「正義」について考える女子高生のひかりが異世界の領主の息子に転生する__
様々な文化に触れ、学ぶ日々。
そしてその領主一族の秘密がレールに敷かれた物語を大きく変えていく。
「これは下剋上じゃなくて、正当な戦争。
下から上へじゃない。 最初から位置は同じままだ」
ーキャラクター紹介ー
(キャラが登場した際に追加します)
【山本ひかり】 正義感が強いレベルではなく正義に生きる女子高校生。 正義に死んだ今作の主人公。
【アンベール・グラース】 ひかりの転生した姿。 17歳。 元々の人格は照れ屋で引っ込み事案だったらしい。
【ルイズ】 アンベールの世話や家事を担当する奴隷の女性。
【ウジェーヌ・グラース】 清く正しいグラース家の当主。 結構カッコイイ
【レオナール・グラース】 筋肉質の美形なアンベールの兄
【リシャール・グラース】 王子様系の美形なアンベールの兄
【ソフィア】賢いと評判のスポーツ少女系労働奴隷。
【アルピーヌ】 今は亡きグラース家長男。 体が弱いがとても優秀だったらしい。
【カロル】 男を恨むレオナールの元嫁入り奴隷。
【ジゼル】 リシャールの嫁入り奴隷
【イレーヌ】 アルピーヌの家事奴隷。 アルピーヌの後を追った。
【エマ】 片目を失った労働奴隷
ー追記ー
この話はプロット無し&テスト、このフォーラムでの操作になれる為のありあわせストーリーです。 多少の伏線等はありますが読み物としては酷い出来です あらかじめご了承下さい
meamea No.18627894 2020年04月13日 21:49:23投稿
引用
「んじゃ! ひかり、またねー」
「バイバーイ」
またねー、と言っている内に駆け出したせっかちな友達と別れ、紫とオレンジ色の空を見上げる。
水彩画のような儚い美しさは夕焼けに限る。
下を見ればアスファルトの濁った色だ。
濁ったと言えば、私はいつ、何時とも正義を貫きたいと思っている。
例え醜いと言われようと、胡散臭いと罵倒されても私は私の信じた「正義」という道を歩きたい。
だがそれは不透明で不安定な意見であると世間から言われるのでいずれ直さなくてはいけない、
とそんなことを考えながら道路を歩き、私は駆け足で渡り切った。
すると、踏切の閉まる警告音と小さな子の泣き声が聞こえてきた。
振り返ると5歳ぐらいの女の子が踏切の真ん中に座り込み、膝から血を流していた。
私は即座に踏切へ入り、ポケットティッシュで血を拭き取った。
「おねえさんありがとう!」
「いいんだよ、それよりも早く渡らないと」
カンカンカン、と踏切の閉まる警告音がなり響く。
女の子が踏切を渡ったのを確認して私も立ち上がろうとする。
と、
「抜けない……!?」
線路の溝とローファーの踵がはまり、その場から動けなくなっていた。
周りにあの女の子以外に人がおらず、緊急停止ボタンは女の子が届きそうにない。 届いても力が足りない。
そうだ、ローファーを脱げば解決する。
そう思っても無駄だった。
快速列車がもの凄いスピードで私にめがけて向かう。
そもそもの話。
女の子が転んだ時点で警告音が鳴っていた。
私と女の子以外無人の中、そこで私達が助かることはなかったのだ。
そうだ、女の子が助かったのは奇跡だ。
私は女の子の為に犠牲になるべく産まれた牲なのだと、諦めの思考を張り巡らせて__
私は永遠の眠りについた。
meamea No.18628470 2020年04月14日 00:59:34投稿
引用
パチパチと何かが燃える音がする。
死んだはずなのに感覚があるということは転生、ということなのだろうか。
どうやら今は寝ているようで、
試しに目を開けて、起き上がってみる。
音の正体である暖炉に、洋風のお城のような一室。
目を引くのは窓。 死んだ時のような紫とオレンジ色の夕焼け、逆光で黒く見える林。 花が植えられて、雪の積もった大きな庭。
窓の景色はかなりの絶景で立ち上がろうとするとクラリと頭が重くなり、寝ていることを薦める。
頭がぼんやりとして起き上がるのも少し億劫だ。
ベッド、というより寝台と呼ぶにふさわしい寝床に横になる。
……
……!
転生しても私が今誰なのか分からないので今の自分の名前を思い出そうとしていたら見事にヒットした。 アンベール、というらしい。 外国人に転生してしまった。
「へぇ、アンベールか……!?」
自分の口から飛び出した音にびっくりした。
その声は低く、明らかに男性……いや青年の声だった。 どうやら男性に転生してしまったらしい。
発せられた言葉は現地の言葉なのか、聞いたこともない言葉だったが意味は簡単に理解出来た。
自分で自分に驚いていると、ノックの音が耳元に来客を告げた。
静かに開けられたドアに注目し、どんな人が入ってくるのだろうか、と楽しみにしていた。
「失礼します アンベール様」
シスターと黒子を足したような格好の全身白の、声からして女性が入って来た。
顔や髪は勿論のごとく隠されていて、手や首ぐらいしか露出していないような格好だった。
この白づくめの女性の名前は「ルイズ」。
家事や身の回りの世話をしてくれる私専用のメイド&執事さんみたいな役割らしい。
ん? 待てよ?
このルイズに関して凄い不思議なワードが関連しているんだけれど……
meamea No.18629349 2020年04月14日 17:19:14投稿
引用
「ルイズ」という女性はアンベールの認識によると“奴隷”らしい。
奴隷制度のある世界は少なくともひかりで生きていた世界ではない。
異世界に転生してしまったのだ。
アンベールの記憶の中の奴隷達の悲惨さに心を傷付けられた。
アンベール自身も見ていられなかったようだ。
奴隷は貴族にとって「人形」であり、捨てても良し殺しても良しの人権のじの字もない扱いだった。
ルイズに視線を向けると、顔は隠されているがこちらを向いてくれたようだ。
「だ、だいぶ具合は良くなったぞ……?」
元からのアンベールの口調が分からずに適当に男性っぽくしてみた。 ルイズは首を少しかしげている。
まずい、この口調じゃなかったっぽい……!?
「で、ぼ……」
待てよ? あの世界の中世貴族男性の一人称は確か「私」だったはず。 僕、というより私の方が可能性がある。
「ルイズ、私は何をすれば良い?」
様子を伺うようにルイズを見るとルイズは首をかしげることもなく、しゃっきりと答えてくれた。
「もうすぐ夕食のお時間です 病み上がりのアンベール様には別の料理をご用意しております」
「そ、そうか」
口調は定まった。 一人称は私、口調は「○○だ」「○○である」みたいな口調っと。
「皆様と夕食を取りますか?」
皆様……? 家族のことだろうか。 お母さんやお父さんを確認しておきたい。
「あぁ 頼む」
というか……兄弟もいそうだなぁ、貴族だし。
…………?
兄弟、というワードに体が少し震えたのは気のせいだろう。
meamea No.18629504 2020年04月14日 18:43:52投稿
引用
身震いした体を抑えるように深呼吸をした。
嫌な思い出……でもあるのだろうか。
声的に私と同じぐらいの年齢だと思うので反抗期で兄弟と仲が悪くなっているのかもしれない。
「服はいかがなさいますか」
「あ、え、服?」
服……服……そうか、着替えも自分でやらないのか!
本物の貴族って本当に何もしないんだね、あの世界の政治家に似てるなぁ。
その服の色や特徴を言えば後はルイズにおまかせらしいので気合いを入れる為に赤の服を身に付けた。
ディ●ニーの王子様みたいなタイツ&ブーツは着ないものの(普通に革靴を室内で履いている)
雰囲気はそんな感じだ。
というかアンベールの顔面的なスペックを知らないので似合っているか分からない。
「では、行こうか」
「かしこまりました」
まだ口調には慣れていないが体は慣れている。
不思議な感覚だ。 そもそも何処で食べるのか分からなかったが、体が覚えているので簡単に着いた。
自室のような雰囲気のまま、大きな長いテーブルがドン! とある感じだ。 テーブルには燭台や花瓶(白い花が入っていた) 等が飾られていて高級レストランのような雰囲気だった。
まだ人は来ておらず、ルイズにイスを引いて貰いイスに座った。
イスは十数個あるので来客用でもあると思う。
「アンベール、体調は大丈夫なのですか?」
と、男性の声がして振り返ると細身でココア色のくせ毛の髪に翡翠のような瞳の美形の男性がいた。
優しげな口調なので王子様感が漂っている。
「お陰さまで良くなりました…………リシャール兄上」
「それは良かったです」
リシャールはニコリ、と微笑んで私の正面の席に座った。 リシャールもルイズのような格好の人を連れていた。
リシャールが到着して間もなく、トントンと後ろから肩を叩かれた。
「まさか丈夫なアンベールが風邪をひくだなんてな」
「レオナール兄上」
青みがかった茶色の髪、グレーの瞳のリシャールに反して筋肉質なこれまた美形の男性がニヤリと笑っていた。
これでアンベールの兄弟は全員集合したようで、上からレオナール、リシャール、アンベール つまりアンベールは三男坊ということらしい。
レオナールとリシャールが楽しく談笑している中、私はただうつむくしか出来なかった。
うぅ、上手く会話に入らないと……! とタイミングを伺っていると
「全員、揃っているな」
と、初老の男性が登場した。
meamea No.18632372 2020年04月15日 23:22:45投稿
引用
初老の男性は誕生日席に座った。
態度から察するに、家主であるアンベールのお父さん。
記憶とも合致しているので間違いない。
「では、食べ始めようか アンベール」
いきなり声をかけられてビクッとしてしまった。
慌ててお父さんの方を見ると豪快に笑っていた。
「だいぶ焦っているようだが……まぁいい 今日は体の調子に反った料理と量を食べなさい」
「承知しております、父上」
訳するとあんまり無理するなよ! ってことでいいのかな。
お父さんが軽く手を挙げるとルイズ達のような仕えの人達はみな退室する。
……思えばあの人達も奴隷ってことか。
平然とルイズを使ってしまっているけれど良心が痛む。 現代の常識は思ったよりも早めに捨てなければならないようだ。
「レオナール、次の交渉する領地はどこかね?」
「ビジューだったと記憶しております ですが、当分先なのでまだ気にしなくて良いかと」
レオナールはお父さんと仕事の話をしている。
リシャールはレオナールのジョークにツッコんだり、お父さんのサポートに回っている。
「アンベール、明日は剣の練習だが出来そうか?
無理そうならば室内での勉強でも構わんが」
「剣……」
え、待って? 剣もやるの? 凄い殺伐としてる世界だなぁ もしかして魔法とかあったりするのかな……?
「そうですね ウジェーヌ父上、アンベールには魔花の勉強をさせましょう 本人もこう言っていますし」
マ、マカ? もしかして心の声が漏れてる?
魔法と関連してるの?
魔法のお花ってこと? なにそれ、凄い気になる!
「是非お願いしたく存じます」
「ならば奴隷寮に賢いヤツがいたな、その者を明日呼び出してアンベールに教育を頼もう」
は……? 奴隷寮? ヤツ? 本当に人権のじの字もない扱いに呆然としているとルイズが料理を運んで来た。
meamea No.18633324 2020年04月16日 12:51:09投稿
引用
ルイズは木の盆にスープ、おかゆっぽい料理、ぶどうっぽいフルーツを綺麗に飾り付けた料理を私の前に置いて一礼し、下がった。
おかゆっぽい料理には木のレンゲみたいなスプーンが刺さっており、それから食べろということなのだろう。 するとウジェーヌが口を開きお兄さん達もウジェーヌに視線を写す。
「秋の女神の恵みに感謝して頂きます」
「「秋の女神の恵みに感謝します」」
宗教の習わしなのか体が反応してお兄さん達と同タイミングで言えたは言えたが内心は「は!? 秋の女神って誰!?」と叫んでいる。
ひとまず食べよう、とスプーンを持ちおかゆっぽい者を口にした。
「!」
普通に美味しい。 ちょっと魚の旨味も感じられる。
多分、ウジェーヌやお兄さん達のメインの魚のメニューの出汁とかそこら辺だと思う。
スープもカブと思われる野菜と人参と思われる野菜と何故か分からないがパイナップルっぽい食材も入っていた。 味は意外とイケた。 酢豚パイナップルを思い出す。
ぶどうっぽい果物は見た目こそ巨峰みたいな感じだが味はマスカットを酸っぱくした感じだ。
それで……ごちそうさまのタイミングはお父さんの秋の女神うんたらかんたらで終わるらしい。
お父さんとレオナールが食べ終わるまでリシャールと話すことにした。
丁度奴隷寮に行ったことがないし、タブーということでもないらしいので情報収集感覚で会話する。
「奴隷寮とはどこにあるのです?」
「あぁ、アンベールはまだでしたね 一階の端に掃除用具入れがあるでしょう? その側に地下に続く階段があるのでそこを下ればありますよ」
……大きなお屋敷に住んでる生粋のお坊っちゃまだなぁ。
ここの食堂らしき所は自室と同じ階にあった。
庭の景色的にここが二階で、奴隷寮は一階から地下へ行くらしい。
「私の教師は誰に? せっかくなので奴隷寮に迎えに行きたいのです」
「そうですね、確かソフィアという者がいたはずです」
リシャールはパッパと答えてくれるのでとてもやりやすい。
「しかし……魔花は季節ごとに違いますから見て覚えられるのはこの雪下の花ぐらいでしょう」
「雪下の花……」
花瓶に飾られた白い花は雪下の花と言うらしい。
よくよく見ると中心部がリシャールの目の翡翠色だ。
リシャールが花をジッと見ている。 美人と花は絵になる。
「では食事を終わろう 秋の女神への感謝を捧げます」
「「神愛の花の芽吹きを」」
神愛の花って何!? 雪下の花の仲間!?
もう覚えることばかりで疲れた……
とぼとぼと力なく歩き、自室に戻る。
するとルイズが
「明日はわたくしが寮にご案内します」
と言った。 その口調は少し寂しそうで、嬉しそうで複雑な響きだった。
meamea No.18634088 2020年04月16日 17:49:39投稿
引用
リシャール様がアンベール様に提案された「奴隷寮」への誘いはわたくしにはとても複雑な気分でした。
まだ月の導きを行っていないアンベール様に行かせるのはとても心が痛みますし、ですが反対に幼少期から共に過ごしているアンベール様がこちらのことを知って頂けるのは少し嬉しいのです。
昨夜、わたくしが案内するとアンベール様に言いましたら薄く笑みを溢し「よろしくお願いするよ」と快く了承下さいました。
わたくしはウジェーヌ様やリシャール様にお仕えしなくて良かったと心底思った瞬間でした。
これほどまでに優しく奴隷を扱って下さるのはこの一族でアルピーヌ様とアンベール様ぐらいでしょう。
「それで……ここの階段を下ると寮なのか?」
「はい、そうでございます アンベール様」
でも、いくらお優しいアンベール様とはいえわたくし以外への奴隷の扱いが父親であるウジェーヌ様に似ていないという可能性は確定していません。
もし、アンベール様がみんなを傷付けるような行動をしましたら……わたくしはどんな風に思うのでしょう。
ですが、アンベール様がわたくし達を傷付けるような行動をしないという確信がわたくしの中にありました。
アンベール様が階段を下り始めました。
わたくしはアンベール様の後ろからついて行くだけなのですが心なしかアンベール様のお背中は不安そうに見えました。
meamea No.18634111 2020年04月16日 18:06:28投稿
引用
奴隷……ってどんな扱いなんだろう。
酷い扱いをされていたら目も当てられない。
私はそんな不安な気持ちを抑えるように深呼吸をする。 するとルイズが優しげな声でこう言った。
「わたくしもここで寝ているので酷い扱いは受けておりません」
ホッと氷漬けにされていた心の中にルイズがとぽぽ、と温かいお湯をかけてくれたような安心感がした。
未だに顔を見れていないのはなんとも悔しいけれどいつかは顔を見てお礼を言いたい。
この世界へ来てまだ二日目なのにルイズに助けられっぱなしだ。
階段を下り終えると木の扉とひそひそと喋る女の人達の声が聞こえる。
嫌な予感がして、試しにルイズに聞いてみる。
「ルイズ、奴隷に男性はいるのか?」
「いいえ ほとんどおりません 『女は奴隷』とアンベール様が知っての通りでございます」
meamea No.18634918 2020年04月16日 22:09:33投稿
引用
「……それは 差別ではないのか」
「差別、ですか?」
「人間は公平であるべきだ 男性でも女性でも__」
しまった、とすぐに口を閉じたが遅かったようでルイズにまたまた小首をかしげている。
どんなにひどくてもその世界の習わしに慣れなくちゃ。 どんなに差別的でも……
「あ……いや、忘れて欲しい」
「……かしこまりました」
完全にまずい、これをお父さんとかに報告されたら終わる 人生が!
この世界の常識は女性は奴隷。
私は意を決してドアを開ける。
「「「お初にお目にかかられます アンベール様」」」
ボロボロで継ぎ接ぎをしたようなワンピースを着た7.8人の女性達……いや奴隷達がクラウチングスタートポーズをしている。
髪の色は様々でココア色だったり金髪だったりしている。
「今日は魔花についての勉強をしたいと思い、教師を誰かやってくれないかなと思い来たまでだ その、ソフィアという者はいるか?」
ゲリラ忠誠を発生した奴隷達は一人の少女に目を向ける。
まだクラウチングスタートポーズのままだ。
「アタシがソフィアです どうぞよろしくお願いします アンベール様」
オレンジっぽい茶色のショートカットで燃えるような赤とオレンジ色の間のようなスポーツが得意そうな女の子が笑顔で顔を上げた。
その笑顔は奴隷とは思えないキラキラした笑顔だった。
「……このままソフィアを自室に連れて行くのか?」
「はい」
ルイズがサポートしてくれたのでソフィアを意味浅の意味でお持ち帰りをした。
自室に入ると思わずルイズに話してしまった。
「さっきの話だが…… その、ルイズは気に食わないかもしれないがソフィアに普通の服を着せたい。
後で事情を話したい……すまない本当に……」
「主が従者に謝らないで下さいませ」
その一言でルイズの言葉は終えたが頷いてくれたので後で話をしたいと思う。
その前に……
「アタシは労働奴隷です アンベール様が気にかける存在ではないですよ」
警戒心たっぷりのソフィアをちょっと整えよう。
meamea No.18635334 2020年04月17日 11:21:28投稿
引用
「と言っても女性用の服がないからな どうしたものか」
女性は奴隷、すなわち社会的地位における最底辺の女性の服はルイズのような服かソフィアのようなボロワンピースだけなのである。
私、アンベールの服は王子様系の服なので貸し出すにもソフィアには合わない。
「発言をお許し下さいアンベール様 アタシの服は嫁入り奴隷の古着を頂戴したらどうでしょうか」
「嫁入り奴隷?」
ソフィアに聞き返すとルイズが答えてくれた。
「奴隷には役割がございます まず、ソフィアのような寮で待機している奴隷は労働奴隷」
基本的には雑用なのだそうだ。
殺したり捨てたり出来る奴隷は労働奴隷らしい。
つまりソフィアはいつ死んでもおかしくはない。
「次にわたくしのような主の世話や家事をする家事奴隷」
説明通り世話と家事をするらしい。
シスター黒子な服は制服みたいなものだそうで、
顔や髪を隠すのは最低限「女」ということを隠すためなのだそうだ。
「そして嫁入り奴隷 基本的に出産や育児をします。 育児が終わったら労働奴隷になります」
嫁入り奴隷は現在リシャールにしかいないそうで、ウジェーヌとレオナールは仕事的に大変で、私はまだ未成年なので子を作り家の人材を増やすことはまだ必要ないそうだ。
「基本的に嫁入り奴隷の子が男で優秀ならば家に迎えられます。
女ならば最初はみな労働奴隷なり見た目が良ければ嫁入り奴隷、忠誠心があれば家事奴隷、それ以外は労働奴隷になります」
「ルイズは奴隷の中でも優秀なので、当時末息子だったアンベール様に仕えていらっしゃるのです」
「ソフィア」
ルイズに静かに怒られてしまった、という顔になったソフィアの顔に思わず吹き出す。
「大丈夫大丈夫 私はソフィアぐらいにこやかな方が肩の力が抜けて良い」
「ですがアンベール様、奴隷は主に嘘をつかせてまで気を使わせるなと……」
「ソフィア」
またまた注意されたソフィアだが、ルイズの口調がさっきよりも怒っている。
どうやらソフィアの名言っぽい忠誠論はルイズの持論なのだそうだ。
「申し訳ございませんアンベール様」
「嘘なんかついていない それに早くその嫁入り奴隷の古着を頂戴してソフィアに勉強を教えて貰いたい 魔花にとても興味があってな」
ウィンクをするとルイズがクスリと笑った気がした。 そして
「あの熱で倒れてから随分穏やかになりましたね アンベール様 わたくしはとても嬉しいです」
性格が変わったと、あっさり見抜かれてしまうのだった。
meamea No.18636803 2020年04月17日 20:28:16投稿
引用
「そうか?」
「いえ、私語をしてしまい申し訳ございません」
……危なっ!? ルイズが引いてくれなかったら明らかにボロが出てたよ。
というかルイズも従者としてはボロ、なのか。
「で、嫁入り奴隷の古着はどこにあるのだ?」
「カロルに言えばわかるかもしれません」
「カロル……とは誰だ?」
カロルは労働奴隷の最年長でレオナールの元嫁入り奴隷だそうだ。
あの忠誠テロの中にいた赤毛のお団子頭の女性らしい。
確かにいたかもしれない。 すぐ前のことなので比較的鮮明に覚えている。
「じゃあまた奴隷寮に出向くか」
「そうですね、アタシもアンベール様について行きます」
「ソフィア」
奴隷は静かに主へ従うことが大切らしく、結構お喋りなソフィアはルイズに度々注意されている。
「実を言えば労働奴隷の皆も積極的に発言して欲しい……何せ私は未熟だ、厳しい環境下で暮らす彼女達の意見は参考になりそうだ」
移動しながらそうは言ってみたものの、本音は会話ぐらい身分関係なく喋りたい、という切実な願いである。
「カロル、という者はいるか」
「わたくしでございます アンベール様」
赤毛のお団子頭でグレーの瞳は見るものを圧倒する女王のような力強さを感じられた。
だが同時に思わず息を呑むような「男」に対する明確な殺気も瞳から漏れ出していた。
「カロル、君はレオナール兄上の嫁入り奴隷だったのだろう? 君が使っていた服を__」
待て私、ソフィアだけ優遇するのは違う。
差別的なのは私だったかもしれない。
ソフィアも今はボロワンピースを着ているカロルも他の労働奴隷も、せめて服や会話は地位関係無しに……
「アンベール様 発言をお許し下さい」
meamea No.18637651 2020年04月18日 14:02:36投稿
引用
「アンベール様の家事奴隷として明言致します。
アンベール様は悪用はしません、なのでカロル 貴女の嫁入り奴隷時代の服を皆に着せて少しでも生活水準を上げさせて下さいませ」
ルイズにまた助けられた。
自分の無力さに嘆いていると、カロルがニヤっと口角を上げた。
「それだけでしたか……なら結構ですわ ただ私の妹分にあげてしまっているのです ジゼルというリシャール様の嫁入り奴隷に」
ジゼル、という名前が出てきた途端ざわっと奴隷達が僅かに騒いだ。
ソフィアもルイズもうつむいてしまった。
「ジゼル……か。 わかった 貰ってくるよ」
「アンベール様! ジゼルは大変冷たい者です、アンベール様のお気に召さない行動を……」
ソフィアが必死に止めようとするが、階段を登りリシャールの部屋に向かう気満々な私は自分でも止まらない。
「だから言ったでしょう アンベール____」
不意に誰かの声が頭に響いた。
「リシャール兄上、突然で難ですがジゼルという者と少し話をしたいです」
書類を睨んでいたリシャールは顔を上げると優しく微笑み、「ジゼル」と呼んでくれた。
「なんでしょう、アンベール様」
黒髪碧目のどことなくやつれた雰囲気、言うなれば雪女のような感じで、ひかりと同年齢ぐらいの美少女がやって来た。
「君がカロルに貰った服をいくつか貰いたいのだが……」
「服は40着ほどあるのでおゆずりします カロルからの服はレオナール様のご趣味でリシャール様には合わなかったそうですから」
今ジゼルが着ている質素なプリンセスドレスはリシャールの趣味で、動きやすくちょっと豪華なワンピースはレオナールの趣味らしい。
奴隷達にはワンピースの方が着慣れてていいかもしれない。
「ありがとうジゼル、リシャール兄上もありがとうございました」
「何に使うのです?」
「あぁー、まぁコレクションですよ……」
リシャールの怪しむ視線を尻目に退室し、
ソフィアとルイズに荷物を持たせまいと服の入った結構重い木箱を持とうとしたら軽々と木箱を持ったルイズにソフィアと一緒に引いたとは聞くまでもない。
meamea No.18639510 2020年04月19日 13:40:24投稿
引用
ジゼルに会ってみたものの、態度が冷たいのはあの様子から見れば疲れているからではないだろうか。
ソフィアも「あのようにやつれているジゼルは見たことがありません」と言っていた。
ルイズは様子を観察するようにただ黙っていた。
奴隷寮に服を届けた後、自室に戻った。
「着心地はどうだ?」
「さすが貴族様の仕立てですね、とっても良いです」
「して、何故カロルは引退して不要な服を仲間にあげなかったのだろう」
ソフィアも一緒に考えてくれるも、何も思いつかないようで魔花の勉強を始めようと提案してくれた。
「魔花とは神の力を帯びた魔法と呼ばれる力が宿る特別な植物のことです」
季節ごとにひとつずつあるそうで、今は冬の雪下の花の季節なのだそうだ。
魔花は御神体とされ、雑に扱ってはならないと言われている。
「雪下の花の能力は……特にありません」
雪下の花可哀想!
「春は春便りの花 夏は嘘透かしの花 秋は神愛の花……神愛の花は食事の際の言葉で登場しますから馴染みがあると思います」
予想通り雪下の花と神愛の花は仲間だった。
魔花の勉強は面白いなぁ、勉強なのに勉強という気がしない。
「春便りの花を食べると気分の上昇、幻覚、幻聴、中毒性のある強めの快楽作用も働くそうで大変危険です」
あちらの世界で言う違法薬物みたいな花だな、これは毒と等しいと思う。
「神愛の花の葉や花は人体には影響しませんが、動物には効く毒を持っています 貧民達はこれを家畜に食べさせて食材にしているそうですよ」
当たり前のように貧民の話をしているが、貴族がいるのだから貧民もいるのも当たり前か。
いやしかし……
「ソフィア、何故貧民の情報を知っている?」
ソフィアはよくぞ聞いてくれました! という顔をして話し始めた。
「アタシは労働奴隷は労働奴隷でも珍しく大体の仕事が決まっています。 アタシは足が早く耳が良いのでよく貧民達の情報収集に使われることが多いのです」
「なるほど、情報収集が得意なら必然的に賢くなるわけだな」
ソフィアを褒めるとぼっと顔が赤くなって光栄です! と笑ってくれた。 良い意味で貴族の仕えらしくないので貧民にも馴染むのがわかる。
「……あ、嘘透かしの花を忘れていましたね。
嘘透かしの花というのは……」
透明な花びらのスミレのような花が頭にイメージされると鳥肌とひどい寒気に襲われた。
meamea No.18639525 2020年04月19日 13:59:40投稿
引用
「大丈夫ですか、アンベール様」
様子を見ていたルイズが寄って来た。
何これ……初めての食事に行く前の怖さと似てる。
元のアンベールは嘘透かしの花や兄弟に何かしらトラウマが……?
とりあえず落ち着こうと深呼吸をした。
すぐに治まったのが幸いだった。
「んーと、ここで一旦中断しましょうかね! 紅茶でも飲んで下さい 勉強はいつでも出来ますし」
ソフィアが笑い、ルイズが退室しすぐにお茶を持って来た。
「ありがとうルイズ」
「ソフィア、帰ってくれて結構ですよ お疲れ様でた 良い教育でしたね」
「ありがとうございますルイズ、お大事になさって下さいアンベール様 それでは」
ソフィアが帰り、自室には紅茶の香りがふわっと充満した。 飲むと芯まで温まるような温かさと香り高い紅茶の優雅さが身を包む。
「アルピーヌ様の記憶を思い出してしまったのでしょう」
「アル……誰だ? それは」
記憶にもないし、ぞわっと反応したのは嘘透かしの花である。
アルピーヌさんとやらは初耳だ。
ルイズは「まぁ……」とひどく残念そうに絶望したかのように呟いた。 そして
「ならば反応したのは嘘透かしの花でしょうか」とも呟いた。
「ルイズ、アルピーヌとは誰だ?」
「……本当に覚えていらっしゃらないのですか」
「あぁ」
ルイズはきつく拳を握り、震える声でこう言った。
「アルピーヌ様に会いに行きましょう アンベール様」
「あぁ」
どんな人なんだろうか、アンベールのトラウマを刺激した人物かもしれないのにとても楽しみだ。
meamea No.18639536 2020年04月19日 14:13:50投稿
引用
「アンベール、何処へ?」
「レオナール兄上。 あぁ、南の丘へ行くのです」
そうか、と苦笑に近い笑みで笑っている。
アルピーヌがいる南の丘は一応庭に入るそうで、ルイズだけ付けて行けるギリギリの範囲らしい。
昼食を終え、ルイズのナビゲートで南の丘が見えて来た。
南の丘には下から見るとそれらしき建物はなく、丘の緩やかな坂を登っているとルイズに動きがあった。
「目汚し失礼致します」
「………?」
ルイズに注目すると、ルイズは自身の黒子帽子を外し素顔を見せた。 アンベールの記憶にはないルイズの顔に驚いた。
「わ……」
失礼だが、見た目で選ばれる嫁入り奴隷のジゼルやカロルよりも美少女だった。
白髪か銀髪か、際どい髪色で後頭部にお団子でまとめられている。 目はルビーのような深紅。
服のせいで陽に当たらないのか肌は病的なまでに白かった。
「行きましょう」
「あ、あぁ」
妙に胸がドキドキする。 体が男性だからかルイズにときめいてしまった。
……性転換、辛い。
meamea No.18639683 2020年04月19日 15:48:09投稿
引用
思ったより早く着いた。
丘には花畑と墓があった。
つまりアルピーヌという人は、そういうことなのだろう。
ルイズが素顔を見せたのも墓前では素顔を見せる風習でもあったのだろう。
「これがアルピーヌ様のお墓でございます」
「アルピーヌ・グラース 享年不明 『清く優しい優秀な者』」と石に刻まれていた。
享年が分からないのはなんとも不可解である。
「……アンベール様が何をおっしゃいたいかはお察し致します 口に出すのは辛いでしょうし」
「……」
墓前に来るなり少し饒舌になったルイズの目は少し微笑んでいるような温かい目だった。
「アルピーヌ様はご自身が年を重ねるのを嫌っていました。 アルピーヌ様はお体が弱く、年を重ねれば重ねるほど体が弱っていきましたから……」
墓石の周りの植物は夏の魔花である嘘透かしの花らしい。
嘘透かしの花に震えたのはアルピーヌの亡くなったショック、アルピーヌを忘れているのもショックであるなら多少は説明がつく。
「まさかアンベール様がこちらに出向くだなんて。
レオナール様も涙を浮かべていらっしゃいました」
苦笑に近い笑みは涙を堪えていた、ということか。
「アルピーヌは私とどのような関係なのだ?」
「お兄様でございます、レオナール様より上の このグラース家の長男であり元次期領主の」
兄がもう一人いた。 そして次期領主か……この生活ぶりや丘を庭と称しているのも領主一家だから……
「わたくしも詳しくは存じません……家を出ていかれてすぐ亡くなったと報告を受けたのです」
「家を?」
「……えぇ 少し長くなります お聞きになりますか?」
私はすぐに頷いた。
meamea No.18641810 2020年04月20日 16:36:13投稿
引用
「アルピーヌ、どこへ行く」
「少し丘へ散歩をしに、と。 執務は終わらせていらっしゃいましたよ」
アルピーヌは口より行動で示すのでアルピーヌの家事奴隷が周りの人へ事後報告をしていた。
「イレーヌ 私はもう長くない」
アルピーヌはこの丘で家事奴隷のイレーヌにそう告げた。
「私は確かに領主に向いている だが体が弱い 理由は知っているはずだ」
イレーヌは静かに頷いた。 理由はルイズにも伝えられていないらしい。
「最後でいい 私は……」
ここから逃げてみたい、と。
アルピーヌは言ったそうだ。
「嘘透かしの花は延命出来ると言い伝えられています、今もここに嘘透かしの花があるのはイレーヌの意思なのでしょう」
「イレーヌは?」
「後追いをしたそうです。 アルピーヌ様の墓が作られた翌日に」
その時にイレーヌは墓前で帽子を脱ぎ、忠誠を誓った。 その姿は奴隷の誇りとされているそうだ。
丘を下っている途中、ルイズが帽子を被った。
「私語を長々と申し訳ございません」
「いや、ルイズはそのくらいお喋りな方が似合う。 忠臣にはならなくていいから私の良き助言者として共に歩んで欲しい」
自分で言って照れてしまった。
ルイズのサポート無しではこの数日間過ごせなかっただろう。
「本当にお人が違うように考え方が変わりましたね」
……妙に勘が鋭いのはたまにドキッとする。
meamea No.18641960 2020年04月20日 18:44:33投稿
引用
「ほらアンタ、早く掃除しなさいな」
「わかりました!」
カロルに注意され、せっせと床を拭きます。
奴隷寮とはいえ、いつグラース家の皆様が参るかわからないので常に清潔にしているのです。
先日、グラース家末兄弟のアンベール様とわたしの憧れのルイズがやって来ました。
ルイズは9歳でアンベール様の家事奴隷になりました。
普通は15でやっと一人前になるのに……やはりルイズはすごいですね!
アンベール様のお母様である嫁入り奴隷のヴァレリーはアンベール様が7歳になった時にルイズに任せました。
ルイズは仕事になると無口でさっさと仕事をこなし、休める時は語りが上手なのです。 ルイズと話していると妙な安心感に包まれるのが不思議です。
「アンタ……ホコリが目に入らないようにね ただでさえこんなことになってるんだからさ あんまり無理はしないんだよ」
「大丈夫です」
カロルに心配された通り、わたしは目が不自由です。
以前は両方目がありました。 ですが、片方は空色 もう片方は青色というちぐはぐな為に数年前に空色の目を潰されてしまいました。
その時にルイズに励ましてもらったのです。
「良いこと? あの冬の逃亡の薬草を見て 何かあったらあの薬草で逃げられる 辛くなったら飲みなさい まだ大丈夫ならお守りとしていつも心に留めて」
ルイズは逃亡の薬草を口にしようとしていた時期があったらしく、わたしはその恐ろしさに目を向けたくないと思っていましたがルイズに言われてから見ると逃亡の薬草がなんだかとても素敵に見えてきたのです。
ヴァレリーが季節を測れるように、と持ってきた花が咲くバケツには白く、中心部が青っぽい緑色のレースのような葉を持つ逃亡の薬草は今も寒い寮を照らすように輝いています。
そして今日。 掃除をしていると、アンベール様からカロルのお下がりが貰えました。
リシャール様に回収された服をカロルに返し、カロルがわたし達に分けてくれました。
わたしは失った目の色である空色の服を選びました。
着心地が良く、寮のみんなも喜んでいました。
アンベール様は何故こんなに尽くしてくれるのでしょうか?
アンベール様はヴァレリーに似たとても薄い黄色の髪に青と緑の間のような瞳をお持ちの美しい方です。
主従に恋愛は禁物よ! とルイズは言っていましたがわたしは白髪赤目のルイズと似合っていると思っているのは内緒です。
そういえば逃亡の薬草とアンベール様は似ていますね。
……アンベール様はわたし達奴隷の逃亡の薬草になって下さるのでしょうか?
ヴァレリー、教えて下さい。
meamea No.18642756 2020年04月21日 12:29:05投稿
引用
亡きアルピーヌの墓参りの翌日。
「奴隷寮の皆はとても喜んでいましたよ!」
服を届けてくれたソフィアがにひひ、と笑っていた。
カロルもまさか返却されるなんて、と言っていたらしい。
なんでもカロルは古着を与えなかったのではなくリシャールに回収され、ジゼルに渡していたのだそう。
ジゼルも主であるリシャールに服はいらない、とは言えず、カロルは素性がわからない私にリシャールを罵倒するようなことは言えなかったのだそう。
あのカロルの殺意はリシャールに対して……か。
怖い……カロルもリシャールも。
リシャールにいつもニコニコして良いお兄さんというイメージが少し崩れ、微ヤンデレ認識がついた。
ジゼルがやつれているのもリシャールなりの愛が原因だったり?
カロルに後々聞いてみたところ、リシャールの独占欲や歪んだ愛が酷い、とひどく遠回しに言った。
カロルはちょっと私寄りになってくれたようだ。
「アルピーヌ兄上について私が忘れている分、調べたいです」
「後で資料室へ行きましょうか? 今日はレオナール様と剣の練習が先でしてよ」
ルイズに言われ、気分が落ちた。
ぐぅ……! 剣って何!? 怖いよ……
西洋の剣って重かった気がするし、今日は疲れそうだ。
「資料室は今日の練習での疲労によって行くか行かないか決めることにする」
「アンベール様なら大丈夫でしょう」
ルイズが自信ありげに励ましてくれたのでアンベールの元の素質を信じよう。
レオナールの元へ行き、筋トレや素振りなど体育の授業みたいなことを庭でやった。
思いの他疲れなかったのがルイズの言う「大丈夫」という要素なのか。
「いやな、私も久々なんだ しばらく執務が忙しくてな」
練習を終えたレオナールがニカッと笑っている。
レオナールは次期領主だが、アルピーヌが生きていれば将来は違うに決まっている。
見た目通り、アンベールの記憶にはレオナールは剣が好きで王族を護衛をする騎士を志していたそうだ。
しかもレオナールの実力ならば王族を護衛しても問題はないぐらいの腕らしい。
というかやっぱりここは王国なんだね……いやそれしかないか。 異世界だし……
「レオナール兄上」
「なんだ?」
「……アルピーヌ兄上はどのような人だったのですか」
昨日のレオナールが涙ぐむ様子を思い出し、思わずうつむく。
するとレオナールがこちらに歩み寄り、私の頭をがしっと掴み、わしゃわしゃと撫でる。
私はそのまま喋ろうとした。
「あぅ」
物凄く変な言葉? 音が出た。
「撫でられただけで情けない声を出すな そうだなぁ……アルピーヌ兄上はお前に似て優秀だった」
庭にある池にレオナールが向かったので私もついて行く。
池に写った私は本当に美形だった。
初めてアンベールを見たかもしれない。
白に近い金髪にリシャールと同じ翡翠色の瞳。
なんとも中性的な顔付きだった。
「そうそう こんな金髪で……お前は本当に兄上に似ているな 羨ましい」
間を置いて、レオナールが口にした。
「もしお前が次男だったらどんなにこのグラースという領地は栄えていたかと……常々思っているんだ」
レオナールは寂しげに私じゃない私を見つめるように池に写った私を見ていた。