お店や施設の住人のお話　〇フータ１〇

〇フータ〇
エピソード１「マスターはおひとよし」

【１話】
フゥ……
ここの喫茶のマスターとは思えば妙な付き合いになるんですけど、
マスターってば、人を疑うコトを知らないというか、
なんというか…その…ジュンボクな方でしてね
エエ…こないだなんかですよ？
あきらかにサギ師っぽいキツネの商売人に、
ニセの絵画を売り付けられる寸前だったんです、ハイ!
「ほんまもんのコーヒー味わいながら眺める、ほんまもんの芸術品」
…なーんて騙し文句に引っかかりそうなところを、
わたくしが運良く見つけましてね…
エエ、思いっきりニセモノだって叫んでやりましたとも!


【２話】
ハァ……
いえ、ちょっと疲れが溜まってるみたいで…
考えてみればここは昼も夜もオープン２４時間…
要するにわたくし、働きっぱなしなのでございますです、ハイ
もちろん仕事ですから疲れただの休みたいだの言っちゃいられません、ハイ
それにわたくしだってみなさんが帰った後は、
地下の喫茶で、コーヒーを啜りつつ休憩してますですよ、ハイ
あー…
こんな話してたら無性にコーヒー、飲みたくなってきちゃいました!
店に足を踏み入れるとプーンと漂ってくるあのビターな香り…
く〜っ!
もうたまりませんです、ホホー!


【３話】
ムー……
いえ、最近ちょっと眠れなくて…
コーヒーの飲みすぎでしょうか？
確かにコーヒーに入っているカフェインにはですね、
神経を興奮させる作用がありますです、ハイ
しかしですね、わたくしの場合特別なブレンドを頼んでいますから!
…「ピジョンミルク」ですよ
あれはカフェインとは逆に、神経をリラックスさせるんです、ハイ
要するにプラスマイナスゼロ、というコトになりますね!
ん？
というコトは…
もしかして飲んでも飲まなくても同じというコトでしょうか？
はて？
わたくしは一体何のためにアレを飲んでいるのでしょうか？？


【４話】
ハァ……
いえ、ちょっとマスターと出会った時のコトを思い出していたんです…
マスターと出会ったのはですね、ここから遠く離れたわたくしの故郷でして…
ビルの犇めく都会の片隅で、
今と同じように喫茶店を営んでおりましたです、ハイ
それでは、出会ったきっかけでもお話しましょうか…
その頃のわたくしはまだ大学に通っていた青二才でございました
ちょっと期限までにちょっとした論文を書き上げねばならず、
町中の喫茶店をハシゴしては執筆していたのですが、
なかなか書き上げるコトができずイライライライラしていたワケです、ハイ
そんな時ですね…かけこんだ喫茶の店長に言われたんですね
「焦っていれたコーヒーは…味気ないだけですから」
たった一言ぶっきらぼうに言われただけですけど、
わたくしは目が覚める思いでしたね
コーヒーは早くいれればイイってモノじゃない
じっくり時間をかけて蒸らすからこそ、深いコクと味が出る…
論文も同じだ、と諭してくれたように思うワケです、ハイ
あ…エエ、そうです その店の主人がマスターだったワケなんです、ハイ
それ以来ですよ、彼とわたくしの長い付き合いが始まったのは


【５話】
ハー……
いえ、ちょっと昔のコトを思い出していたんです
今でこそ、ここでお店を繁盛させているマスターですけど、
わたくしの故郷にいたころは、イロイロとあったそうでして…
なにぶんこの村と比べると少しばかり都会だったものですから、
土地代は高いわ税金も高いわで、
マスターもずいぶんお金の遣り繰りに困っていたみたいなんです


【６話】
ホホー……
いえ…ちょっとマスターの昔のコトを思い出していたんです、ハイ
今だから言える話ですけどあの人もいろいろと苦労されたんですよね
今も昔もマスターの店はコーヒーだけを扱う専門店ですからね…
最近、そういう昔ながらの喫茶店にはなかなかお客様が…
とりわけ都会の若い人は、来てくれないそうじゃありませんか？
収入もはかばかしくなく赤字に悩まされたマスターは、
お店を畳むか畳まないかで随分迷ったそうなんですよね…
そんなマスターのコトを風のウワサで聞き付けたわたくしはですね、
いてもたってもいられなくて、マスターにお手紙を出したんです
博物館の一室を無料で貸し出すから、
△△村に来て新しい店を始めてみないかって!
…結果は見ればお分かりでしょう？
大成功ですよ、ホホー!
都会ではありふれた飲み物のコーヒーも、
△△村では意外と珍しい飲み物のようでありまして…
村のいろんな人達にコーヒーのスバラシサを広めるため、
マスターは昔以上にやる気マンマンで働いていますです、ハイ!