稚拙な文かもしれませんが楽しんでもらえたら幸いです




序章

ここは日本で5本指に入るとまで言われている学校。財閥の跡取り等が集まる、いわゆるお金持ち限定の学校だ。
大都市から離れ、周りを豊かな木々で覆われてる中に“これでもか”と言わんばかりの存在感を醸し出している広大な面積を持った学校である。
そんな学校の生徒にとある姉妹が居た。

姓を“星華院”と書いて“せいかいん”と読み、
名は姉が“沙耶”
妹が“咲希”

姉・沙耶(さや)は現在2年生、妹・咲希(さき)は1つ下の1年生である。

そしてこの2人──星華院姉妹はある理由で学校内ではちょっとした有名人であった。

それは……。


沙耶は学年内でも屈指のワガママ娘であるという事。
何か行事があった時、自分の気に入らない状況、または役回りになると「こんなの嫌!」あるいは「やりたくない」と一蹴し、周りに多大な迷惑を掛けるトラブルメーカー、また一種の厄介者と思われている。

そしてひねくれた性格が顔に表れているのか、他人を見下すような、自分が一番と思っているようなそんな目をしている。
しかし、容姿は非常に優れている。肩まで伸びた髪は輝くような金色で、それをツインテールにしている。雰囲気はどこか大人びていて、その高圧的な態度は一部の生徒には影から好まれている。

そんな沙耶だが、態度には出さずとも妹をとても大切に思っている。
つまり、ツン成分多めのツンデレなのである。



そして有名なのは姉だけではない。
妹の咲希もまた有名人なのだ。

ただし、それは姉とは対極、人柄の良さで名を知られている。
誰も立候補しなければ自分が立候補する等と言った、そんな人柄が学年から注目を集め、いつからか人気者となっていた。

また容姿も姉と対極であり、透けるような銀色の髪を腰まで伸ばし、朗らかそうな顔付きと雰囲気、そしてまだ成長過程と思われるようなスタイルをしている。
これまた、影にファンが居るという事は言うまでもあるまい。


そんな2人の放課後…
帰宅には勿論車が迎えにやって来る。
いつも通りの待ち合わせ場所、いつも通りの時間。
しかし、その日はいつもの時間になっても来ていなかった。

「あら?今日は何かあったんでしょうか?
ねぇお姉様?」
「まったく…。爺は何をやってるのかしら…」
「まぁまぁお姉様。爺やも若い体ではありませんから。こんな日もあるでしょう」

姉をなだめながらもそんな話をしている事5分、遠くから見慣れた車がやってきた。
「やっと来たわね…!」
「もう…、お姉様ったら本当に短気なんだから…」

そして2人の前にゆっくりと止まり、運転席のドアが開く。
「もうっ、遅いわよ!何をしていたのよ、じ…?」
爺、と言おうとして沙耶の言葉が止まった。

それはいつもの運転手とは違う風貌をしていたからだ。
「貴方は…?今日は爺やではありませんの?」
当然の疑問を咲希は聞いた。
そして見た目30歳前後の見慣れない運転手はこう言った。
「はい、執事長は急に体調を崩してしまい…。その代わりに私が迎えに参りました」
「あら…。爺やったら…。朝は元気にしていたのに…。爺やはどんな状態なのですか?」
「はい、普段の激務が祟ったらしく…。軽い体調不良らしいのですが、“安静にするべき”とドクターは仰っていました」
「爺やったらそんなになるまでやっていたなんて…。まぁそれならば仕方ないですね。よろしくお願いします、新しい運転手さん」
そんな丁寧な挨拶をしている咲希の横では、
「何でもいいから早くしてよっ!私は疲れたの!」
と、沙耶が駄々をこねていた。
「お姉様ったら挨拶くら…」
「いいから早くっ!」
「はぁ…」

咲希は呆れながらも2人は車に乗り込み、ゆっくりと発進し始めた。


2人の乗り込む車と普通の車の違いはまず何より広さだろう。足をゆったりと伸ばせる程の広さがある。
また菓子や飲み物も用意されていて、まさに至れり尽くせりだ。
そして目に付くのは、前部座席と後部座席の仕切りだろうか。
一応開閉する仕様になってはいるが、基本使われない。
必要最低限のコミュニケーションはモニターで行われる為だ。




10分程走った頃だろうか、事件は起きた。
突如、座席の下から白い煙のような物が勢いよく吹き出したのだ。
それは瞬く間に空間を覆っていき、2人は驚いている間に包まれてしまった。

煙の正体は即効性の睡眠ガス。
2人は抗う事も出来ず、あっという間に眠気に襲われた。
「いっ…たい…、これ…は…?」
「なん…な…のよ…!、これ…」
何を言おうが時既に遅し。2人は深い眠りに落ちていった。


そんな状況を安全圏から眺めていた運転手の口元には、うっすらと笑みが浮かんでいた。

更に車は進み、途中道を逸れた人目の付かない様な場所に別の車が待機していた。
それは今運転しているような豪奢な車ではなく、どこででも見るような普通のバンだった。

2人の乗せた車がバンの横に止まると同時に、バンから1人の男が現れる。
それに合わせ運転手も車から降りる。

「…対象は?」
「後部座席でオネンネしてますよ」
「よくやった。早速こっちに移すぞ」

そう、これは誘拐だ。

そして2人はバンに移される。
…ご丁寧に目隠しと後ろで腕の拘束も行った。
「こっちの車はどうしますか?」
「証拠になりそうな物だけ回収して後は放置で構わない」
「分かりました」

5分後…
回収作業も終わり、2人の男はバンに乗り込む。
そして走り始めた。

都市部から離れていたというのが仇となり、その状況を知る者は誰も居なかった。


これから襲いかかる事を何も知らない姉妹を乗せたバンはただただ走り去っていった…