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忍者クン No.12132008 2013年05月06日 00:00:55投稿
引用
「ただ咲いたから」
内臓みたいなきぼうを 目玉をぐりぐりまわしてみつけて?
「ただ 有ったから」
すくいの糸なんて 此の地獄に降りてこないから ◎らは“ソーツ”なんて 望んじゃいないから
僕は僕らしさを 見つめ にげた にげた 現実と 空想の果てに 強い意志をかんじ
凡庸な命を ころし
「 」
あなたが 円になって ガスのように そらへ舞って 春らしさを誇示するも
こころにとけこむ“ソーツ”に 依存していたとしても
いままでに どれだけ足掻いて どれだけ苦しんで どれだけおのれをころしてきたか
それらこそ 命の価値 だから
「 」
“ソーツ”に縋って あたたかい風に 母親 をかんじたって
誰もせめることを 赦してはならない だろう?
「 」
受話器のしおさい は 電車のおとに かきけされたようだ
あたらしい未来を棄て 旧い未来を 掬い取り のみほす
嗤ってようが 哭いてようが “ソーツ”は なにを目論もうが
ただのすくいでしか ないと思った
「ただ有ったから だから」
命をかろんじてないか? という 言葉に 寿命を …
息をしたい 息をしたい 息をしたい の 言葉に どうか 耳を傾けて …
それこそ ソーツ なのだから …
忍者クン No.12132078 2013年05月06日 14:08:00投稿
引用
【恥の多い生涯を送ってきました。】
僕はその言葉を左心房で嘲笑したのだ。
するとその嘲笑が体内を駆け巡り、生きる上での酸素が不足している僕を生かした。
嘲笑で漏れた息から僅かな酸素を吸収することによって命は紡がれたのだ。
自嘲を糧にするしかない僕は、今に飢えて死にそうだ。
夏めいていることに関して主張が激しい風景は、僕の背後で流れている。
少し横を見やってその景色を眺める。遮断桿を前におばあさんが立ち、僕が乗っている電車の通過を急く様子もなく待っている。
遠方には廃れた看板を掲げた建物がいくつか点在し、静かに熱く陽炎がその情景を揺らめかせている。
微弱な振動と“まさに鉄”な、ガダタン——ガタタン——という音とともに電車は懸命に僕らを運ぶ。
その感覚が妙に心地良く、睡眠を促される。
《次は——》
特有のねばっこい言い方で到着駅を知らせるアナウンスが放送された。
——このまま、深く深く落ちよう。そして、遠くの駅で目が覚めるんだ。
死後の世界の様な(勿論経験したことはないが)感覚に襲われる。
僕の想像上の死後の世界は、「心地良いが、心地悪い」という生理的嫌悪が漂う場所なのだが、
まさに今の感覚を形容するにはぴったりである。
——。
そして、ふっ。と意識が途切れ、パタリ。の音で意識は再生した。
カバーのかかっていない文庫本が僕の手からするりと落ちたのだ。
『人間失格』
いわずと知れた太宰の代表作のひとつだ。
主人公“大庭葉蔵”の道化と堕落の日々を描いた自伝的作品である。
多少の精神面の誇張とナルシストさはあるが、誰もが共感することができる素晴らしい小説だ。
僕はそれを拾い上げようとして、僕は人影に覆われて、その動作は停止した。
「はい、どうぞ」
その制服姿の彼女は僕の文庫本を手にし、差し出してくる。
「——ありがとう、ございます」
枯れた喉で発した声で僕は応答した。
異常事態。駄目だ。顔が熱くなってくる。
例の赤面恐怖症だ。電車の換気が心地良い。
こうなってしまっては【恥】の連鎖。
恥ずかしい自分が恥ずかしい自分が恥ずかしい自分が恥ずかしい自分が恥ずかしい——。
彼女の“目”を恐怖し、自然と俯くことすら出来ず、ぎこちなく頭を垂れる。
「ねえ、名前は?」
その声を聞いた直後、僕の全身は跳ねた。
「うわッ」
こともあろうか彼女は僕の顔を覗き込んでいたのである。
彼女の顔で視界が覆い尽くされ、こんな情けない声を上げてしまったのだ。
「ハハ、ごめんごめん……」
「饗庭……葉一……」
「はっ?」
「あえば、よういち」
「あっ、饗庭君っていうの。私、朝比奈空葉(アサヒナ ソラハ)!」
静かな電車内で空回りする彼女の声。
「歳はっ」
「13…です」
「私のほうがつまり年上か!なるほど」
「……」
「……?」
人との会話で生じる沈黙とは死にたさに直結する。
しかしこの状況は特例だ。僕と彼女の沈黙に相乗して周囲の人々の沈黙が僕を襲う。
射抜くような白い目を向け威圧している人もいれば、ただ唖然としている人もいる。
「な、なんでもありません!すいませんでした……」
彼女は馬鹿なのだろうか。
挙動は至って普通(だと思う)なのだが、どうも頭の螺子が外れている気がする。
まず、馴れ馴れしさが癪に障る。僕がふと落とした文庫本を拾い上げる迄は良い。
しかしそののちの、僕の顔を覗き込むなんていう非常識極まりない行動を、健常な人間がするだろうか。
疑いの眼差しで、やっと彼女の姿を視界にいれる。
異常者さながらの顔つきをしている訳でもなく、淡麗で清純そうな顔立ちをしている。
腰まで伸ばした黒く反射する髪は、普段、学校があるときは括っているのだろうか。
どう見たって校則違反の何物でもない。もしかして清純系不良少女か。
身長は僕より少し高く、威圧感があるように思えてきた。
きっとそうだ。非常識な行動は教養のなさが顕著にあらわれたからだ。
猜疑心よりかは確信に近い心で彼女をじっと見る。
「?」
やばい、殺気を悟られた。きっと僕は殺されてしまう。
心底不思議そうな表情で僕を見つめ返す、いや、睨み返す彼女に僕は恐怖した。
「なんか、ごめんね。私があんまり大きな声でしゃべるから」
「いえ……」
「……あの、さっきから一言ずつしかしゃべってないけど、気に障った?」
彼女は平常心を装って僕に怒りの目を向けている!
他人からは彼女はただ心配しているだけの人間に見えるかもしれない、だが僕は違う。
僕は彼女の心をいままでの会話からすべて読み取っている。
きっと彼女は「なんだこいつ、変な奴だな、リンチするぞ」ぐらいのことを思っているに違いない。
——恐る恐る尋ねてみよう。
「その、なんでそこまで僕に興味を、しめす…んですか?」
「んーっと——」
何かを思索している。瞼を閉ざしているため、何を考えているか読み取ることは難しい。
「特に意味はない、かな」
≪次は——≫
次の駅名を告げられたが僕の頭に入ることはない。今のこの状況をどう打破するかで精一杯だ。
電車が到着すると同時に逃げてやろうか。途中下車をして、走って逃げようか。
状況確認として周囲を見渡すと、数人の乗客たちはカバンに物を入れたりして降りる準備をしている。
数人とはいえ、数少ない乗客の大半は降りることになる。
——蛇足だが、新聞を読み耽る(毛根の死滅した)男性は微動だにしない。
あとどれくらいで着くか、窓の外を見ると、変わり映えのない景色がそこにはあった。
「あのさ」
うわ、話しかけてきた。あの男性ではなく彼女“ソラハ”が。
「私からも訊くけど……饗庭君?は何処で降りるの?」
僕はここで一大決心をした。——攻撃だ。
「こ、これだから嫌だ。ヒトは何かの目標に向かわないといけないって、決めつけてるんだ。
じゃあ目標も、生きるうえでの意味もないやつは、どうしたらいいんだ…?」
「?」
「……」
彼女の頭上にクエスチョンマークが見える。
僕は怒り心頭した口調で語ったあと、「しまった」と後悔した。
思い直すと攻撃するタイミング、あるいは言葉の対象を誤ったかもしれない。
——そしてなぜか僕は彼女に抱きしめられている。
彼女は幾つかの雫を僕の肩に零していた。
骨格が感じ取れる程の細い体躯から発せられた、今にも物が破損してしまいそうな不安が、僕の全身に溶け込む。
ただ華奢という訳ではなく、疲れ果てた結末、という病的な裏付けを想起させ、形容するなれば流木だろうか。
いや、そこまでガリガリな訳でもないが、“細い”という感覚がどうしても印象強いのだ。
「わたしも」
ふと彼女が口にした言葉によって、今まで静止した時間が崩壊し、再生し始めた。
「同じだよ」
今にも噎び泣くのではないかといった声。
「私には、記憶がないの。私の親が、誰なのか、どこで、産まれたのか。……私が、誰なのか。…分からないの」
僕の喉がゴコッと反応したのを彼女は察したかもしれない。
遂に彼女は、噎び泣きはじめた。嗚咽を一心に堪え、己の感情を抑圧している。
その慟哭する心は抑圧に抗い、膨張し、彼女の体を小刻みに揺すぶり始める。
震えは加速する。嗚咽を漏らし始めた。
僕はどうすることもできない。どうする、という考えすら浮かばない。虚空を見つめるしかなかった。
会って間もない年上の女性に、いきなり喧しく声をかけられ、何故か僕は抱きしめられて、抱きしめた女性は泣いている。
ただ唖然とするしかないじゃないか。恭しく慰めの言葉でもかけてあげるのが、人間というものだろうか。
いいや、そんなはずは無い。見知らぬ人間にこんな事をされるのは異常だ、おかしいのは彼女だ。
記憶がない?知るものか。たとえ僕の言葉が起爆剤となって彼女が噎び泣きを始めたとはいえ、僕に責任が有るはずがない。
勝手に受け取って勝手に泣き始めた、こういうことだ。
乗客は、僕と同等に、いやそれ以上に唖然とし、戸惑いの表情を隠せない様子だった。
違う、違うんだ——僕は被害者であって、自ずとイチャついている訳ではない——。
目で訴えるような技術すら持っていない僕は、ただだらんとした眼で、沢山の顔を見る。
苦笑いを浮かべる顔、絶句する顔、口を半開きにしている顔、見世物を見ているかのような顔、腹を立てる顔。目鼻立ちのはっきりした顔、間延びした顔、眉の濃い顔、ニキビ面の顔、頭の悪そうな顔。皮膚が燃え盛り黒煙をあげる顔。骨格が欠損した顔、水色の水玉模様の顔、中心に深く淀んだ闇をつくる顔、全ての顔のパーツが唇で構成される顔。左右非対称な黒と緑のツートンカラーの顔、無数にタバコが生えた顔、小説の活字を浮かべた顔、四肢が眼窩から飛び出る顔。アニメみたいに肥大した眼球が顔面の大半をしめ瞬きをするごとに凄まじい風の音がする顔。額に出来た穴に顔面が永久に吸い込まれ続け「痛い痛い」と泣き叫ぶものの口も度々吸い込まれ上手く聞き取れない顔。
僕は日常を見ている訳ではなかった。
見据えていたものは非日常。
顔の其々が極彩色を放つ視界が、僕の網膜を攻撃する。
それぞれの物質が、秩序無く、際限無く、関係性を唾棄しているかの様な世界。
僕は絶句していた。
「へっ……?」
彼女が僕の耳元で疑念の息を漏らした。なんだ、これ——。急速に変化する展開に頭が眩む。
頭上には吊り革が——いや、違う。首吊り縄だ。吊り革が首吊り縄へと変貌している。
赤黒、黄色、ピンク、水色、黒、緑——悪趣味な配色が、混ざり合い、畝っている。
この世のものではない程の、想像を絶する視覚からの不快感を受け、僕の理性は悲鳴をあげている。
僕らを乗せる電車は、平然と暗闇を驀進を続けていた。
忍者クン No.12133497 2013年05月09日 18:35:33投稿
引用
——いや、訂正しよう。そうでない場合の方が非現実的だ。
この異常な様相を、もしも精神異常が原因で無ければ、つまり現実となる。僕の心が起因していない、全くの現実となる。それこそ非現実的ではないだろうか。地球上の物体は、何らかの大きな変貌を遂げている。田舎の夏らしい電車内の情景が、一瞬にして、絵具を全部ぶちまけたかの様な情景へと変貌してしまったのだ。バケツいっぱいに入れた水に、多量の絵具を溶かし、それを乱暴にキャンバスにぶっかける様に“塗り替えられた”のだ。
「あのさ、饗庭君……?」
「……はい」
「どう、なってるんだろうね」
「さあ」と乾いた声で返す。それ以外に言葉が見つからない。此方が訊きたい、と心の中で呟く——ほど、女性との会話に余裕を持てない。
「あ、あのさ!」
明るい声で切り出す彼女だが、動揺は隠し切れておらず、声が微かながら震えている。
「これって、夢なのかな?私は、実は電車の中で眠ってて——つまり、そう、私は悪夢をみてる、とか」
「……いや、僕は、ここにいます」
「あ、ああ。うん、確かにね。でもさ、それは夢の中の住人ってみんな“意識がある”体(てい)だよ?」
「抓ってみたらどうですか……」
「つねる?ああ、例の」
彼女は自らの頬を抓り、大袈裟に「いたい!」と叫んだ。勢いに任せて力み過ぎた様だった。
「いたい、いたかったよ」
「でしょうね」
「饗庭君もつねってみなよ、もしかすると君が夢をみてるのかも」
そう言われたので、僕は渋々と軽く自分の頬をつまむ。感覚はある。
「痛いですよ」
「痛くは、ないよね…」
微笑交じりの困惑の表情を浮かべる彼女は、見る人にとっては一目惚れものかもしれない。しかし、僕なんて恋をする権限すら与えられていない人間だから、もとよりそんな感情は芽生えない。——という恰好の良い理由ではなく、ただ単に自信が無いだけである。自信というものが毛ほども無いので、恋心というのは小学生以来、消失しているのだ。
目を逸らすのも兼ね、僕は外を眺める。通り過ぎてゆく景色は、相変わらず気味の悪い色彩と造形の連なりだ。目を細める程に日光(かどうかは分からない。ただ上の方から差す光をそう呼んでみただけで、もしかすると人工的な光かもしれない)が、浮遊する球状の鉄塊に乱反射したかと思えば、その先には深い闇が広がっている。その深い闇の中から、電信柱に肉が張り付いたかの様なオブジェクトが乱立している。肉らしきものは、まるで虫の様に、円柱を奇怪に這いずり回っていた。凝視すると吐き気を催しかねないので、他方を見やる。緑色の綿埃が跳ね動く場所。張し、消失したかと思えば、あらぬ場所にて木々を伐採する、ひとりでに動く刃物。——それ以上に、恐ろしいものが近くにはある。
奇形の頭をした無数の人間が、直立不動で未だに、立っているのだ。
「——ねえねえ、饗庭君」
コソコソと小声で彼女、ソラハは僕を呼びかけた。
「あのひとたちって——その、怖いね」
「丁度、思ってた——思ってました」
僕も小声で応答した。
「いやいや、タメ口でも良いんだよ。でも、ほんっとなんなんだろ。饗庭君、触ってみる?」
「なんでですか…どうして」
「だって気になるじゃん!さっきから全く動かないんだよ?いったい何がしたいの?って感じじゃん。それにほら、あの中に女性も居るし。触り放題だよ、ほれほれ〜」
「……」
「……ごめんなさい」
あんなに奇妙な造形の頭を生やしてたら女性も糞もないだろ。そもそも、ソラハの指差した女性の頭は、眼球である。頭が眼球なのである。某妖怪漫画の某親父の様に、頭サイズの眼球が頭なのである。某妖怪漫画の某親父は、あの頭身だから可愛いのであって、あの女性の様にリアルな人間の頭身だとただただ不気味だ。可愛い、不気味の以前に、実際に某妖怪漫画の某親父を現実世界で見ると多分グロいだろう。つまりあの女性もグロいのである。
「もういい、私触るね!」
「えっ?」
ソラハは声を張って宣言するや否や、風船顔(もちろん、顔そのものが風船)の男に歩み寄った。タッ、タッ、タッ、と歩を進める。まずい。僕はそう思った。何故かは分からない、分からないが、不吉な予感がした。僕は固唾を飲んでソラハを見張る。ソラハは此方を振り返った。
「さ、触るよ」
ゆっくりと、ソラハの手が、男の肩に触れ——。
男の顔は破裂した。
「ぎゃっ」と声を上げてソラハは尻餅をつく。僕も尻餅をついていた。そして僕は異常に気付く。
「あ、あれ……!」
恐る恐るその有様を指差した。ソラハも気付いている様だった。
男の首から、闇が龍の様に飛び出している、それを震える僕の指先が指し示している、闇とはなんだ。首から黒い靄、違う、黒だけじゃない、他の煌びやかな色も靄の中で反射している。くねりながら龍は勢いよく電車の壁にぶち当たり四散する、色は水に溶け込むように広がる。
「に、逃げろ」と僕は咄嗟に叫んでいた。砕けた腰のまま僕らはそれらから、意味の解らないまま逃げる。逃げ場などない、それは解っている。逸れる道すらない、なぜなら電車の中だからだ、そんなことはどうだっていい、ただ逃げる、龍から一心不乱に逃げる。龍は追ってきている。壁にぶち当たるときに大きな音が鳴るためそれは把握していた。
車両間のスライド式ドアに勢いよく手を伸ばす。そして開ける——。
「があああああああッ!」
鮮烈な痛みが僕の背中を襲った。一体何が——と首を一生懸命に捻らせ、背中の方を振り返ると——龍が、僕の背中から、体内に、入り込んでいた。ウネウネとバタバタと、捻じ込むように。
「饗庭君!」
暗転していく意識の中、その間際に、彼女の声が聞こえた。
————「 」————「 」————————————。
忍者クン No.12136620 2013年05月18日 15:45:34投稿
引用
忍者クン No.12137047 2013年05月19日 16:47:20投稿
引用
眼前には朝比奈空葉の顔があった。彼女は僕の顔を見下ろしていた。
「大丈夫!? 汗、すごかったよ」
確かに半袖の至る所が濡れていて冷たい。特に背中がグショ濡れだ。髪の毛は濡れていない所からすると、彼女が拭いてくれたのだろうか。いや、まさか。
「背中、大丈夫…?」
「あ……」
そうだ。僕は得体の知れない龍が背中に突入されたのだった。しかし痛みは無い。恐らくそういった直接的な痛みは伴わず、発汗などに影響が出たのだろう。
「大丈夫です」と言って体を起こし、あぐらをかく。
「だから敬語じゃなくていいよ」
「大丈夫……」
「そう、良かったよかったー」
彼女の顔が晴れた。会って間もないのに意味が解らない。気に掛ける理由が無いはずだ。すると彼女が目を大きく開けた。
「そうそう、私のことソラハって呼んで良いからね? 良いんだけど、饗庭君のことはなんて呼ぼっか。えー、下の名前なんだっけ?」
「葉一」
「あっ葉一君か。まあ普通に葉一君なんて呼ぶのもあれだし、うーん、そうだなあ……」
彼女、ソラハは“考える人”を演じている。
「ヨウ…イチ……ヨウくん……イチくん…」
イチ君はいくらなんでもおかしいだろ。
「……決めた! 今日から君はウイくんだ!」
「へ?」
「ウイくんだよ、ウイくん。“よ・ウイ・ち”で、ウイくん」
「幾らなんでも捻りすぎじゃあ……」
「良いんだよ、んなの。じゃあ私のことなんて呼んでくれる?」
うーん、厚かましいぞこの人!いっそ“厚かましい人”というあだ名で良いんじゃなかろうか。いや、そんな事を言えば失礼だ。僕は黙り込むが、やはりこういうのはすぐに思いつくものでは無い。ギブアップだ。
「ソラハ、さん? かなあ」
「味気ない!!」
「す、すいません」
「あ、謝らなくてもいいんだよ! ごめん。でももっとこう、オシャレなあだ名が良いなぁ。例えば……“ラハちゃん”とか」
いや、ナニジンだよ。インドあたりの少女で居そうだな。
「でも私的にもさすがに“ラハちゃん”は無いかなぁ。じゃあベタベタだけど“ソラちゃん”なら良いでしょ? ね?」
「い、いや…」
「えー、駄目かな? 良いからさ、呼んでみてよ。ほらほら」
そう言って彼女は僕に詰め寄る。やめろ、僕に近付くんじゃない。顔が赤くなるじゃないか、やめろ——。
なった。
「ハッ!? もしかしてウ…ウイくんってシャイなタイプ?」
「……」
僕は体ごと彼女からそっぽを向く。顔を見られたくない。
「ご、ごめん。ちょっと調子に乗ったと自分でも思います……はい」
「……」
僕自身、何を話せば良いのか分からないので押し黙ってしまった。ヘンテコな電車の中に静寂が訪れた。
そもそもこんな調子はずれな会話をするべきではなかったのだ。この異常事態について神妙な面持ちで論ずるべきなのだ。間違っても互いのあだ名を決めるような場合じゃない。
仕方がないので僕がそれを切り出すことにした。勇気を振り絞る。
「あっ、あのさ」
「うん!? なになに」
会話が欲しかったと見えるソラちゃんもといソラハが食いついてくる。だから近付いてほしくないんだって。
と、ここで僕自身に異常事態が発生した。何を“神妙な面持ちで”論じれば良いんだ?
「……」
「ん……?」
ソラハが心底不思議そうな顔をしているではないか。やばい。これはやばい。すると——。
「ちょっとウイくん! ウイくんのポケット光ってるよ!?」
いや分かってる、そんなことはどうでもいい、何を喋るか、それが今は大事で——え?
視線を落とすと僕の半ズボンの右ポケットが奇怪に点滅している。オーソドックスな色の光がちらついている。携帯なんて持って来たっけ?いいや、そもそも僕は携帯電話なんて持っていない。つまりスマートフォンも以ての外なのだ。恐る恐る右手をゆっくりと右ポケットに突っ込む。するとポケットの底に小さい何かが入っていることに気が付く。それをつまんで取り出す。
「なにそれ?」
「さあ」
精いっぱい「さあ」の声を出してみたが本当に「さあ」としか言いようがなかった。虹色、いやそれ以上の色彩を持った綺麗な色をしている。こんなモノ、見る機会なんて普遍的な生活の中で生きる人間にとって無い筈なのに、何故か既視感を感じた。
「薬……かな?」
確かに大きさは錠剤と同じくらいだが、流石に発光する錠剤なんて無いだろう。
「貸してっ」とその謎の物体をソラハがひったくった。
「うーん、よくわかんないけど綺麗だねー。ちょっと眩しいけど」
ソラハは目を細めつつも錠剤と思しき物体を左の掌に乗せ凝視している。そして突如「ひやっ!」と声をあげた。
「ど、どうしたの」
「これ…溶けてる……」
溶ける?
ソラハと体が触れない程度に覗き込むと、確かに“それ”は掌の上で溶けていた。溶ける様なモノだったのか。
右の手でソラハはそれを掴もうとする。しかし何故か“それ”はソラハの掌に付着して取れない。
「えっ!? なんで!?」
酷く動揺したソラハはブンブンと右手を振り始めた。その右手の指が僕の頬をひっかきそうになり、僕は咄嗟に仰け反る。そしてまたも掌を見ると——。
「くっついてる……」
僕は思わず声を漏らした。あれほど激しく振ったのに、何故……。
「ちょっとー! 気持ち悪いよー!」
悲痛な叫びをソラハがあげているが、どうしようもない。
突如、頭上で物音がした。
僕らは硬直した。
音の正体は恐らくスピーカーからで、マイクが起動したときに拾う音だろう。「ガチャッ」というノイズだ。本来ならばさして驚かないが、この状況下においては心臓が飛び出るほど恐ろしい。一体なんだ? 何かが放送されるのか? 誰が? 何のために?
『おはようございます。こんにちは。こんばんは。そして、はじめまして。ようこそ。』
その声はとても奇怪で、悪寒が走るほどの不気味さを感じた。