った。

    「剣術は家族から自分を守るために使うのですよ。
    知りすぎた貴方は他人から自分を守らなければ、ね?」
    「このようにして……許されるのですか」

    はて、と首をかしげたリシャールはナイフを私の額に向ける。

    「許す許さないの選択肢がありません、このことは無かったことにするのですから 貴方は謀反を起こし、アルピーヌ兄上と同じ末路へ。 貴方にピッタリではありませんか」

    ナイフに力を入れ、細く額に傷を付ける。血が垂れて、片目を瞑る。

    「目が覚めたら尋問の時間ですよ おやすみなさい、アンベール」

    ルイズと同じように口を布で覆われた。
    その布には睡眠薬が染みていたのか強烈な眠気に襲われた。

    リシャールの手口は静かだったので奴隷達が駆け寄ることもないままに意識を失った。
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    meamea No.18664421 

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    【リシャールの微笑み #2】

    「……おはよう」
    「おはようございますアンベール様 調子はいかがですか」


    「最悪だ」
    「同意します」

    二人とも手と足に鎖をかけられているが喋ることは出来る状況だ。
    床に直に座っている状態なので少し冷たい。
    灯りはついていて、窓は締め切っている。
    どこかわからない部屋でしばらくルイズと状況の整理をしていた。



    「なんとも奇妙な関係ですねアンベール」
    「リシャール兄上」
    「奴隷を助言者とするなんて……堕落しましたね 神に叱られますよ」

    リシャールが呆れるようにルイズを笑顔で冷たく見る。 ルイズは目を伏せる。

    「奴隷ごときが目をそらすとは生意気ですね
    よくこんな“物”を仕えさせていますね、アンベール。 貴方は正気ですか?」

    凄い勢いで足を踏まれた。
    じんじんと痛みが広がる。

    「尋問と言いましたがまずなぜ尋問するかを答えましょうか。
    ひとつ、父上の邪魔である貴方達を排除するためです ふたつ、ジゼルに触れたのが少し……ね?」

    …………気持ち悪い顔。
    ぞわっとするような笑顔に背筋が凍るような忠誠心と独占欲が生理的に受け付けない。
    あの世界で言うストーカーとかそういう類いの気味の悪さだよ。
    美形の顔なのに言動で台無しである。
    世の面食いの女性たちもNOと答えるような気味の悪さに顔をわずかにそむける。

    「さて……まず言いましょうか 何故そんなに奴隷を大切にするのですか?」
    「私の考えによる行動の結果です」

    かつてまだイケメンお兄さんというイメージだったリシャールのようにサクサクと答えるつもりだ。
    リシャールはルイズの帽子を取り、素顔を出させる。
    せっかくの美顔が無に染まっている。

    「それは貴様の考えか?」
    「いえ」

    リシャールの独特な威圧に怯むことなく淡々と答えた。
    これは事実だ。 アンベールの元からの考えと私の行動力によって……

    もしかして

    「次です」

    こうなってるのは

    「アンベール、聞いてますか」

    私(ひかり)のせい……?
    ただこの世界に染まるって意気込んでいたけれど次々と私中心に塗り替えた私のせいでルイズやジゼル、ソフィアを傷付けた。

    キンッ

    剣を床に突き刺すように脅かしたリシャールが笑顔で「もう一度聞きますね」と言う。


    「アンベール、貴方は誰ですか?」

    ルイズもこちらを見る。 この世界に来て早々に怪しまれたルイズ。 まだこの世界に来て十日も経っていないのに状況が変わりすぎた。
    私は嘘をつくつもりはなかったが、ここで本当のことを言うと本筋から反れる。
    私は不敵なつもりの笑みを浮かべて言う。

    「アンベール・グラースです」と。
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    meamea No.18665502 

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    【リシャールの微笑み #3】口喧嘩編

    「……てっきり『非差別的な考え』を誰かから吹き込まれたのかと思いました そうですか、自発的にその考えに至ったのですね、アンベール・グラースが」
    「はい」

    返事に食いぎみで嘘を言わないで下さい、とリシャールが微笑む。

    「何をしていたんですか? 何を見たのです? グラース家に伝わる考えはとうに染み付いているはず……レオナール兄上ならば他領へ出向き、この家のやり方を不思議に思うことがあるでしょう けれどこの領地から出たことがない、この家を常識とするアンベール、貴方が何故“正当な評価”をしないのです?」

    差別のことを正当な評価と言っているのがかなり膓が煮えるような怒りを感じるが、必死に抑える。
    言質を取られる訳にはいかないのはお互い様だ。

    「正当な評価でないと自己判断したからです
    性別の違いで区別をつけるようなことは道徳的に社会的に宗教的に生物的に哲学的に…………間違っています」
    「ほぅ? 女は醜くないと? 要らぬ脂肪に身を包む気味の悪い生物ですよ?」

    医学の発展していないせいか人間に関する知識は前世の私でカバー出来る。 これが私のチートだ。

    「女性は出産中心に体作りがされ、男性は狩り中心に体作りがされています 用途の違いです、差別理由にはなりません 即ちその考えは非情です
    そもそも女性がいなければ我らは産まれません」

    私がそう言うと高笑いをしたリシャールはルイズと私を同時に睨みつける。
    まるで獲物に抵抗された獅子のように冷たく、確実な殺意が見えた。

    「それは差別をしない理由にはならないですよ?
    気味が悪い、美しくない、それで理由になる
    差別をしても利益はでない、反対に差別をしても不利益は出ません なら好きにやればいいのですよ」

    この後に及んでまだ敬語のリシャールにいちいちイライラしながら半ギレ気味に捨てるように反論する。

    「では何故秋の女神を卑下しないのですか?」
    「神だからです」
    「神と人を差別する、ということでよろしいですか?」

    え? そうだよね、リシャールは女神様なら女を醜いと思わない、ただし人間の女性は無理って言っているんだよね?

    「ジゼルや他の奴隷は?」
    「子を作るのに最適な容姿ですから」

    ……こっちのターンだ ボロが出たな、ヤンデレ兄ちゃん!

    「理解しました、リシャール兄上は身近な美しい女性を大切にし、それ以外は見下すというご考えなのですね? 真の男女差別主義は女神を信仰しませんから そして男女差別主義の父上は神の化身である花が嫌いなのですよね?」

    リシャールが男女差別の根源でないのは理解していたが、リシャールが本当に男女差別をしているかが分からなかった。 ウジェーヌに言われてやっていただけの可能性もあったからだ。
    これはこれであの世界ではクズなのだが、いわゆる
    「身内に甘く、他人に厳しい」というのがリシャールの考えなのだろう。

    つまり、敵か味方かで判断するタイプだ。
    敵である奴隷に接触を続ける私を敵と見なし、ウジェーヌに便乗したということだ。

    意図を見抜かれたリシャールは心底嫌そうな顔をした。

    「能力だけでなく口も達者とは忌々しい」

    と呟き、私の首元を……!
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    meamea No.18666746 

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    【リシャールの微笑み #4】仕返し編

    「ぐっ……!?」

    リシャールに首を絞められた。 何故斬られないかは本当に謎だが殺されそうになっているのは事実だ。
    強い圧迫感と血管が千切れるのではないかという危機感が脳を支配するようにうまく頭が回らない。
    必死に離そうとする。 僅かに力が抜けたのを見抜き、リシャールを鎖でまとめられた両足で突き飛ばす。
    咳き込んだリシャールは直ぐ様恨めしそうな顔をした。

    「父上がいればこのような事に……!」

    リシャールの発言からウジェーヌは確かビジューという領地に交渉に行ったはずだ。
    転生初日にレオナールと話をしていた。
    つまりレオナールもこの屋敷にいない可能性がある。
    私達を殺すのには絶好のチャンスだ。
    リシャールが恐れているのはグラース家の物理的な最大戦力であるレオナールがこちら側につくことなのかもしれない。
    実際、レオナールは差別を批判していた。

    「私が貴方をアルピーヌ兄上の所へ見送らなければ」

    体勢を立て直し、剣を降りかざしたリシャールの脛をルイズがさっきの私のように蹴り飛ばす。
    奇跡的に弁慶の泣き所にヒットしたように私が蹴った時より苦しんでいるようだ。
    手離した剣をルイズが拾い、鎖をピンと張るように指示すると失礼しますと鎖を斬った。

    「!?」

    西洋系の剣はそもそもかなり重いし、
    さらに鉄を斬るのには相当な力がいるはずだ。
    剣も上手くないと私を斬る可能性だってあった。
    単純にルイズが剣裁きが上手いのはわかった。
    そう私が思っているのを見抜いたらしく、ルイズは自身の鎖を斬りながら言った。

    「騎士を志していましたから」

    自由に動ける状態になった私とルイズはリシャールに近付く。

    「アンベール様、どうぞ」

    処刑して下さい、と笑みを浮かべるルイズに首を振る。

    「一応命は生かしたいのだが……」
    「そうですか、ではわたくしが」

    靴を脱がせ、足のかかとらへんを斬った。
    血が吹き出した様子を一瞬だけ見たがすぐにルイズがくるっと私を後ろに向かせたのでショックには至らなかった。

    「何故そこを?」
    「ここを斬れば歩けなくなるではありませんか」

    アキレス健を斬ったということか、恐ろしい。
    騎士志望のルイズは他領での女騎士にでも憧れていたのだろうか。
    ブンッ、と剣から恐らく血を落とすように剣を振ったと思うのだがその動作だけでもウキウキしているようだった。

    そうだよね、夢の職業の道具を持ってるんだもんね。
    私も警官を目指していたから警察の道具を持ったらウキウキする自信がある。




    「では尋問の時間です、リシャール兄上」
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    meamea No.18667164 

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    【リシャールの微笑み?】

    ルイズにうつ伏せにされ、少し呼吸が苦しそうなリシャールはルイズを睨む。

    「フッ……そもそも歩けなくして大丈夫なのですか? 社交面でこのグラースを支えているのは私ですよ?」
    「えぇ、近い内にこの家を去りますから」
    「は? アルピーヌ兄上と全く同じ道を歩むつもりなのですか? 馬鹿ですか?」

    罵倒から煽りにシフトチェンジしたようなリシャールは変な気味の悪さが抜けていた。
    ……これが本性ってことか。

    リシャールは2日ほど私達を監禁していたらしく、ウジェーヌには処刑寸前だと告げたそうだ。
    ウジェーヌは家の人材をこれ以上減らしたくないらしいが反乱分子は除いておきたいらしい。
    それこそ馬鹿だと思う。
    グラース家の強みである差別習慣の洗脳を使って従えさせればいいのに、と思った。

    「父上はつくづく無能ですからね その上に人材を捨てたがり、怒りやすい 父上ほど貴族に向いていない人間はいませんよ 雪下の子のアルピーヌの方がよほど有能です」

    ククク、と趣味が悪い笑いをあげたリシャールはウジェーヌでさえ罵倒した。
    そうか、レオナールが言ってたような……「リシャールが領主を目指している」と。
    その為には現役をおだてた方がいい。

    「レオナール兄上と私の利害は一致しているはずですがどうしても父上が邪魔なのです」
    「つまりアンベール様とウジェーヌ様をアルピーヌ様の元へ送る計画だったということですか」

    ルイズが汚物を見るようにリシャールを見下す。
    リシャールはルイズの推測を肯定しながらルイズの足を拳で強く叩く。

    「奴隷ごときがでしゃばらないで下さい」
    「それがグラースが天下を取れぬ理由ということに兄上や父上は何故気が付かないのですか」

    リシャールにいい加減イライラしてきたので思わず言ってしまった。 リシャールは「はぁ?」という顔をしている。

    「男女差別さえなければこの領地は王国に認められたはずです 実際貴方のおかげでこの領地は上手く行っているのですから 性別の違いは視点の違いのみです 地位の違いなんて最初からありません」

    もっとも、私に手をかけなければ……と額の傷を指差す。

    「女を舐めないで下さい、兄上」
    「まるでアンベールが女のようですね 頭がおかしくなりましたか」

    だって女だし。
    という言葉は胸の奥にしまう、せっかくアンベールです! と通したのに今更言う必要はない。

    「ずっとそこで這ってて下さい 直にアルピーヌ兄上が迎えに来るでしょう」
    「そうですね この家に」

    お前に、と聞こえたがドアを閉めルイズが持ってきた紐で拘束したので問題ない。
    リシャールはもっと丁寧な言葉を使うはずだ。
    お前に、なんて言わない。 声はリシャールだったが。

    「制限時間は父上がこの家に戻るまで つまり月が満ちるまでだ 精々5日、遺書を書いて待ってなさい」

    ドアから聞こえた有益過ぎる情報を頭にメモをしてルイズと話す。

    「逃げますか、戦いますか」
    「勿論それは……逃げる為に戦う」
    「かしこまりました」
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    meamea No.18671538 

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    【満月がタイムリミット】

    リシャールを閉じ込めたその後、自室に戻りルイズと会議をする。

    「ここで振り返ろう アルピーヌ兄上は父上の嫌いなものが集まった所へ逃亡を志したが捕らえられて別荘で餓死……ということだな?」
    「えぇ ただ餓死しているとは限りません そこからも逃亡し、行方を眩ませて他領……いえ他国にいらっしゃるかもしれません」

    生きていても別荘にいる確率は限りなく低い。
    だが、体が弱いアルピーヌが一人で生きていけるだろうか。

    「その点については大丈夫かと。 アルピーヌ様は魔花や神学に精通していらっしゃいましたからその研究で結果を出せばその領や国から資金が出て、体の弱さをお金でカバーしている可能性もありますから」

    何より、社交がとびきり苦手で裏方に撤していたアルピーヌは他領の人達に顔を知られていない。
    偽名を使えばいくらでも存在を誤魔化すことは出来る。

    「その研究の夢を叶える為に普通の生活が必要だったということか? だとするとあまりに自己中心的だが……レオナール兄上はこんなにも耐えているのに」
    「逆だと思います。 普通の生活を手に入れる為に研究をしている方が辻褄が合います」

    幼少期に辛い思いをし、貴族になっても辛い思いをして吹っ切れて逃亡……ストライキ、ということになるのだろうか。
    ルイズの考えだと今まで聞いたアルピーヌ像にかなうと思う。
    アルピーヌが生きている可能性を見つけて少し希望が見えてきたと思ったがルイズが止める。

    「ですがあくまでこれはアルピーヌ様が別荘から抜け出していたら、という稀な話です 別荘は山の深くにあり山には川が流れています 逃げるにしてもアルピーヌ様の体力では絶望的です」

    近くには狼や熊も出るらしく、剣術で多少は対応出来ても体力がもたない可能性が高い。

    「だが生きている可能性はあるのだな」
    「ですが死んでいる仮定で考えましょう どちらに転んでも不利益はないはずですから」

    大は小を兼ねる、か。 イレーヌの後追いや別荘の状況で絶望的と考えた私はアルピーヌが生きている可能性をほぼ捨てた。
    すると、来客があったようでドアにノックがされる。
    ルイズが対応すべくドアへ向かうとそこには片腕を布でぐるぐる巻きにしたソフィアが待っていた。

    「ソフィア…………腕は?」
    「……むぅ! あたしのことなんてどうでもいいですから!
    それより何処に行ってたんですか!? 二日連絡が途絶えたのでもうここから出ていったとばかり……」

    手をわきわきとさせて必死に感情を処理しているのが分かった。
    嬉しさと安堵と怒りが渦巻いているのだろう。
    私はまた安心させるように微笑む。

    「少し監禁されただけだ すまないな心配かけて」
    「監禁って…………と、とにかく! ジゼルの予想が当たりましたね ジゼルから話があるようですから!」

    どうぞ! と眉を吊り上げてソフィアがはける。
    ちょうど室内から見えない位置にいたようで、ルイズが木を松葉杖のようにつき、一礼した。

    「ちゅ、忠誠の佇みは出来ないのですが一応わたくしはジゼルですどうぞよろしくお願い致します……」
    「寝てなきゃダメだろう、ジゼル!?」

    ルイズも肯定する。 貴族に話があるときは奴隷が来るのが基本だが、ソフィアに伝言を頼むことが出来たはずだ。
    まだ痣は癒えないままに丈の長い灰色の服を来ている。

    「直接会ってお話した方がソフィアの負担やアンベール様の負担が減るかなと思ったのです」

    声が若干震えている。 大丈夫だろうか。

    「アンベール様 ジゼルは仕事の時は態度が冷たいのですが普段は引っ込み事案で話下手なんです
    声が震えているのはガチガチに緊張してるからです ね、ジゼル」

    コクコク、と頷きソフィアのフォローを受け取ったジゼルは深く呼吸をして入室を求めた。
    私は当然上がらせて椅子に座らせた。

    「まだ全身が痛むのだろう? 私の代えの枕を背中に置いて休んでくれ」

    ジゼルは少し浅い呼吸で座った。 本人(ソフィア通訳)曰く、これも緊張らしい。

    「嘘透かしの花の蜜を厨房で見つけたのでジゼルの茶菓子に入れますね」

    季節外れの傷の回復を助ける嘘透かしの蜜を見つけるなんて……一昨日の「嘘透かしの花の季節なら良かったのに」というルイズの思いは強かった。
    ソフィアは無駄な茶と茶菓子はルイズの負担! と言ってジゼルのお付きとして受け取らなかった。

    少し落ち着いたのかジゼルは一枚の紙を取り出した。
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    meamea No.18672542 

    引用

    【満月がタイムリミット】密告ジゼル

    「これは?」
    「グラース家の別荘周辺の地図です」

    ここが別荘で、ここが……と淡々と説明するあたりジゼルは別荘に言ったことがあるのだろう。
    確かに山と川が周りにあり、狼と熊の注意書きが地図に書かれていた。

    「これは私がリシャール様に頂いた物なので差し上げます、もうリシャール様の立場はないでしょうから……その、もし別荘に寄られるのでしたら何か役に立てばいいのですけれど」

    口下手と聞いたジゼルがここまで勇気を振り絞ってわざわざ来てくれたのだ。
    ありがとう、と感謝を述べて頂戴した。

    「後は何か?」

    ルイズが言うとジゼルは頷いた。 ソフィアはそれは知らなかったようで「さすが嫁入り奴隷だねぇ」と言っている。
    本当は二人とも安静にして欲しいが協力してくれるので力を貰う。

    「もしお逃げになるようでしたら貴族手当てを持っていかれた方がよろしいかと思います」
    「完全に節穴だったわ……」

    ルイズが口をあんぐりさせている。
    帽子がないので表情がよく読めて良いね……いけない、いけない。 私は男だった、ルイズにときめいてる余裕はない。

    貴族手当てはアンベールの記憶にあって、簡単に言うと貴族の身分証明の紙。
    その紙が家に残ったまま逃げてしまうと「誘拐」扱いになり捜索手続きをされてしまうらしい。

    「雪下の子の知識をご存じのようなので資料室に行かれたと思うのですが、ありましたか?」

    私は選別していないのでルイズに視線を送る。
    ルイズは眉を潜めて首を振る。

    「いえ、アンベール様の手当てはございましたがアルピーヌ様の手当てはございませんでした アルピーヌ様の手当てがないのでわたくし驚いてしまって……」

    ルイズが資料室で腰を抜かしたのはそのせいだった……でも、ジゼルが言った通りに手当てがないならむしろ朗報だと思う。
    アルピーヌは貴族手当てをちゃんと持っていなかったから失敗したという線が潰れた。
    だが、ジゼルもソフィアもルイズも顔色が悪い。

    「では……ウジェーヌ様は赤の他人を別荘に閉じ込めたことになるではありませんか」
    「えっ? ど、どうしてそうなったのだ」

    内容を渋るジゼルに代わり、ルイズが話す。

    「貴族手当ては家族との縁も繋ぐものです。
    それを家に残らせずに他人となって家を出たのですからそれは勘当でも家の謀反者の処刑ではなくただの権力乱用です」

    勝手な貴族イメージは
    「そこのお前、俺様に逆らったな! 死ね!」
    っていうイメージだったし、リシャールが実際そんな感じだったので私は若干引いていた。

    「ま、待ってくださいアンベール様 ジゼルはリシャール様の権力乱用の後の失脚を見越しここに来てますし、さっきジゼル本人が立場がないって言ってましたよ!」
    「だが私を殺すのも乱用なるではないか、まさか他人は殺してはいけなくて家族は良いなんて言わないだろう?」

    疑問が増えた。
    てんこ盛りである。

    「あ、いえその、ウジェーヌ様が不在で証拠もなくただ自身の利益のために家族を処刑するのは当然罪に問われます そしてご兄弟の一番上であるレオナール様がアンベール様寄りです アンベール様とルイズが生きていた時点でリシャール様は失脚決定です」

    ジゼルがあわあわとしながら必死に否定する。
    私がアンベールになるまで嫁入り奴隷として忠誠を誓っていたにも関わらずすぐコロっと意識を変えられるのは凄いと思う。
    ……あー、でもジゼルは嫁入り奴隷でも心がボロボロだったように見えたし完全服従ではなかったのかな。

    「ん? じゃあこの家は罪人だらけではじゃないか 私も一応罪人となるのだから無実はレオナール兄上だけだろう? 連座になる可能性もあれば生きていても仕事を抱え込むのが大変だろう?」

    ん? と頭を悩ましているとソフィアが爆弾発言をした。

    「あたし達労働奴隷の狙いはそれですよ」

    ……え?
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    meamea No.18673579 

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    【満月がタイムリミット】企みソフィア

    「カロルからの情報ですが他領に次期領主にはリシャール様、という声が多いらしいのでその最大派閥を潰し、ウジェーヌ様の罪を芋づる式に洗い出し、アンベール様はしびれを切らし手当てを持って逃亡、一人残されたレオナール様は私達奴隷に力を乞うかウジェーヌ様の連座処刑…………どうです? 私達労働奴隷はこの計画を立ててきました」

    恐ろしい。 それはつまりグラースを衰退させるということになる。
    潔白の私をこちら側に来させ、もう一人の潔白であるレオナールを崖っぷちまで追い込み「助けをさしのべてもいいけどぉ?」と脅すということだ。

    奴隷達には道がある。
    レオナールが連座にて処刑後グラースを捨て私と共に逃亡、または女性達だけで政治を行う。
    レオナールが生き残った場合人材不足の為に奴隷として扱って来た女性の地位の向上後領の仕事の振り分け
    お金で人を雇えば良いと思ったものの、男女差別をし家族に手をかけた職場に誰も来なければさらに反抗されるだけだ。

    決め手はリシャールの罪が公になるか否かである。

    「つまり、リシャール兄上がカギとなるんだな」
    「んっ!? いやいやいや、貴方がカギですよアンベール様」

    ソフィアが困った子を見るように苦笑した。
    何で私がカギになった?

    「アンベール様は奴隷達を救う、とおっしゃいますがそれは『この家からの逃亡による救済』なのか『奴隷という地位からの逃亡による救済』なのか明言されていらっしゃいませんから」

    あ、確かに。
    ルイズには逃げるとしか行ってないしここから逃げると言う話で進んでいるが正直この領を捨てて逃亡し、僅かなアルピーヌの生存を希望に進むよりはじっくりこの領がじっくり廃りマッチポンプのように救世主として現れた方が確実ではある。

    だが時間的な問題ではこの家から逃げた方が良い。
    このチャンスを逃したらリシャールによって取り繕われて私と奴隷達、レオナールやついでにウジェーヌも死んでしまうことになる。

    どちらにせよリシャールは確実な敵であり、レオナールは味方。
    メリットやデメリットの数はほぼ同じでウジェーヌを敵とするか現状維持にするかの違いだ。

    「どうしたらいいんだろうか」

    今まではこの家からの逃亡しか考えず切羽詰まっていたが労働奴隷達の企みに便乗するのもアリだ。
    いやそれしか私、ひかりの技量では出来ない。

    「うむ、では労働奴隷達の案をメインとして失敗したら私達の案を採用しよう メインが失敗した際は私達の案を決行するかしないかを状況により判断することにする」

    この5日間に万全な準備をすれば失敗と成功は五分五分までになるだろう。
    私はジゼル、ソフィア、ルイズを見て頷く。
    三人は口を揃えたがそれぞれの表情で

    「「「かしこまりました」」」

    とゲリラ忠誠を誓った。
    ……心臓に悪い!
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    meamea No.18675160 

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    【満月がタイムリミット】警告カロル

    「やはり視点が違うな」

    感嘆の意味を込めてそっとため息をつく。 ルイズはクスクスと笑うと私の肩にポン、と手を乗せる。

    「そう思って頂けるのは私達にとっての誇りです」

    このような視点の違いを車に例えると、男性をアクセルと例えるならば女性はブレーキ……ではなく良く考えれば車窓のように視野が広く見通しやすい考えを持つ。
    男性は力や絆を元に前へ続くパワーに溢れていてとても頼りになるし、安定感がある。

    だがこの領地は目隠ししたままに発進している。
    非常に危険だし、非常識だ。
    変換すると男女差別はリスクがあるし、男女差別は非常識ということだ。

    ただ「嫌い」だけでしていい行為ではないと強く認識した。
    お茶を口に含んでソフィアに視線を向ける。
    ソフィアはこちらを見た。

    「ソフィア、今から奴隷寮に行くことは出来るか?」
    「はい、アンベール様の無事を確認したい者がたくさんいますから是非」

    まぁ、ジゼルの「じっくりマッチポンプ作戦」について詳しく聞きたいし二人に無理をあまりさせたくないからだ。
    今は家にリシャールと私しかグラース家の人間はいないが、仮にこの家にウジェーヌの息がかかった者がいたら危険なので付き添いである。

    不意にリシャールが私を捕らえた際に言った
    「剣術は家族から自分を守るために使うのですよ」
    という言葉を思い出した。
    私(ひかり)が慣れていなくちゃ困るもんね……

    人を殺す勇気、というのだろうか。

    「奴隷達もグラース家の人間だからな つまり家族……」

    こんなことを奴隷に言ってはダメ! と言われるかもしれないと思ったがジゼルは優しく微笑み、ソフィアは呆れるように笑ってルイズは満面の笑みだった。

    「ありがとうございますアンベール様」

    ルイズは感情の籠った言葉を私に送った。



    「あっ! アンベール様! 心配しました!」
    「あぁ、私達は無事だ…………ジゼル、ソフィアは休んでくれ、というか休ませてくれ」
    「かしこまりました、アンベール様。 ほらジゼル! ソフィア! 大人しく寝てな!」

    真っ先に心配してくれたのはエマとカロルだった。
    エマはうっすら涙を浮かべている。
    カロルは姉御口調でジゼルとソフィアを別室に無理矢理押し込んだ。
    ジゼルは名残惜しそうにこちらに手を伸ばし、ソフイアはめちゃくちゃ抵抗していた。
    ソフィアは14歳、ジゼルは18歳と聞いたが思ったより精神年齢は低いらしい。
    最年長のカロルとのやりとりは母と娘のやりとりのようだった。
    自分で言ったのも何だがちょっと可哀想だった。

    「あー、カロル? 言いたいことがあったみたいだから他の奴隷経由で伝言で私に伝えてやってくれ」
    「かしこまりました」

    ジゼルとソフィアからの伝言は同じで要約すると「カロルの方が詳しい」という内容だった。
    わざわざ伝言してくれたのだ、カロルから情報を集めることにする。
    ジゼルとソフィアの伝言待ちの間にルイズがカロルに説明したようだった。

    「アンペール様、この屋敷からの逃亡を断念するのは英断だとわたくし個人では思います わたくし達の意見を聞いて下さったのもありがたいと思います、ですが……」

    どちらにせよ貴族手当ては破棄した方が良いらしい。
    連座連座と話していたが一応私もグラース家の一員なので私も連座対象になるらしい。
    逃げれば良い、と言っていたのでルイズ達はツッコまなかったそうだが私のせいですっかり意識がマッチポンプ作戦に行ってしまい、逃亡作戦の優先順位の低下を加味していなかったそうだ。

    「恐らく、ウジェーヌ様はアンベール様の貴族手当てをまず確保するでしょう」

    アルピーヌ様と同じ失態をすれば今度こそグラースが崩壊する、とカロルは言った。
    この目は初対面の時の目に酷似していた。
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    meamea No.18675539 

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    【満月がタイムリミット】資料室アンベール

    「手当てを奪うのは私への口封じということか?」
    「えぇ……恐らく武力で対抗するはずです 相手は領主ですからまた監禁や騎士達による誘拐等が起こる可能性があります」

    武力って人を殺さないといけないの?
    バリバリの日本人の私が!?
    大丈夫かな……これはアンベールの本能に任せるしかない。

    「期間は5日間なのでしょう? 情報はわたくし達に任せて事前準備やいざとなった時の逃亡ルートをお考えて下さい」

    今はほぼアンベール様以外この屋敷にいないのですから、とカロルは笑った。
    だがひとつ、疑問が浮かんだ。

    「カロル カロルは何故そこまでしてくれるのだ?」

    カロルはうぅー、と悩ませて絞り出すように考えをまとめてくれた。

    「そうですね……アルピーヌ様と良く似ていらっしゃるからです 血筋は同じですし、わたくし達奴隷を救おうとしてくれた方ですから」

    アルピーヌ様は体が弱くて歩く度に骨が折れそうなぐらい貧弱だったそうだ。

    「貴族手当てはご自身で持たれた方が安心だと思うのでまず資料室へ行ったらよろしいかと」
    「そうさせて貰う」

    カロルやエマから激励の言葉を貰った。
    ジゼルとソフィアは眠ってしまったらしい。

    「あの二人は昔から無理をするからねぇ アンベール様 貴方も無理をなさらずに」

    振り向きながらカロルはそう行った。
    女性ながら凄いカッコイイ。
    私もカロルみたいなカッコイイ人間になりたい。



    資料室に向かっている途中。

    「事前準備……父上の罪状は調べてくれるらしいし何をすれば良いのだろうか」
    「そうですね、嘘透かしの花の蜜等はわたくしや嫁入り奴隷のジゼルが集められます、個人的には戦うのは避けてひたすら逃げるのをおすすめします

    確かに、相手は領主なので正面から勝負しても負ける。 こっそり、じっくり追い詰める形になるだろう。

    「逃げ足限定で足が早くなる魔花がありますからその魔花も持って行きましょう」
    「それはどの魔花だ?」

    一体どれなのかは資料室に着いた為に聞きそびれた。

    「私の資料はこれだな」
    「はい」

    パラパラパラ、と捲ってみたがなかなか手当てが見つからない。
    ルイズに資料を渡し、調べて貰ったり別の資料を見たり手当たり次第探したがどこにもなかった。


    つまり結論はただひとつ。
    もう負けているということだ。

    「そんな……もうウジェーヌ様の手にあるとでも言うのですか」
    「…………そうか、そういうことになるのか」

    策士、策に溺れるような展開に頭を抱えた。
    今までの作戦が全て水の泡になった瞬間である。
    深い絶望と死を間近にする憂鬱な気持ちで体が重く感じ、自然と涙が出てくる。

    「ルールを破るのはこんなにも難しいのか」

    踏切のルールは簡単に破れたのに。
    歯ぎしりをして、下を向くと見慣れない花びらが床に落ちていた。

    「ルイズこれは?」
    「嘘透かしの花ですね 季節外れの花ですのに」
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    meamea No.18678894 

    引用

    【満月がタイムリミット】嘘透かしヴェール

    私の貴族手当てがウジェーヌに盗まれたかもしれない。
    絶望に染まる私達を救ったのはたった一枚、小さい花びらだった。

    「じゃあ何で……」
    「アンベール様」

    ルイズが何だが落ち着かない様子だ。
    私はルイズの様子を伺う。

    「嘘透かしの花がこの時期に咲く地域がございます、ジゼルが渡してくれた地図に載っていたのです……」

    ルイズは漏れ出すように言った。
    別荘近くにいた人間がこの近辺に来たということだ。
    それはつまり……アルピーヌの可能性がある、ということだった。

    「何故、アルピーヌ兄上がちょうど良いタイミングで私の手当てを? 都合が良すぎた話だ__」

    都合が良すぎた話と言おうとしたが、
    仮にアルピーヌが生きていて、もし「普通に生きる為の手段」が成功し金でこの屋敷にスパイの一人や二人を入れていたら手をポンと打てるぐらいに納得出来る。

    「だが確証が……」
    「ビジュー……ビジューも今の季節、嘘透かしの花が咲くはずです」

    ルイズがそう言った。 ビジューは確か今ウジェーヌ達がいる領である。
    名前の通りに炭鉱や宝石業が盛んで超バブリーな領地だったはずだ。

    まさかビジューとアルピーヌが手を組んでいるとでも言うのだろうか。

    いや……これこそ都合が良すぎる。
    私の転生して本当に間もない頃、初めての夕食でビジュー、という名前が出た。
    アンベールの記憶になかったのでアンベールとしても初耳の領地である。

    転生初日にビジューの話、そして今はその行動を予測していたかのように時間稼ぎをしている。

    「出来すぎた話ですこと……アンベール様の考えが変わった時期にビジューの話が出るなんて」

    ルイズも同じように思ったらしく、疑わしい顔で嘘透かしの花を見つめている。

    「ビジューがこの領地を取り込もうとしている線は? ビジューは炭鉱が盛んな為に環境破壊が厳しい問題となっているはずだ。 そこに神学や植物に精通しているアルピーヌ兄上が来たらむしゃぶりつくように頼ると思わないか」

    ルイズは少し考えた後に、少し青ざめた顔で語り出す。

    「……もしそれが真実でしたら国を揺るがす事件と
    なりますが、『犯罪者まみれ』とうたわれるであろうグラースを有効活用するビジューはむしろ良い行いをしたと言われると思いますし、ビジュー側に優秀なアルピーヌ様が付いていたらそれも可能です。 何より……復讐が出来ますから」

    もしこのアルピーヌの逃亡劇が復讐の物語ならば。
    私はどんな末路に追われるだろうか。
    だがこれも推測に過ぎない、ピリピリしていた所にたまたま嘘透かしの花が迷い込んだだけだ。
    ルイズが嘘透かしの花の蜜を持って来る際に服にでもついていたらあり得る。
    だが、その言葉はすぐに否定された。

    「もしかしたらこの線が有効かもしれません。
    嘘透かしの花の蜜は蜜だけの小瓶に入っていますからわたくしから落ちた可能性はないです。
    ただ、この説でカギとなるのはイレーヌです」

    イレーヌはアルピーヌの数少ない忠臣だった女性だ。
    奴隷に慕われていても世間体が悪いアルピーヌに仕えた変わり者である。

    「アルピーヌ様は口よりも行動が先になる活発な方でした。 アルピーヌ様の口代わりはイレーヌがしていたと聞いています、それが他領の貴族相手でもですから……」

    他領であるビジューに顔が知れているイレーヌは
    ウジェーヌ達にアルピーヌがビジューに来ていることを「いつでもどこでも主の元にいる忠臣」である自分(イレーヌ)の顔で知らせないように自ら命を絶ったのではないか、と。

    ルイズが悩ましそうに言った。
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    meamea No.18682757 

    引用

    【満月がタイムリミット】アルピーヌヴィラン

    「アンベール様はどちらにつくのです?」

    男女差別をし、残った跡継ぎは不本意で領主になるレオナールがいるグラース。
    アルピーヌと手を組み、グラースを取り込もうとせんビジュー。
    折衷案が見当たらない。
    断然ビジューなのだが、復讐や取り込むというのにまだ少し抵抗を感じるのだ。

    「私は……」

    私の目的は「男女差別から奴隷達を救う」だ。
    グラースはそれに応じそうにもない。
    だがビジューはどうだ、そんなものは存在しない。
    頭がパンクするぐらいに考えていると資料室のドアが開いた。

    「アンベール様! ウジェーヌ様達の帰宅時期が早まりました」
    「何だと!?」

    カロルが涙目で訴えて来た。
    しかも仕込んだかのようにビジューが関係している。

    「先程、料理人達に帰宅の目処が伝えられたそうです。 帰宅は明後日に早まり、そしてビジューにアンベール様を連れて行くということです」

    私が生きているのを知られたからか、作戦を変えてきた。
    ビジューに連れ出して私を交渉材料として使うらしい。
    「下働きにも心を砕く優しい人間」と。
    そこからは目に見えている。
    ウジェーヌの裏方やゴーストライター的な仕事を永遠とやらされるも光を浴びるのはウジェーヌ。
    レオナールは罪悪感に囚われながら私の努力を横取りせざるを得なくなる。

    「アルピーヌ兄上と同じ末路へ。 貴方にピッタリではありませんか」

    このままじゃ、リシャールの思惑通りにウジェーヌの言いなりになってしまう。
    タイムリミットが短くなり、焦る気持ちと恐怖が包み込む心の中、私はカロルに質問した。

    「私はアルピーヌ兄上と同じ末路になるのか」

    ルイズと話していたビジューとアルピーヌの関係性を話すとカロルは神妙な面持ちで断言した。

    「命は救われると思いますがアンベール様のおっしゃる通り、表舞台から引き摺り下ろされることは絶対です」

    表舞台なんてどうでもいいから奴隷達を救いたい。
    そんな風に言ってもルイズ達は困惑するだけだ。
    グッと抑えて頭を整理する。

    より奴隷達を救いたいと思っている方につく。
    物理的に潰されるかもしれないから剣に慣れる。
    どんなに怖くても立ち向かう。
    ビジューには向かう。

    マイルールを決めて頷くとルイズはへらっとした笑いをする。

    「ビジューに行かれるのですね、かしこまりました。 従者はアンベール派労働奴隷とジゼル、わたくしでよろしいですか?」

    アンベール派労働は少ないらしく、殆どリシャール派なのだそうだ。
    カロルによると「服の恩恵はリシャールのおかげ」と主張したり、「失脚するのはアンベールのせいだ」、「私達の夢はリシャールの妾だ」と聞かなかったので放置するそうだ。
    私を批判していたため、勿論救う奴隷には入っていないですよと凄みのある笑顔でルイズは言った。

    奴隷は奴隷でも地位には満足していないが、嫁入り奴隷こそ誇りとする奴隷は処刑されるとのことだ。
    なんとか救えないか、と思ったがカロルは「濁りきった主を選んだ者の責任」として認めてくれなかった。

    ちなみにアンベール派労働奴隷はカロル、エマ、ソフィアとほぼ労働奴隷確定のジゼルだそうだ。
    そしてルイズの計5人を救うことが決まった。

    「服はアンベール様がカロルのお下がりを下さったのでそちらを身に付けて同行します。
    始めての他領への交渉ですからアンベール様も一番値段が張る物を身に付けましょう。
    ビジューは遠くないので一日で着くでしょうから……」

    とルイズとカロルが話し始めた。

    「その点はジゼルやソフィアにも話を聞いてはどうだ? 作戦がぶっつけ本番なのだから一応剣の練習をしたい」

    左様ですね、とルイズが了承した。
    戦いの舞台はビジューになった。
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