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雑談

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    xabixing::google No.12164906 

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    ポケモン秘話

    第二章
    第六話


    「……まさか、レッドは——」

    沈黙を破ったのは、ようやく冷静さを取り戻したサカキで。

    「そんな、ばかな……。
     それならば、貴様の——レッドに対する、あの仕打ちは一体何なんだ?」

     しかし、オーキドはサカキの質問に答えようとはせず。

    「ある夏のこと。
     当時、わしはそれなりに忙しい身だった。
     かなり前からスケジュールを調整しておかなければ、休みなんてとることができない。

     だが、そんな状況でも外せない予定がある。初めて〈息子〉と出会えるのだ——仕事なんてしてられまい。
     マサラタウンにあるその病院では、ちょうど同じ日に旧くからの友人である、ケイティの子も生まれるということだった。

     見事、出産は成功し、みなにそれを伝えた直後のこと。
     待合室でつい眠って——そして、逆立ちをしてしまっていたわしのもとに一人のスタッフがやって来た。
     怯えた表情をしたが、それどころではないとばかりに——逆立ちの姿勢から戻るのさえ待たずに……。

     『まことに申し上げにくいんですが——』」

     オーキドはすでに、元の面影をなくし——。


    「そのきっかけは、本当に偶然だった。

     いつものように、わしの研究室を荒らすレッドを部屋から追い出し、仕事を始めた。
     資料を観察していたところ、何やら異物が混入していたのだ。

     当時は研究が一向にはかどらず、むしゃくしゃしていたこともあって——ひまつぶしにでも、それが何なのか調べてみることにした。
     その結果、人の髪の毛であることが——また、DNAが〈ある人物のものと一部が共通している〉ということも判明した。

     すなわちわしのDNAと、だ。
     しかも、その髪の毛の持ち主がレッドであることはほぼ間違いない——研究所のスタッフは、勝手にわしの部屋に入ったりしない。


     わしの息子は死んでいなかった——レッドとして生きているのだ」


     少し、間を開けて——。

    「これに気付いたわしには、もはや殆どの事実が見えていた。
     ケイティの子供はすでに死んでしまっていること。

     その事実を、ナカイやあの病院のスタッフは隠蔽しようとしたこと。
     そして、わしの孫はその隠蔽工作の犠牲となったこと……。

     それだけではない。
     ケイティは〈不正をきらう性格〉——ならば、ケイティのことをよく知っているナカイは本来、子供のすり替えなど行わないはずだ。

     では、何故ナカイ実行したのか。

     命の危険が——なにか、かなり大きな力を持った者が関わっていたのだろう。
     手始めに、ケイティの死んでしまった子供の——〈本当のレッド〉の父親が誰なのかを調べた。

     そうすると——サカキ、貴様の名前が、浮かび上がってきたのだ……ッ」


     無人のビルに、灯りはなく——すでに漆黒がすべてを包み込んでいた。

     しかし。
    確かに、オーキドの姿が——怒りを身にまとった姿がサカキの瞳に焼き付いた。

    そう、「焼き付いた」のだ。
    常に——何を見ていても、目を閉じていても——視界に存在し続けるのだ。


     これが、原因なのだろうか。
    オーキドと会った翌日、サカキの精神は異常を来たし——ロケット団のボスの座から身を引くことになった。


    続く
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    xabixing::google No.12164911 

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    ポケモン秘話

    第三章
    第一話


     時は流れ——やがてレッドは、一人の青年となった。
    一人の、孤独な青年に——。

    サカキが亡くなったのはもう十年近く前になる。
    ケイティも後を追うようにして死んだ。

    では、レッドが今やロケット団の若き指導者であるのかというと、そうではない。
    ロケット団自体が壊滅しているので当たり前といえば当たり前だ。
    しかし、ロケット団の残党の、レッドに対する行動については「当たり前」ではない——すなわち、レッドとケイティとサカキの三人家族はその〈残党〉に命を狙われ続けていたのだ。

    【ただ、サカキとケイティは、ともに病で亡くなっているので、残党がその家族を直接手にかけたのではない。
    その病が精神的ストレスから来ることが多いのを考慮すれば、間接的に殺したという可能性は否めないが】

    なぜだろうか。
    ロケット団に——それこそ全てを捧げてきたサカキの命が狙われたのは。
    そして、そのサカキの家族——ケイティとレッドをも殺そうとしたのは。

     実は、前者と後者では理由が大きく違う——前者の理由は〈復讐〉で、後者の理由は〈未知への恐怖〉といったところか。

    〈復讐〉とはすなわち、〈ロケット団を壊滅させたこと〉に対して行われた。
    だが、これにはかなりの思い込みが含まれている——
    「サカキとオーキドが密会した直後にオーキドは警察に行き、ロケット団は警察にやられた。
     つまりサカキは、ロケット団を売ったのではないか?
     そしてオーキドはその情報を警察に売り、しばらく警察に保護されていたのではないか?」

    これは、かなり的を射た考えだ。

    しかし、レッドはそもそも真実を知らない。
    いや、昨年までは「サカキとオーキドの密会」についてすらも知らなかったのだ。
    彼がどのようにして密会の事実を知ったかは問題ではない——むしろ、これまで知らずにいたことの方が問題だろう。

     サカキがロケット団のボスの座から引きずり下ろされた理由なら、文字通り誰でも知っているような状態であった。
    だが。ロケット団の残党に命を狙われるという絶望的な境地に自分の友を巻き込む行為は、ケイティには到底できなかった。
    その結果、彼らは人としての生活を捨て、野生の中で生きていかねばならなかった。
    レッドは「誰でも」知っているはずの密会の存在を知らずにいたのだ。

     父、母と死に別れた後も野生の生活を続けていたレッドだったが、あるとき遭難者として発見、保護された。
     一人で社会生活を送れる程度の体力や精神力なら、レッドには十分あったので保護施設にいた期間はかなり短かったが、そのわずかな期間の間に彼は知ってしまった——密会の存在を。
    サカキがロケット団を追われる原因となった、ある噂を。

     さすがはサカキに育てられていただけのことはあるのだろうか。
    レッドの情報収集能力は素晴らしく——彼が例の噂を聞きつけ、オーキドに会って真実を確かめようと思い立ってから、わずか二年。
    二年でオーキドの居場所を突き止めた。
    ロケット団の残党が必死に探しても見つけることができていないのにもかかわらず、だ。


     かくして青年レッドはある家のインターホンを鳴らしたのだった。


    続く
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    ポケモン秘話

    第三章
    第二話


     部屋の中央の机の上にはサンドイッチが置かれており、オーキドとレッドはその周りに立っている。
    オーキドが四個目のサンドイッチを食べ終わったのを見届けて、レッドは口を開いた。

    「率直に訊きます。
     正直に答えてください」

    「ほお。
     お前のような悪ガキでも敬語を使うことができるようになるとはな……」

    レッドは、オーキドの皮肉を受け流し
    「そんなことはどうでもいいんです。
     俺が訊きたいのは、あの夜——サカキとあなたが密会したあの夜、何が起きたのか。
     そして、サカキの心がどうして壊れてしまったのか」

    「——『サカキ』とはな。
     あいつはお前の父親ではなかったのか?」
    「そう、それもです。
     俺の、本当の父親は誰なのか。
     ひとまず、この三つの質問に答えてもらいたい」

    オーキドは笑顔を崩さず
    「今の段階で、あの密会の内容を、いったどれほど知っているんだ?」

    対して、レッドは真剣な表情のままで
    「世間で流れている噂程度のものなら、すべて——」
    拍手をしながら
    「さすがだ。
     すばらしい情報収集能力だ。
     ……さすがはサカキの息子だな」

    「黙れ!」

    突如大声を上げたレッドの表情は、怒りそのものであった。
    「おやおや、ど——」

    「『正直に』と言ったはずだ!」
    「だから、何でお前は怒ってるんだい?
     わしは何ら嘘なんて言ってないが」

    「黙れ黙れ黙れ!
     俺がサカキの息子だと?
     ふん、まさかお前が未だにそんな嘘を使おうとするとはな。
     俺が事前に調べないとでも思ったのか?」

    オーキドの笑顔は、微動だにしない。
    「ごもっとも。
     それで、調べた結果はどうなったんだ?」
    「……ッ。
     ああ、教えてやるよ。
     ——DNA鑑定の結果、俺とサカキの間に血縁関係は認められなかった!」

    「それはそれは。さぞ悲しかったことだろう。
     今まで、実の父親だと思っていた男が赤の他人だったんだから。
     しかし、意外だなー。
     ケイティが浮気していたなんて——」

    「……。何故だ?」
    「『何故』——ケイティが浮気をした理由か?
     わしはケイティではないから何とも言えんが、……さしずめ、サカキが家族で——というより夫婦で時間を過ごそうとしなかったんだろう」

    オーキドの言葉が終わって三分間。
    沈黙が世界を支配した。

    「もう、気は済んだか?
     それならさっさと帰りなさい」
    「何回ふざけるつもりだ?
     そんな結末を訊くために、俺がわざわざこんなところに来るとでも思ったのか?」

    「お前はさっきから意味の分からないことを——」
    「まだとぼけるのか!
     それなら分かりやすいように言ってやるよ」
    レッドは一度言葉を切った。


    続く
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    ポケモン秘話

    第三章
    第三話


    これで終わりにしてやる、と燃える怒りの表情。
    そして——そして、わずかに紛れた感情。
    懇願——助けて、このわけの分からない世界から解放して、と叫んでいる心。

    レッドを静かに見つめていたオーキドは、はたしてレッドのそんな心すら見抜いていたのだろうか——?

    「俺と母さん——ケイティは、DNA鑑定の結果、親子ではないと判定されたッ!」

    触れてはいけない一線というものがある。
    「俺は、誰の子供なんだ?」

    レッドは、それを鷲掴みにしてしまったかのような感覚を覚えた。
    「はじめ、サカキと遺伝的関係が見られなかった段階で、あの噂を疑った」

    今までの、それなりに幸せだった生活をすべてぶち壊してしまいかねないほどの威力の、アンタッチャブル。
    「母さんとの間に一切の関係性が確認できなかった時点で、その疑いは確信に変わった」

    同時にそれは、真実にたどり着くために、通らざるを得ない道でもあった。

    「お前が言い逃れできないよう——念のため。
     あの噂を真実として、お前を縛り付けつてしまうために。
     博士——お前と俺のDNAを鑑定した。
     当然、親子であると判定されるものかと思っていた」

    オーキドは、何も言わない。
    ただ、静かにレッドを見つめるだけ。
    「だが——俺とお前の間に、親子関係は認められなかったのだ!」
    「……」

    「どういうことなんだ?
     かつて、俺は自分がサカキと母さん——いや、ケイティとの間の息子だと信じていた。
     しかし、それはDNA鑑定によって否定された。
     そして鑑定の結果、俺はお前の息子でもない。
     ……俺は誰の息子なんだ?
     捨て子だったのか?
     今まで俺は、赤の他人のことに囲まれて過ごしてきたのか?」

    涙を浮かべて
    「頼む、博士。
     本当のことを、教えてくれ……」

    オーキドは椅子から立ち上がった。
    「その鑑定の結果は、信用できるものなのか?」
    「……ああ」

    「それは確かか?」
    「俺が、自ら行ったものだ」

    「では、お前の行った実験に技術的な問題はなかったのか?
     器具に異常はなかったのか?」
    「……ありえない」

    「実験に異物が混入するなど、何らかのバグが起きた可能性は?」
    「実験は数百回行われた。
     博士がいう可能性は、天文的に小さい」

    その言葉を聞くと、オーキドはゆっくりと歩き始めた。

    「博士!
     逃げるのか?
     真実を、教えてくれないのか?」

    一時的に落ち着いていたレッドだが、その顔からは、また怒りの表情が読み取れるほどになっている。
    向こうを向いたまま、オーキドは言った。

    「逃げるつもりは、ない」


    こちらを振り返って——
    「これから先の話は、少し長くなるのでな。
     何か食べ物を持ってくるだけだ」


    続く
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    ポケモン秘話

    第三章
    第四話


     オーキドが27個目の赤福を取ったとき、ようやく赤福の箱は空っぽになった。

    「ちょうど、こんな状況だった……。

     机の上に置かれていたのは大福餅で、椅子に座っていたのはわしと、わしの親父だったがな。
     今のお前と同じように、当時のわしも執拗な眠気と戦っていた——親父に『話がある』と言われてから三時間。
     待ち続けるのに、三時間はちときつすぎたのだ」

    同じような状況——そう、確かに同じような状況だ。

    「目が覚めて——つまり、わしは眠ってしまっていたらしい——新聞を見た途端、わしは驚愕したよ。
     親父が逮捕されたことが、一面に書かれていたのだ。

     親父が逮捕されたことにも驚いたが、それ以上に〈親父の逮捕が新聞の一面で報じられている〉ことの方が衝撃的だった。
     まさか、親父が社会的にそんなに注目されるような人間であるとは考えたこともなかったのだ。
     では、どのような人間だと捉えていたのかと思ったとき、わしの受けた衝撃はやや緩和された」

    机の上に食べ物が置いてあったこと。
    椅子に二人が腰かけていたこと。
    一人が待ちくたびれて、眠そうにしていたこと。

    ——どれも嘘ではない。

    「実をいうと——当時のわしは、親父のことを何も知らなかった。

     いつも忙しそうに働いている——親父について知っていることなんて、この程度だったのだ。
     こんな認識しかない状態で、なぜ今まで親父について何も疑問を抱かなかったのか——幼かったとはいっても、我ながら愚かだった。
     子供が親についてこの程度しか知らないということのは普通ではない」

    しかし、オーキドが言わなかった共通点も存在する。

    「つまり、その〈ありえない状態〉にあるわしの周囲には、意図的な何かがあるはずだし、それを実行できるほどの権力者も存在していたはずだ。

     それらが絡み合って引き起こされたのが、親父の逮捕であり、あの奇妙な罪状と異例の展開——逮捕後わずか三日で開かれた法廷において、〈ナゾノクサを研究所から盗み出した〉ことで死刑判決が出された。
     しかもその間、被告人——すなわち親父は、〈操られているかのように〉黙りこくっていたそうだ。
     そして、判決後一週間で死刑が行われた。

     ……明らかにおかしい。
     どんな素人にだって分かる。

     やはり、この件には何らかの意図がはたらいたに違いない——そう考えたわしは、この一連の謎を解こうと思い立った。
     何も親父の仇を取ろうとしたのではない。
     単なる好奇心からだ」

    例えばその共通点は、窓から差し込む暖かな日の光であり——

    「この件が裏世界の住人によるものだとしたら、親父も明らかにそちら側の人間。
     状況からして、〈たまたま巻き込まれた〉というのはむしがよすぎる。
     そしてあちら側に踏み込んだ段階で、その人物は命を捨てたも同然。

     ならば、わしが親父の仇討ち合戦をする必要も、する理由もあるまい」

    時計の示す時刻であり——。


    続く
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    ポケモン秘話

    第三章
    第五話


    「まずわしが調べたのは、親父についてだ。
     何らかの大きな存在が背後にいるのは分かっていても、その〈大きな存在〉については何一つ分かっていなかったのだ。
     親父について調べるのが最善かつ唯一の方法だった」

    白衣の内側から、古びたねじを取り出して

    「この決心をしたのが、親父の死刑判決から一週間後。
     しかしわしは、すぐに家を出たわけではなかった。

     ——無理もなかろう。
     どこをどうやって調べればよいのか、全く分からない状況で、いきなり一人立ちできるわけもない。

     しばらく——結果的には一ヶ月ほど——毎日、パチンコやカジノに通った。
     毎日浪費し続けただけあって、我が家の金庫に山のように合ったお金はあっという間に消えてしまう。

     幼い頃のわしは我慢するということをやや苦手としていたようで——金庫が空っぽになっても、浪費をやめようとせず、家に置かれていた金目のものを片っ端から売り払った。

     その中の一つに、よく分からない機械があった。
     見たこともない外見——使用法を類推するのは不可能なほどだ。
     とはいっても、何なのかよく分からないまま売却してしまうのは、どこか癪だったので、その機械を一度分解してみることにした」

    レッドの目の前に、そのねじを近づけながら

    「すると、その機械を構成する全てのパーツに、この模様が描かれていることが判明したのだ」

     そのねじに描かれた模様は——

    「そう、〈ギンガだん〉だ。
     この特徴的なGのマークは、ギンガ団のトレードマークだ。

     ……驚いたか?
     このギンガ団は確かに、今現在、存在しているギンガ団と同じだ。

     ロケット団が政府によって滅ぼされた後、裏世界を支配している、あのギンガ団だ。
     一般に——裏世界においてすら——最近のギンガ団の勢力拡大は〈新勢力の台頭〉として扱われており、〈古参の復活劇〉ではなかった。

     なぜか——なぜ、誰も〈かつてのギンガ団の存在〉覚えていないのか?
     その理由は——揉み消されからなのだ、政府によって」

    ねじを机の上に置いて、オーキドは話を続けた。


    続く
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    ポケモン秘話

    第三章
    第六話


    「まあ、この話は少し後に回そう。

     とにかくわしは、ようやく手がかりを見つけたのだ。
     あの機械の形状は明らかに裏側の世界のもの——ならば、裏側に属していた親父の秘密を探る上で、強力な味方となるに違いない」

    次にオーキドが取り出したのは、わざマシン28〈あなをほる〉だ。

    「そこでわしは——強力な手がかりという存在に背中を押されたこともあり——とうとう家を出て、一人で旅をして生きていく決心をした。
     ……明確な目的地こそなかったが、あのねじを利用して情報を得る勝算はあった。

     ロケット団を利用するのだ。
     ギンガ団と違い、裏世界の住人であることを公表しているロケット団はある意味、——かつてはまだ表世界にいた——わしと、裏世界との数少ない接点であった。

     とはいいつつも。
     すぐにロケット団の手頃な団員に出会えたわけではない。
     下っ端なら半径二十メートル以内に二人はいたが、そんなに下の方の人間では、ロケット団の団員であるといっても、目当ての情報を持っているとは思えない——一般に知られていなかったほどだ、余程の機密情報であったに違いないのだ。
     かといって、あまり上の方に属する人間もだめだ——いくら何でも強すぎる。 
     幹部にもなると、十歳にどうこうできるレベルではない。

     そうなると、上と下の両方を持ち合わせたくらいの人間——上層部レベルの情報に精通しながら、実力は下っ端程度。
     こんな団員、そうそういない。
     では、どうすれば遭遇できるのか——わしは『数打ちゃ当たる』の信念で突き進んでいくことにした。
     下っ端以外の団員との出会いを増やすのだ。

     しかし、ロケット団とはどうすれば会えるのか?
     ロケット団のいそうな場所に行けばよい。
     では、団員はどこにいるのだろう——幼いわしの思考回路は、まだまだ単純すぎた……。

     〈ロケット団は悪い人たち。悪い人といえば泥棒。泥棒といえば空き巣。空き巣に会いたければ、空き巣のいそうな家を探すべき——つまり、団員に会えるまで、自ら空き巣に入り続ければよい〉

     当時の経済事情とも相俟って、わしはこの安直な考えに飛びついた。
     家を出た時点で数百円だった所持金は、あっという間にゼロを通り越していた。
     あの単純な——〈そうだ、空き巣に入ろう〉という計画にたどり着いたときには、マイナス百万にすら届きかけていたよ。

     家を出てからは、パチンコと公園の間を行ったり来たり——昼間はパチンコ、夜は野宿——していただけだから、仕方ないがな。
     あ、ときどき借金をするために遠出したこともあったか……」

    赤いRの文字が刻まれた黒い帽子が、オーキドの懐から現れた。

    「とにかく。
     空き巣という手段は、当時のわしにとって必要かつ素晴らしい方法だったのだ。
     生計を立てることができる上に、ロケット団の団員と遭遇する機会もいつかは得られるに違いない。

     その〈いつか〉がやって来たのは、空き巣を始めてから二週間——ちょうど、十歳七ヶ月のとき」


    続く
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    ポケモン秘話

    第三章
    第七話


    その帽子を掲げて

    「この帽子の主こそ、わしが探し求めていた人物——実力が伴わないのに、情報だけは無駄にある。
     ロケット団らしく、人相が悪かったが、それは関係ない。

     食料を徴収するために——もとい、親父の情報を持っている人間に遭遇するためにその夜も、とある民家に向かっていた。
     最初に違和感を覚えたのは、その家に——タカナシ家に着いたとき。
     タカナシ家の外観は、わしの記憶とは何かが違った。
     何が違うのかは分からなかったが、確かに違った。
     しかも、この違和感の小ささはわしの不安をより掻き立てた。
     この違和感の存在ゆえ、家に侵入する際は、いつも以上に警戒せざるを得なかった。

     次に違和感を覚えたのは、扉を開けたとき。
     人の気配がしたのだ。

     あるはずのない気配——事前の調査で、タカナシ一家は旅行で留守にしているはずだと分かっていた。

     思わず神に感謝したよ。
     あの気配は恐らく、わしより先に侵入していた空き巣。
     そしてあの小さな違和感——違和感をあそこまで小さくできるのは、プロの泥棒くらいのもの。

     そう。
     あの扉の先には、わしが追い求めていた人物がいる可能性がある。希望がある。
     右手にクサイハナの入ったモンスターボールを構えて、リビングへと続く扉をがばっと開く」

    オーキドは一度話を切って、壁にかけられた時計で時刻を確認した。

    「わしの日頃の行いが素晴らしいおかげだろう——そこにいたのは、希望通りの男だった。
     ナゾノクサのようかいえきだけで手持ちの六匹が全滅されてしまうような弱さ。
     身分不相応なまでに豊富な情報量。

     あいつがわしの顔を見て『まさか、あのオーキド博士の子供なのか?』と叫んで、何か裏のありそうな恐怖の表情を浮かべたとき、わしは確信した。
     こいつは何か知っている——すなわち、わしの求める人物である、と。
     喜びのあまりわしも叫び出しそうに——もとい、叫び出してしまった。
     数ヵ月間の努力が報われたんだからな」

    机の上に置かれていた帽子をもう一度持ち上げて

    「まず、その男をこてんぱんにやっつけた。
     ナゾノクサのようかいえきごときは使わなかった。
     はなびらのまいを使ってやったよ——ナゾノクサのだが。

     しかし。
     お前のために教えておくと——はなびらのまいなんて屋内で使うんじゃないぞ。
     トレーナーの命すら危なくなる。
     あのときも、男にあまり大きな傷を負われてはこちらも目的が果たせなく——秘密を話させることができなくなるので、ナゾノクサに細かい指示を的確に与え続ける必要があり、なかなかに骨が折れた。
     あの男の場合、本当に骨が折れていたのだがそれはどうでもいい。

     とにかくわしは、あいつを瀕死の状態にした後、当初の目的を実行した——すなわち、わしの親父のことを聞き出すために拷問を始めようとした。
     自白させられるくらいなら死んでやる、と言って自殺されては困るのでナゾノクサのしびれごなをいつでも繰り出せるように構えておいたのだが——あの男の喋ること喋ること。
     何も聞いてないうちから話し始めた。
     瀕死の状態にあるのか疑いたくなるほどだった」


    続く
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    ポケモン秘話

    第三章
    第八話


    オーキドがこの話をわざわざ俺にする理由は何なのだろうか——いつまでも正解を導けずにいた。

    「あいつが必要な情報を話している間はそれでよかったのだが、次第に話は明後日の方向へと向かい、わしの親父の話に始まり、ロケット団の内部情報、ライバル関係にあったいくつかの組織に関する極秘情報、あの男の恋愛歴——最終的に人類愛は存在できるか、というところまでたどり着いたな。

     わしはその間、しびれごなを浴びせ続けたんだが——あいつの口には、なぜか効かなかった。
     恐らく、先天的に耐性があるんだろう——口にのみ。
     まあ、何はともあれわしはあの男のおかげで親父に関する秘密を知ることができた」

    秘密、か。
    レッドは心の中で呟く。
    博士の秘密——そしてサカキや俺自身にも関わる、重大な秘密。

    「だが。
     今は敢えて話さずにいようと思う」
    「な……何故?
     何のために、わざわざ——」

    動揺した様子のレッドと対照的に

    「何でもいいだろう。
     わしにはわしなりの理由があるのだ。

     それに、あの秘密もじきに分かる。
     ……何も、焦ることはあるまい。
     わしらは二人とも一般社会からはみ出た人間。
     時間なら、いくらでもあるのだから——」


    時計の鐘の音が、六時を告げた。


    ————


     しかし、本当に何のつもりなのだろう?
    レッドの意識はもはや、オーキドの話には向けられていなかった。

    無味乾燥とは言わない。
    確かに、波瀾万丈で物語として聞けば面白いのかもしれない。

     だが。
    飽くまで「物語としては」なのだ。

    今、この状況では物語を楽しむつもりになれるわけもなく、レッドはただ考えていた——この男、オーキドの真意を。
    何故博士はこんな話を長々としているのだろうか。

    スイクンをプレミアムボールで捕まえたからなんだと言うのだ。
    サファリゾーンでポケモンに囲まれてその場で足を小刻みに震わせていたら、あっという間に規定の歩数を歩いてしまったからなんだと言うのだ。
    そんなものはどうでもいい。

    とにかく、今知りたいのは博士の秘密。
    博士の父親が本当にしたことは何なのか。
    何故俺とサカキの間にも、博士との間にも親子関係は認められなかったのか。 

    そして。
    この博士が裏社会の頂点に君臨し続けることができる理由とは——。

    賢いのは間違いない。
    すべてが超越している。
    しかし、それだけではない。
    明らかに、何かがある。
    君臨できるだけの何かが。
    賢さという、非戦力的なものだけではなく、何らかの実力が。


    続く
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    ポケモン秘話

    第三章
    第九話


     違和感。
    今日の博士は何かがおかしい。
    俺が冷静な思考を始めたこと自体がおかしいのだ。

    事前調査で、博士のやり口は——標的を社会的、精神的に破滅させる方法は、基本的に軸が同じであることが分かっている。
    まず、唐突に相手に接触する。
    自分が狙われていると本人が自覚しないうちに、事を起こすのだ。
    何らかの方法で標的と一対一の状態に持ち込む。

    ここからあいつ特有の手法だ。
    序盤からショッキングな事実を連発する。
    その一つ一つに、標的の日常をぶち壊してしまえるほどの威力がある。
    そんな事実を惜しみなく使っていく。
    場合によっては、この段階でいくつか嘘を混ぜることもあるらしいが、標的はそれが嘘であるとは気づかない。
    それより前の驚愕の事実によって、適正な判断能力を破壊されてしまっているからだ。
    この結果、標的はさらに精神的に負担を受ける。

    この時点で、精神に異常を来すものも多い。
    では、そうならなかった人間に対してはどうするのか。
    精神面が非常に強い人間、あまり情報が集まらなかった人間。
    そこで登場するのが次の段階。
    精神にそれなりに負荷を受けた標的の目の前に、一本のくもの糸を垂らすのだ。

    つまり。
    敢えて隙を作る。
    但し、一見気付かないような隙を。
    標的が「偶然見つけた」と確信してしまうよう、計算しつくされた隙を。

    標的がその隙を突いた瞬間、勝負は決まる。
    瀕死の状態から自分の幸運のお陰で偶然勝機をつかみ、見事形成を逆転——したと錯覚させられた標的の心には、あまりにも大きな隙ができる。
    そこに締めの一発を——標的にとっての全てを否定してしまうような、最大級の言葉を放り込む。
    これが事実であろうと、嘘であろうと関係ない。
    オーキドの演技力と標的の油断が相俟って、真偽を判断する能力はもはや皆無になるからだ。

     つまり博士は、そのすさまじい情報網、計算力、表現力によって、標的が正常な判断をできない状態にしつつ、精神に大きな負荷を与えて、崩壊させる——この方法をベースに多くの人物を社会的に抹殺してきたのだ。
    一般には、そう言われている。
    俺も大体この見解には賛成だ。

    だが、ひとつの疑問がある。
    果たして、人間の精神とはそんなに弱いものなのだろうか。
    ……やはりここでも、何かが欠落している気がする。

     この方法において。
    オーキドは、衝撃的な事実によって、判断能力を計画的に奪っている。
    となると。
    今現在のこの状況も、オーキドによって計画されたものでないと何故言い切れるだろうか。

    そうだ、こいつがわざと長々と関係のない話をしているのは、まさしく俺をこの状況に——落ち着きを取り戻し、博士の話から興味を失い、博士の真意が何なのかを真剣に考えている状態に導くためではないのか。
    だとすれば、そこには何の利点があるのだ?

     ……そうだ。
    思い出せ、博士の言葉を。

    「ちょうど、同じような状況」であったと。

    あのとき博士は、話をされているものが眠りかけていることやお菓子が机の上に置かれていることを挙げた。
    しかし、あの「同じような状況」という単語にはもっと多くの意味が秘められていたのではないだろうか。


    続く
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    引用

    ポケモン秘話

    第三章
    第十話


    そして——こんなことを考えていては、博士の思う壺なのかもしれないが仕方ない。
    ならば、博士の想定よりも早く真実にたどり着けばいいだけのこと。

    博士は「やがて気を失い、次に目が覚めたときには目の前に新聞が置かれていた」と言った。
    しかも、それは博士の父親の死刑判決について。
    博士が父親から話をされて眠ってしまったのより確実にあとに発行された新聞。
    それが机の上に置かれていた、ということは少なくとも博士の家には何らかの人の出入りがあったのだということ。

    ここで、直感を頼りにさらに想像にたよれば——博士は、大福に含まれていた睡眠薬を飲まされたのではなかろうか。
    そして眠ってしまっている間に、父親によってある実験に使用された。
    しかもその実験が非常に前衛的——言い換えれば、あまりに非合法的なものだったため、その事実が公表されず、苦肉の策として「ナゾノクサを盗んだ」ことを罪状にしたわけだ。
    全く、どうしてもう少しくらいまともな罪状にしなかったのやら。

    つまり、この想像が仮に正しいとすれば。
    「菓子」に何らかの薬が含まれていたことになる。
    だが、先に言った通り、それは想定内のことだ。


    人間の細胞に作用する薬の幅なんてたかがしれている。
    その道の人間に頼めば、ほとんどの毒を無害にはできなくとも、害をかなり抑えることのできる——いわゆる万能中和剤が手に入る。
    無論、余りにも毒性が強すぎる場合には害を抑えきれず、死ぬ可能性もあるが、それは博士にとっても同じこと。

    博士が赤福を食べても大丈夫なら、それはこの赤福にそもそも薬が入っていないか、中和剤の存在しうる程度の薬しか入っていないということ。
    ならば、万能中和剤を使用している俺が食べても、それほど危険な状態に陥る恐れはないのだということ。

     分からない。
    博士が万能中和剤の存在を知らないわけがなく——万能中和剤を世界にもたらしたのは、他でもないオーキド自身だ。
    ならば、仮に睡眠薬を混ぜた所でそれが俺に対してはきちんと作用しないことも分かっているはず。
    博士は一体……。


    ——鈍い衝撃。


    頭の中に何か違和感がある。
    それほど強いものではないが、確かに存在する唸り。
    まさか、万能中和剤が正常に働かなかったのか?

     いや、それはない。
    何故だ。
    赤福を皿から取る行為は完全に無作為であった。
    万能中和剤が作用しないような毒物が赤福に混入されていたのなら、確かに俺にも効くだろうが博士も相当危険な状態になる可能性が高い。

    博士らしくない。
    リスクを楽しむことはあっても、自ら毒を飲むなんてことは決してない。
    自分は毒に触れもせずに、一か八かの駆け引きで相手にその毒を飲ませる——そんな人間だ。

    だからこそ、おかしい。
    なにやら思考回路にも影響を及ぼし始めた。
    これはまずい。
    このままでは、確実にやられる。
    やはり、赤福なんて食べるべきじゃなかったのだ。
    持参した御座候だけをおとなしく食べていればよかった。
    はあ。


    続く
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    引用

    ポケモン秘話

    第三章
    第十一話


    しかし、俺はここで——肉体的にも、精神的にも——死ぬわけにはいかない。
    この状況を打破せねばならない。

     さて、もうこの段階で赤福に毒が盛られていたのは事実としてとらえてもいいだろう。
    そしてそれには万能中和剤が作用しない——すなわち、効果的な解毒剤が存在しない可能性が高い。
    少なくとも、ちょっとやそっとで手に入る代物ではないだろう。
    博士もその毒を取り込んでおり、摂取量は俺よりも多いはずだ。
    すると、博士は何らかの方法で無毒化しているということ。
    解毒剤が存在しているということになるが、それもやや厳しい。

    万能中和剤が作用しない毒物に対しては、いかなる化学薬品も有効な解毒剤になり得ない。
    数年前にとある学者によって発表され、今や常識とすら化しているものだ。
    これが正しいことは、俺も自らの手で確かめた。

    つまり。
    赤福に入れられていた毒に解毒剤が存在するとすれば、それは天然より得る他ない。
    しかも、元の毒物が複雑な作用を導くようなものであれば、それの解毒剤に対しても同様の複雑さが求められ——それだけ、存在する確率も小さくなる。

    一般に、万能中和剤が効かない毒物に対して有効な解毒成分が発見される確率は、目をつぶったまま広辞苑で目当てのページを一発で開くことより、遥かに難しいとされている。
    いくら博士といえども、その確率を乗り越えることは難しい。

    「——こうして、わしはポケモンコンテストでピッピに扮して出場した結果、見事優勝したわけだが……。
     レッド、お前はわしの話を聞いているのか?」

    無論、その声には怒りの感情も疑問の感情もなく。
    レッドは何も言わずに博士を見つめていた。

    「はあ。
     これだから、お前というやつは……。
     お前がしろというから、今こうして、わし自身の物語を赤裸々に語ってやってるというのに」

    「もういい」
    「ほお、何故じゃ?
     知るのが怖くなったか?
     何も知らず、パパとママとの幸せな思い出に浸っていたくなったのか?
     ——なら、いい。わしは引き止めない」

    「……。
     怖くなった、か。
     ふん、笑わせる」
    「笑わせる、だと。
     それはどういう意味だ?」

    「文字通りの意味だ。
     ——この程度の事実に、俺が気づかないとでも思ったのか?
     そんなわけないだろう。
     あれだけヒントがあったのだ、俺の直感と併せれば真実にたどりつくのはもはや必然だ」

    レッドは勝ち誇った表情で。
    しかし、彼は同時に今のこの状況に恐怖しつつあるのも事実だ。

    「相手にわざと隙を突かせ、予断させた後に、壊滅的なダメージを与える」——このオーキドの戦法に、まんまと嵌められてしまったのではなかろうか。
    だが、レッドは直後に否定する。
    俺は適正な判断により博士の隙を見つけた。
    そしてこの程度の攻撃で俺が油断するわけがない、と。

    「今回は、始めからおかしかった。
     あの強烈な事実の連打がなかった。

     俺から判断能力を奪うどころか逆に、関係ない話をして俺に冷静さすら与えている。
     これでは、最後に飛んでくるはずの〈衝撃的な言葉〉がきちんと活かされず、俺の精神が壊れることも決してない」

    「なるほど、それでわしは耄碌したと言いたいんじゃな」
    「違う。
     お前は敢えてこうしたんだ。
     いや、こうせざるを得なかったんだ」


    続く
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    引用

    ポケモン秘話

    第三章
    第十二話


    レッドは、左手でわざマシン28を弄びながら

    「こうして時間稼ぎをするしかなかったんだ。
     そもそもお前の戦法は恐ろしい事実をいくつも用意することができて、初めて成立する。
     中に嘘を混入させることもあるようだが、そのためにも事実は必要だ。
     事実によって相手の正常な判断能力を失わせてようやく、嘘は真価を発揮する。
     相手は、その嘘が虚偽であると判断できなくなっているからだ」

    右手を強く机に叩きつけて

    「ところが、俺の場合はどうだろう。
     他の人間と違い、お前によってサカキが——社会的に——殺されて以来、人間社会と一切の関わりを持たずに生きてきた。

     そう、俺にはないのだ——日常を覆すような事実が多少はあれど、精神を崩壊させられるだけのものを用意できなかったのだ。
     それゆえお前は俺を倒すために、今までと違い——」

    赤福の空き箱を指差しながら

    「毒を盛る、という古典的な方法を取らざるを得なかった。
     しかし、さすがは博士といったところか——単なる毒ではない。

     万能中和剤が効かない代物だ。
     わざわざ万能中和剤を仕込んできたのに無駄になってしまった。
     いや、お前にとってこのくらいの対処は当然だったかな。

     むしろ言うべきは、もう一つの事実。
     お前は何らかの方法でこの毒に対する解毒剤を入手している。
     偶然見つけた、という可能性も否定できないが蓋然性を考慮するならば——お前自身に耐性があるのだとすべき。
     生まれつきなのか、自ら獲得したのかは分からないが、お前には耐性がある。
     だからこそお前は何ら躊躇することなくあの赤福を食べることができた。
     それを見て俺も油断してしまい——その結果、次第に毒が身体を冒しつつある。

     しかし、まだ毒が回りつつある段階に過ぎない。
     見ての通り多少支障はあるものの、お前を倒し——老人相手に暴力を振るうのは気が引けるが——お前の体液から解毒剤を作ることは十分可能だ。
     さあ、諦めろ」

    「なるほど。
     つまり、お前は結局誰の息子ということになるのだ」

    冷静な表情を極力崩さないようにしつつ。

    「ああ、そうか。
     そんなに言わせたいのか。
     ならいい。
     言ってやるよ。

     ——俺は。
     俺は、やはり。
     ……サカキの息子では、ない」

    「では、わしの息子だというのか?」

    「言っただろう。
     お前はもうネタ切れなのだと。
     もしそのネタがあるのなら、こんな手の込んだ工作をしてまで毒を飲ませる必要はない。
     そのネタの持つ威力を最大限に引き出せばよかったのだから。

     ——俺はサカキの息子でもなければ、お前の息子でもなく、ケイティの息子でもない。
     事実は至極単純だ。
     DNA鑑定の結果を見た時点でそう判断するべきだった」

    そういうとレッドは、オーキドのもとへと迫っていった。
    オーキドの襟首をつかみ

    「俺はやはり、お前らとはなんの関係もない赤の他人に過ぎなかったということだ。
     もちろん実の息子のように扱ってくれたサカキとケイティには感謝している。
     今さらあの二人を責めるつもりはない。

     だが、博士——お前は違う。
     真実をただ求める俺にくれたものはなんだった?
     毒だ。
     ただ、毒を与えただけだ。
     そんなお前に気を使う必要もあるまい。

     安心しろ、今は生かしておいてやる。
     近いうちに、止めをさしにやって来るが。
     今すぐ解毒剤を出せ。
     それとも、今すぐやられ——」

    それ以上レッドは言葉を続けることができなかった。

    「こ、これは——しびれごな?
     なるほど、さすが博士だ。
     あらかじめこんなものを仕込んでいたとは」

    体がしびれてしまい、地に伏すも、レッドはオーキドをにらみ続けていた。
    しかし、この瞬間——場の支配者が逆転した。

    「安心しろ、まひ状態はそんなに長続きしない。
     お前なら……そうだな、長くて二、三十分だろう。
     それまでの間——お前がまひで身動きのとれない間。
     お前の暇な時間を潰してやるために、少し話をしよう。

     フィナーレのための、準備を——」


    手に持ったままだったロケット団の帽子を、レッドの頭に被せつつ、オーキドは笑った。


    続く
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