今までと割りと大きく方向性を変えてみました。今回も神話ネタが入っているのですが、一部の神は元と大きく設定が変わっているのもいます。
それと、グロ描写も結構入っているので、苦手な方はお引取り願いますm(__)m
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ハコキング No.11744213 2012年03月27日 15:17:51投稿
引用
"13人の子供"は、大きな力を持った神々によって、外宇宙へと封印された白痴の魔王"アザトース"の力を分散させる為に、生み出された子供たちのことである。しかし、彼らは人間の間に生まれた子供にアザトースの力を受け継がせた存在なので、人の形をしているし、性格も変わり者だらけだが、人間性がある者が多い。
他の人間と決定的に違う部分はただ一つ、彼らは永遠の子供であり、寿命持たざるものであるということ。——即ち、それは不老である。
偉大なる王子"ティール"は、勇気と不屈の心でいかなる脅威にも立ち向かい——、
清き吟遊詩人"ヴィーナス"は、透き通るように美しい歌声と美貌を持ち——、
博識なる公爵"オーディン"は、有限の世を自由に生きる人々に惹かれ——、
誘惑の悪女"リリス"は、その過去から幸せへと嫉妬し——、
大いなる僧侶"アトラス"は、太古の強大な種族により育てられ、神々へ強く反逆し——、
血塗れた処刑人"ベリアル"は、ただ一瞬で命を奪う処刑だけを生きがいにし——、
美しき騎士"クー・フーリン"は、忠誠と友情を重んじ——、
冷たい墓守"アヌビス"は、人々の魂を死霊術師から守り——、
穢れ聖女"シュブ=ニグラス"は、その優しい性格で神々に見放された者すら受け入れ——、
黒き令嬢"フォルトゥナ"は、子供らしく無邪気に人々を弄び——、
切り裂きの狩人"セト"は、猟奇的に生きる者の命を奪い——、
孤独の放浪者"スサノオ"は、変わり続ける世界をただ独りで旅し——、
そして——、永劫の魔女"ウロボロス"は、魔王から最初に生まれし人間である——。
特に、
長女"ウロボロス"、長男"スサノオ"、次女"シュブ=ニグラス"、次男"ベリアル"、三男"オーディン"
以上の年齢順に並べた際に一番上に来る五人は、その余りの強さから"人神"として扱われている。
が、それ以外の年齢順に関しては明らかになっていない。
カリティア帝国初期には、外宇宙への封印を免れたアザトースの副官である使者“ナイアルラトホテップ”が、再び世界を混沌に戻すために彼らを利用したが、スサノオによって、それは免れた——。
ハコキング No.11746825 2012年03月28日 15:03:13投稿
引用
誰も近づかぬ、黒い森の深く——。
黒いローブとフードを深く被った褐色肌の美女は瞳を鋭く輝かせながら、周りを警戒して歩いている。生い茂る草木の中を殆ど足音を立てずに歩く様子には気味の悪さすら覚える。しかし、彼女にはここで用心するに越した理由があった。
それは彼女の職業からである——。
褐色肌の美女は血で描かれた枯れ木の紋章が塗られた岩壁の前で立ち止まった。そこで、彼女は右手に着けていた手袋を外し、その手の甲を紋章に対して向ける。
——そう、彼女の手の甲にも同じ紋章が書かれてあるのだ。
すると、紋章が描かれた岩壁は魔法のように消えてなくなり、その先には洞窟の入口が見えた。
彼女が洞窟の中に入ると、消えた筈の岩壁がまた現れる。要するに、ここは関わりのある者以外は入ってはいけないし知ってはいけない洞窟なのだ。
「戻ったか。娘よ」
初老の男が洞窟の先にあるテーブルから美女に貫禄のある声で言い放った。テーブルの上に置いてあったロウソクが彼の顔を奇妙に照らす。
「お父様」
褐色肌の美女は表情を何一つ変えずに、呟く様に返事をした。その後、彼女はようやく被っていたフードを外す。黒い長髪が姿を表した時、彼女は手馴れた手つきで後ろ髪を結び、それを右肩に下げた。
「こっちに来るのだ。娘よ」
男がそう言うと、美女はゆっくりとまた歩き出し、男と向かいあってテーブルに座った。
「今回は少し重要な話があるが——、その前に報酬の話をしよう。約束された金はもらったか?」
「いえ——、それ以上です」
ローブの中から大量の金貨を入れた袋をテーブルの上に置いた。
「素晴らしい。この量だとボーナスまで手に入れたようだな。
……ふむ、ざっと1500ゴールドというところか?いいだろう。1000ゴールドはお前が使えばいい。貴族を相手にするのは少し大変だっただろうからな」
「ありがとうございます」
褐色肌の美女は深々と頭を下げた。
「さて、ここからがその大切な話だ——。娘よ、お前は白痴の王"アザトース"を封印するのに立ち上がった神々の名をどこまで言える?」
「イザナギ、ヴィシュヌとシヴァ、スルト、ゼウス、メタトロン——、ここまでです」
「ここまで言えれば十分だな。
それで、だ。この国の侯爵からとんでもない依頼が来た。いや、馬鹿げた依頼と言ったほうがいいな?手を動かさなくても、口を動かして上手に屁理屈を言えば大金を貰えるかもしれん」
「どういう事でしょうか?」
「もちろん、報酬はお前が持ってきたゴールドと比べても莫大なものであるし、依頼人との確認の手段も真っ当なものだ。どうやって、我々と"スキューゼの盗賊たち"が互いに友好関係であるということを掴んだかは知らないがな。
……だが、これは何だ?」
——ゼウスを殺せ、とは。
——◇——
“中央大陸“を支配する国——"カリティア帝国"
帝国は今、北の果てにある”共和国”と戦争状態になっているが、それでも尚、世界の中では最も大きな力を持っている。また、世界で最も領土を持った国であり、主に5つの地方に分かれていた。
一つは帝国の中心であり、皇帝の住む城がある”中央地方”。
一つは広大な森があり、エルフ等の妖精族がたくさん住んでいる”西部地方”。”エルフ地方”とも言う。
一つは中央地方と並ぶ経済力があり、そして芸術的な街並みが多いのが特徴の”東部地方”。
一つは最も広大な地方であり、一面が砂漠だらけだが優れた古代の技術が眠っている”南部地方”
そして最後に、涼しい気候と山地が特徴の、強い戦士が多い”北部地方”。
その北部地方の東の果てには"ウルローゼ"と呼ばれる海に接した小さな村があった。
太古のウルローゼには、東の海からやってきた邪悪なる蛇"ヤマタノオロチ"に生贄の少女を捧げる習慣があったが、同じく東の海からやってきた旅人であるスサノオ神によって退治された。
それから、ウルローゼの外れの草原にある祠の中にスサノオ神の祭壇が祀られており、そこで若い少女が村の強い青年の男性を連れて、その青年に自分を守る力を与えるように祈る儀式が行われるようになった。
——今日もその儀式が行われる日である。
「大丈夫か?カミラ」
元気いっぱいに走り続けて疲れ果ててしまった銀髪の三つ編みおさげの少女を、大剣を背負った大柄の青年が呆れた様子で見下げていた。
「だ、大丈夫——、じゃないですね……、これは……」
途切れ途切れに言葉を出す少女に、青年は遂にため息をついた。
青年の名は"ノルディス"と言う。生まれも育ちもウルローゼのみであり、明るくて礼儀の正しい少女である"カミラ"とは2つ歳が違う幼馴染である。
ノルディスは口がよく動くカミラとは対照的に、あまり口を動かさない無愛想な印象を出す人物である。しかし、カミラと同じく根は優しいものであり、面倒な事を嫌がる割には最後までそれをやり遂げたりしていた。
この二人は儀式を受けるために、広い草原の中を歩いてウルローゼから少し離れたところにあるスサノオの祭壇へと向かっているのだが、ノルディスと行く事になって、いつも以上に元気になってしまったカミラにいつも以上に手を焼いてしまっている。
「ほら、もうすぐ着くぞ」
そう言いながら、ノルディスはカミラの両肩を回して後ろを振り向かせ、一面の緑の中でぽつんとある小さな祠を指さした。
すると、すぐさま彼女はまた走りだしてしまった。
「……やれやれ、面倒くせぇ」
ノルディスも彼女の後を追って、嫌々と走りだした。
カミラに追いつき、祠にもついたアルディスは、入り口に掛けてあった燃えていない松明の近くに立つと、持っていたカバンの中から取り出した発火用の石と金属板を何回か松明のそばで強く打ち付け、松明に火を付けた。彼は松明を手に取りながら、息を荒くして座り込んでいるカミラに視線を向けた。
「無意味に限界を超えた気分はどうだ?」
「楽しかった——です……」
苦し紛れに答える彼女にノルディスは「そうか」と答えたが、彼は彼女の疲れが収まるまで少し待っていた。
そして、彼女の息遣いが少し元に戻る——
「ほら、やるぞ。お前が一番楽しみにしていた儀式だ。走り過ぎで言葉の内容を忘れたりはしてねぇだろうな」
「忘れるわけ無いじゃないですか!ノルディスさんにこれからも遊んで貰うために、頑張って覚えましたもん」
「これ、そんな儀式じゃねーけどな」
ノルディスは祠の奥にある祭壇まで近づき、手に持っていた松明で祭壇にあるロウソクの全てに火をつけた。
「……俺もいつかは、旅に出たいもんだな」
ノルディスはボロ布を体にまとって歩いている姿で彫られているスサノオ像を見つめてつぶやいた。
「その時は私も一緒ですね!」
「まぁ、危険にならない程度に連れてってやるよ。お前はいつも何するか分からねぇから、危ない時だけはせめて世話を焼かせないでくれよな」
スサノオとはウルローゼの英雄であると同時に、"旅"や"孤独"を司る神でもある。伝承によれば、彼は目の前に見えるスサノオ像と同じように、ボロ布を体に纏い、ただひたすら独りで旅をしているだけなのだが、孤独の中で強く生きる人に力を与えたり、その人にとっての最高の愛人と出会う手助けをしたりする等と、孤独を司る神なのにも関わらず、孤独の悲しみから逃れさせようとする行動が多い。
彼は武器を持たず、小悪党等に対してはその拳しか武器にしなかったが、怒らせてしまうと、人も、天も、地も、思い通りにできる程の強大な力を使ってしまう、恐ろしい力の持ち主でもある。
儀式を開始するために、ノルディスは松明を近くの松明掛けに置いた後、スサノオ像のすぐ前の床に描かれてある大剣の紋章の後ろに座った。
それを見たカミラは足早に紋章の上に、スサノオ像と向き合って立った。
「じゃあ——、」
「カミラ」
ノルディスが呼び止めたので、彼女は驚いた表情で彼の方を振り向いた。
「これからも俺はお前の傍に居るからな。例え、どんな時でも、何が来ても、お前をずっと守ってやる」
「——嬉しすぎて、儀式の言葉を忘れちゃいそうです〜」
「面倒はかけないでくれよ?」
ノルディスは優しい表情から真顔に戻った。
「はーい……」
カミラは再びスサノオ像の方へ向いた。
そして、遂に儀式を始める——。
「旅の神スサノオよ。
私はこれからも長い旅路を歩み続けるだろう。
しかし、その道は未だに霧に包まれ、先が見えない。
いつかは蛇が霧の中から襲いかかってくるであろう。
よって、私はあなたの力を求む。
我らがウルローゼの英雄スサノオよ。
私の旅の連れ人に、霧の中の蛇を打ち倒す力を与えたまえ!」
カミラはこれまでの言動からは想像できないほど真剣な声で唱え、それを終えた——。
「……女、名を名乗れ」
「え……?」
彼女の銀色のお下げを揺らす風とともにスサノオ像から声が聞こえた。
その声は若々しかったが、それにも関わらず、威厳が感じられた。
「……聞こえないか?もう一度言う。名を名乗れ」
「カ、カミラ——、ウルローゼの子でございます……」
「……いいか、よく聞け。どちらもだ。
これからの道は貴様らの想像よりも遥かに険しい。——恐らく、俺が想像しているよりかもしれない。
このままだと、間違いなく貴様らは絶望の道を辿ることになる。
だから、帝国の皇帝の城にいる俺の弟に会うんだ。
だが、その前に北部地方の王を何としてでも連れて行け。それが絶対条件だ。
そうすれば、弟が——博識なる公爵"オーディン"が貴様らを助けてくれるだろう。
……今、言えるのはここまでだ」
——頼む、従ってくれ……
——声は聞こえなくなった。
「……スサノオ?」
ノルディスが唖然として呟いた。
ハコキング No.11746853 2012年03月28日 15:39:38投稿
引用
「——それが、スサノオ像から聞こえた言葉です」
儀式の後、ノルディスはすぐにカミラを連れて村に戻り、村長に彼の家の中でスサノオ像から聞こえた言葉を話した。
「まず、君たち二人を襲うであろう危険については心当たりはあるかね?」
「いえ——、俺は誰の恨みを買った覚えもありませんし、こんな性格でありながらも、なるべく誰とでも仲良くしようとしていきました」
「私もです!」
カミラは威勢よく手を挙げて答えた。
「では、確かにその声はハッキリ、”13人の子供”の三男にして、"知恵"と"進歩"を司る神である"オーディン"の名を口にしたのかね?」
「はい、確かスサノオ神とオーディン神って兄弟なんですよね?」
「その通り。それでもし"公爵の噂"が本当なら、その声はまさにスサノオ神からの信託だと思っていいだろう」
「公爵の噂?」
「カリティア帝国の”魔力機兵”については知っているだろう?魔力の消費効率を強化すれば、”共和国”を降伏させることが可能なほど強力と言われている兵器だ。
それの開発には"オルダイン"という公爵が関わっているのだが、彼が”オーディン”ではないのかという噂が流れた。理由は、”魔力機兵”がとても未来的な兵器であるから、それともう一つ、彼の部下が酔った勢いで彼の”見た目の年齢”を言ってしまったからだ」
「見た目の年齢?」
「そうだ。その見た目の年齢が18歳程度らしい。だが、2つの証拠品がその2つの根拠をどちらも否定してしまった。
一つはオルダインの父親が書いた家系図だ。それはしっかりとオルダインが二十歳の時に当主になって、それから3年しか経っていないということが証明されておる。
もう一つは、魔力機兵の動力源と似ているものだ。古代の東部地方地方から発見された。オルダインはそれを参考にして、魔力機兵を作ったらしい。
しかし、それでもまだオルダインがオーディンだということの完全な否定にはなっておらんからな……。もしかしたら——、その噂は本当かもしれんな……」
「えっ、でも、村長様。それじゃあ、何で地方王様をオーディン神の所まで連れていかなきゃダメなんですか?」
「それは神のみぞ知るところだ。だが、無謀の勇者として知られている地方王を説得するのは簡単であろう。問題は、過保護な性格として知られている執政だな。
帝都までの道の中で暗殺者に襲われても大丈夫なように実力を示さなければいけないかもしれんが、我が村の中でも一番の戦士であるノルディス君ならば大丈夫だろう。」
「ありがとうございます。村長」
「最後に、スサノオ神は人神でありながら、神々の中で上位の実力を持っておる。君たちは、そんな神がわざわざ直接話しかけに行き、警告するほどの危機に迫られいるのだ。
だから、行くならば早めに——、明日がいいだろう。その日は丁度、私の息子が馬車に乗って交易品を"フェイヴァリス"まで届ける予定があるから、私の方から乗せてもらえるよう言っておくよ。
だが、あんまりにも突然だが大丈夫かな?暫くはここに戻って来れないのかもしれないぞ」
暫く沈黙が流れる——。が、ノルディスは立ち上がった。
「村長、少し時間をください」
「いいが——、何処に行くつもりかね?」
「自分を見つめ直せる場所に」
そう言って、ノルディスは部屋から出ていった。
——◇——
ノルディスはスサノオの祠まで戻り、その入口の近くに立ってじっくりと立ち止まっていた。
「俺とカミラに危機が近づいている——か」
カミラとは妹の様な関係だった。確かにあいつは体力がないのに、口も体もよく動かすし、それで空振りして俺に迷惑かけてばかりいる。物心がついた時から分かったが、あいつは俺に構って欲しかったんだろう。
そして、俺に守って欲しかったからでもある。あいつは昔から怖がりで、その中で明るく振る舞いたい性格だったから。今でもそれはブレていない。
そう考えた時、俺は何だか嬉しい気持ちになった。元衛兵だった父の様に強くなりたいと思い、ずっと大剣を振っていた俺を認めてくれたからだ。
……ノルディスは後ろから、草が動く音を聞いた。彼はすぐに振り向く前に目を閉じて、その音をよく観察する——。
草むらを這う音、すする様な鳴き声、そして殺気……
後ろから蛇が飛びかかっていると同時に、ノルディスは後ろに背負っていた大剣の柄を片手で強く握り、素早く鞘から抜く!そこから間も置かずに、大剣を力強く振り回し、飛びかかる蛇の頭に向かって振りおろした!
決心した。俺はこれからカミラの為に体験を振るい、この時の様に危機を跳ね除けてみせる——!
「ノルディスさーん!私、もう決め——」
返り血を顔に浴びたノルディスと、赤い血に染まった大剣、そしてその細い体を真っ二つに切られて死んでいる大蛇——、カミラはそれを見て固まっている。
「カミラ——、俺はどうやらお前のために大剣を振るって殺しをすることしか能が無いらしい。それでも、お前は俺に付いて来てくれるか?」
「——当たり前です!ノルディスさんは残酷じゃない!優しいし、私にどんな事があっても守ってくれる!そう信じてます!」
「じゃあ約束をしよう。今、ここを見守っているスサノオに掛けて、お前にどんな事があっても全力で守ってみせるってな——」
草原の中に立つノルディスとカミラを、スサノオ像は見守っていた。
ハコキング No.11747989 2012年03月28日 23:47:53投稿
引用
北部地方の西にある大きな繁華街——"スキューゼ"
そこには常に酒と賭けがあり、平民層・富裕層限らず、娯楽のためにここを訪れる者は多い。
しかし、そこにはカリティア帝国の殆どの裏社会を牛耳っている盗賊組織の本拠地があり、その盗賊組織は世間には"スキューゼの盗賊たち"と呼ばれている。
本部自体は構成員が10人程度しかいない小さい組織であるが、その一人一人がそれぞれ、侵入・密売・解錠・詐欺・誘拐などに精通した者であり、主に重要顧客からの依頼や、難易度の高い仕事をする場合が多い。
スキューゼの裏路地にひっそりと置かれている酒場——。
そこは常に汚らしく飲み食いする無法者たちで席が埋まっており、酒に溺れてしまった彼らは毎日絶えずにトラブルを起こす。しかし、その無法者たちの中には”彼らの世話をする仕事”で来ている盗賊も紛れ込んでいる。
「うあー、いくら仕事でも、流石に酒飲めないのはキツいなぁ……」
「ハハハッ!17歳のおませのガキんちょにはまだ早いってこった!まぁ、偉い大人のおっさんの俺には堂々と酒を飲んでいいという特権があるけどなー!」
黒ズボンに立て襟のシャツと、ボーイッシュな印象を与える黒髪のショートボブヘアの少女が物欲しそうな目で見つめながら壁沿いのテーブルに突っ伏している中、向かいに座っている洒落た服を着た赤髪の男は豪快にビールを飲む。
ゴクゴクと男が喉を鳴らしている内に、少女はついにテーブルを手のひらで強く叩いた。
「んー!もう!なんでこんな時にあんたと同じ席になるんだよ!つか、何で来んだよ!傲慢なぼっち貴族は可愛いメイドさんと一緒に飲んでればいいじゃねーか!」
「ふぅ——、まだ分からないかねぇ——。俺はね。可愛い召使いどもより、もっと可愛い娘の方が心配なんだよ……」
赤髪の男はわざとらしく、物哀しい表情をした。
「白々しいんだよ……」
ボーイッシュな少女と赤髪の男は、それぞれ"アイーシャ"、"エリカリード"と言う。
アイーシャは17歳の少女であるが、前述で述べた"スキューゼの盗賊たち"の中で最年少の一員である。彼女は建物の中に侵入するにあたって、全ての分野に精通しており、それに加えて手先も物凄く器用であるので、常識では考えられない程の速さで侵入から脱出まで完璧に終わらせることができるので、凄腕の盗賊の集まりである"スキューゼの盗賊たち"の中でも屈指の実力者である。
実際、彼女は自分に唾を吹きかけた下級貴族に対して仕返しをした時、彼が風呂に入っている間を狙って彼の家に侵入し、多額のゴールドや服——、そして下着までも全て盗み出し、それら”全て”を彼の家の前にある川で濡らしてから、その場ですぐに干したという実績を持っている。そして、遂に見つかったのは窃盗を犯したアイーシャではなく、全裸で濡らされた服を公共の道の中で回収している下級貴族だった。
エリカリードは一見、いつもへらへらしている金持ちの遊び人の様に見えるが、実は皇帝や公爵に口出しを出きるほどのとても大きな力を持った貴族であり、"スキュラーゼの盗賊たち"がたった十人程度しかいない中で帝国中の裏社会を牛耳る事ができたのも彼の援助のおかげでもある。
アイーシャとエリカリードは9年前に知り合った関係だが、その時、彼女は捨て子であり、金目の物を持っている者から金を盗んで生活していることで生き延びていた。
しかし、ある日のこと——、エリカリードの財布をスリで盗もうとしたアイーシャは、”スキューゼの盗賊”のリーダーをしている友人から教わった盗人への対策を怠って無かった彼に、それを気づかれてしまったが、彼は一応善人であった為、彼女を衛兵に引き渡そうとはせず、”スキューゼの盗賊”に入れて貰えるよう、リーダーをしている友人を説得した。
それから、アイーシャはすぐに盗賊としての才能を開花させ、入ってから3年後には仕事を受けさせてもらえる程の実力になった。そして、エリカリードとは今のような関係に至っている——。
「ところでさー、今日は何の仕事でここに来たんだー?アイーシャちゃん」
「あぁ、それがボスがさ、今回だけはあんたにも言うなだって」
「ウソー!師匠も悲しいこと言うねぇ……」
「あたしもあんまり良く分かんないけど、理由聞いてみたら『ただ立って、目にだけ意識を傾けておけばいい。そして万が一、間違って耳に意識を傾けてしまったら、それを誰にも喋るな。俺にもな』って、ヤケに真面目な顔で言ってたよ」
エリカリードの顔からさっきのようなわざとらしい哀れみの表情が現れた。
「あぁ、それ、俺が思った通りの事だったら、マジで従ったほうがいいと思うぜ……」
「あーもう!気になるなぁ!」
「ハハハ!すぐに分かるって!すぐに——」
その時、酒場の扉が開かれた——。ならず者たちがマナーという存在を冒涜するかのように暴れ飲んでいる酒場の中に、黒くて清潔なスカートを履いた褐色肌の美女が現れる。その場違いかつ紅一点のような存在は、この場にいた全員の目を惹きつける。
殆どはその姿に見とれて口を止めたが、一部の者は何かを悟ると、すぐに目を背けた。アイーシャは美女を目つめていたが、それは見とれていたからではなく、絶望を感じたからだ。彼女は今、唖然としている。
「うん、すぐに分かったね。仕事が」
エリカリードは悪戯な表情をしながら、静かな声でアイーシャに囁いた。
「あの髪薄オヤジが……、そうならそうと早く言いやがれって——」
美女は突然の静寂を気にするまでもなく、まっすぐと無法者たちの間を歩く——。暫くした後、彼女は急に止まった。
「あー、触っちゃったね。きちゃない右手の中指で綺麗なお尻をモロにね。あだ名がエロ豚で有名な"触り屋スヴォザーグ"だから間違いない。」
エリカリードはまた静かな声で囁く。
「指一本で済むとか、なんて運のいい……」
エリカリードは両手を上げて首を横に振った。
「そこのあなた——」
美女は、太った体型のスヴォザーグに抑揚のない声で話しかけた。
「あぁ、なんだ?姉ちゃん」
スヴォザーグはご機嫌な様子で返事を返した。
「私の尻を触りましたでしょう」
「あぁ、触ったさ!それがどうかしたか?キレちまうのかい?」
「あのエロ豚が——、無茶しやがって……」
アイーシャは遠くから静かな声で呆れたように呟いた。
引き続き、美女は話す——。
「いえ、別に怒っているわけではありません。ただ、あなただけやるというのは不公平なので、こちらの頼みを聞いて貰えませんか?つまりは取引です」
「おぉ!いいとも!だが、ここじゃ流石に無理だから誰にも見つからない所で——」
「あなたの右手の中指をください」
「……は?」
スヴォザーグは唖然とする——。
その時——。美女はいきなり彼の右手首を両手でつかみ、自分の口元まで強く引っ張った。更に彼女は口を開き、その中に口元まで寄せた右手の中指を入れ、前歯で強く噛み付く。
——そう、恐怖を抱くまでに無表情で。
「うああああ!いてええええ!離せよおおおお!」
だが、そんな悲痛の叫びを言い切ることも彼女の取引の中では許されない——。
カチッ
その音と共に彼の体は、美女の口から離された。
彼女の口元から血が一筋漏れている——。スヴォザーグは息を荒くしながら、恐る恐る自分の右手をゆっくりと見た。
彼の手から中指だけが無くなっていた——。
「うあっ!あっ!うああああああああああああ!!」
スヴォザーグの叫び声が酒場中に響き渡る——。
「ありがとうございました。いい取引でしたよ」
美女はそう言いながら、口の中からちぎれたスヴォザーグの中指を取り出した——。と思いきや、それを床に捨ててブーツで踏みつぶした。スヴォザーグの中指だったものは最早原型を留めてない。
美女は辺りを見渡す——。すると、彼女の目に細い体型をした酒場の主が目に入った。
「お客様。できれば、当店が出したもの以外は、捨てずに持ち帰ってください」
何事もなかったかのように話す酒場の主に、美女は深々と頭を下げる。
「店を汚してしまい、申し訳ありませんでした。汚してしまったところは私が拭くのでお許しを——」
「感謝します」
美女はポケットからハンカチを取り出して、床についた血肉の塊を拭いた。
「い、いやー……、まさか今回は口でやるとはねー……」
「もうやだ、この人怖いって。ありえないよ……。それにあの人も何で平気なの……」
アイーシャは憂鬱な表情で下を向いている。
「まぁ、あの人はアイーシャちゃんたちの方も、”あの娘の方”も両方やった後で足を洗った人だからねー。
にしても、エロ豚ちゃんも知っていればなぁ……」
——この冷酷な薔薇が、虚無の森の暗殺者の一人娘"リアラ"だと……
「お久しぶりです。アイーシャさん」
「あっ、はい!仕事の話ですね!」
いつの間にか近くにいた褐色の美女——、リアラにアイーシャは笑顔を強引に作りながら、返事をした。
「その通りです。私の趣味のせいで仕事が遅れてしまいました。たいへん無礼でで申し訳ありませんが、早く行きましょう」
「あっ、はい。それは、そのー、その通りでございますねぇ——。ハハハ……」
そうして、アイーシャとリアラは共に酒場の二階への階段がある部屋の扉の中に向かっていった。
その時、アイーシャがこっそりとエリカリードの方を見ると、彼はウィンクしながら愉快に手を振っていた。
「アイツ、ぶっ飛ばす——!」
と、彼女は言いたかったが、近くに恐れ多いリアラが居るために言えなかった。
ハコキング No.11748271 2012年03月29日 02:47:13投稿
引用
扉の中へと入ったリアラとアイーシャは、階段を上がって二階に行き、そこからすぐ先にあった扉の前に立った。
「入る前にお友達であるアイーシャさんに一言言います」
「あぁ——、はい。なんでしょう——?」
アイーシャはまたしても笑顔を無理やり作った。
「既にあなたの組織のボスから聞いたでしょうが、あなたは我が暗殺組織"虚無への闇"と依頼者である、”ハンリッド”侯爵を監視するためだけに呼ばれたのです。ですから、万が一、あなたが依頼の情報を漏らしたり、故意に依頼の支障となる行為を犯せば、私はあなたを殺さないといけません。
余計なお世話だとは思いますが、私も数少ないお友達と呼べる存在を失うのは嫌なのでここで言います」
「やっ、やだなー。あたしがそんなマネをするわけ無いじゃないですかー。ははは」
「いいでしょう。では行きます」
リアラはドアを二回ノックし、その後間を置いてから今度は4回ノックをした。その後、「さぁ、契約を結ぼう。死の代償を支払いたまえ」と静かな声で呟く。
すると、ドアの鍵が開く音がし、扉が少し開いた。ドアのすき間からは、服装は立派だが気の弱そうな初老の男性が姿を見せた。
「"虚無への闇"の方か?それに——、"スキュラーゼの盗賊"の方も居るようだな。さぁ、中に入ってくれ……」
初老の男性はドアを開き、リアラとアイーシャをテーブルとカーテンが閉まった窓以外、何もない部屋の中に招き入れた。それから彼は扉を閉めて、鍵も閉めた後、リアラと中央のテーブルに向かい合って座り、アイーシャはテーブルと出口の扉と——、そしてカーテンのしまった窓が見渡せるように、部屋の隅に立った。
「遅れて申し訳ございませんでした。私は今回、あなたの依頼を主に担当する"虚無への闇"のリアラと申します」
「あぁ、会えて光栄だ——。私はカリティア帝国の侯爵にして、主に帝国の歴史博物館の管理を任されている"ハンリッド"という者だ。そして——、今回の件の依頼者でもある」
ハンリッドは暗殺者を目の前にして恐れているのか、弱々しい物腰で喋る。
「ところで、恐縮ながら聞かせてもらおう——、さっき、下から物凄い叫び声が聞こえていたんだが、何が起こったんだ——?」
「個人的な取引をしました。そして、その私の身勝手な行為のせいで遅れてしまいました事を、改めてお詫びさせてください。申し訳ございませんでした」
「いっ、いいんだ。そんなに謝らなくても……。そんなことより、依頼の話をしよう。といっても、ここでの話自体はすぐに終わる。重要なのは”虚無への闇”の一員であるあなたと直接接触できたということだ。
まず、あなたは私の依頼の手紙を見た——、あるいは君の主から聞いたと思うが、それは全部本当の事で本気で書いたものだ。報酬の50万ゴールドも、暗殺遂行の為に莫大な予算を用意することも、そして"ゼウス"が今回の暗殺のターゲットだと言うこともだ」
アイーシャはついに反応して、口をぽかんと開けた。
しかし、リアラはそれでも表情を全く変えない。
「つまり、侯爵様は我々に本気で屁理屈を考えさせたいのでしょうか?」
「いっ、いや、そんな話ではない!正真正銘、あなた達にしかできない仕事だ!ゼウスは本当に存在するのだ!」
リアラにとっては何気ない一言だったが、暗殺者である彼女を恐れているハンリッドは慌てて声を荒げてしまった。
「静粛に願います。侯爵様。この部屋に盗聴防止の魔法が掛けられていることは承知済みですが、万が一破られたら聞こえてしまいます」
「あっ……、そうだ——な」
「話を続けてください」
「——では、実際に神が存在するという証拠を見せよう」
ハンリッドは懐から、一冊の本を取り出し、そのページのうちの一つを開いた後、それをリアラに見せるようにテーブルの上に置いた。
本のタイトルには『13人の子供について』と書かれている。
「六人目の子供にして四男である、大いなる僧侶"アトラス"の項を見て欲しい。彼は確かに、ウロボロスからオーディンまでの"五大神"に仲間入りすることができなかったが、それは神——、ゼウスの反逆者であったから彼によってその座を妨害されただけなんだ。実力だけなら神の中に入れるだけの力がある。
実は"13人の子供"の中でアトラスだけが、人間の血と魔王アザトース以外の第三の血を持っておる。それは、"タイタン族の血"だよ」
「タイタン族というのは人間の前に世界を支配していたという?」
「その通り。あの巨人族はかつて、ゼウス率いるオリュンポスの神々と戦った一族だ。神聖な森がたくさん生い茂る西部地方に、1つだけ広大な荒地があるのは知っているだろう。そこは我が帝国によって立ち入り禁止区域になっておるが、その中にその戦いの傷跡があるんだ。実際に中に入ったらその足跡を見ることができるだろう。更に——」
「恐縮ですが、話が逸れているのでは——?」
「あぁ、済まない……。この類の話になると、つい夢中になって語ってしまうのだ。私の話に着いてこれる友人が少ないからな——。危うく、口にするのが危険な情報まで言ってしまうところだった。
だが、アトラスの存在を証明することが同じ意味を示すに違いない。だから、"虚無への闇"の一員である君に計画の詳細を書き記した手紙を渡そう。これを君の主に見せてくれ」
ハンリッドは一通の丁寧に封をされた手紙をリアラに手渡した。
「いいか、この手紙は君が思っている以上に価値のあるものだ。公爵や皇帝ですら取得が面倒な許可証を手に入れる手段にもなり得るからな。
さて、話は終わりだ。依頼を承諾するのならば、この手紙に従ってくれ」
「ありがとうございます」
リアラは席を立ち上がり、出口の扉へと向かっていった。
「行きますよ。アイーシャさん」
「あっ!はいぃ!」
ぼうっとしていたアイーシャは慌てて、リアラに付いていき、彼女と共に部屋を出る。
「これで——、いいんだな……」
部屋にただ一人残ったハンリッドは一人で呟いた。
ハコキング No.11760453 2012年04月04日 03:43:03投稿
引用
『中央地方』
帝国の中心地。黒髪か金髪の人種が多い。
気候は安定しており、殆どの場合、都市部から離れたところは一面平野となっている。
帝都:中央地方の首都。常に人で賑わっているが、東西南北から一花咲かせようと集まってくる者も多い。
更にその中央には皇帝が住む巨大な城がある。
『北部地方』
全体的に山地が多く、涼しい地方だが、それでも最北はとても寒く、その上、北にある敵国”共和国”の上陸・攻撃がいつ始まるか分からない状態にあるので人口は少なくなっている。
大柄で肌の白い人種がよく生まれるが、髪の毛の色は黒髪・白金髪・銀髪・赤髪だったりと種類が多い。ただ、銀髪と赤髪は珍しい。
ウルローゼ:ノルディスとカミラの住む、歴史ある村。北部地方の中で一番東にある。
太古にスサノオがヤマタノオロチから村を救ったという歴史は今でも語り継がれ、儀式となっている。
スキューゼ:北部地方の西にある、アイーシャとエリカリードの住む繁華街。だが、それ故に荒くれ者・無法者が沢山訪れており、”スキューゼの盗賊たち”や、その下部組織が被害を受ける店主からの依頼で彼らを追い出す事が多い。
また、エリカリードや”スキューゼの盗賊たち”が牛耳る帝国の裏社会の本拠地でもある。
フェイヴァリス:北部地方の中央より少し南にある北部地方の首都。そこには北部地方の地方王が住んでいる。
『西部地方』
自然を尊重するエルフたちの住む森が殆どを占めている地方。エルフたちの体格にはバラつきがあり、その体格によって役目を決める部族も多い。髪の毛の色は緑など、人間には殆ど居ない色が多いが、金髪・白金髪も多い。
『東部地方』
経済力や芸術性に優れた街。また、魔法も発達している。
人種としては小柄で、銀髪や金髪、茶髪が多い。
『南部地方』
最も面積の広い地方だが、その大半は砂漠に覆われている。だが、そんな中で生まれた古代文明にはとても優れたものがある。
人種としては褐色の肌と黒髪が特徴。